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第4話
❖ ── ✦ ── ❖
第4幕 羽鳥の怒り
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「柳瀬――吉野に近づくな!」
玄関から響いた声は、刃みたいに鋭かった。
空気が一瞬で張り詰める。
部屋の隅々にまで、羽鳥の存在感が満ちていく。
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優の肩がびくりと止まった。
それでも、すぐに口角をゆがめて笑う。
「……結局、羽鳥かよ」
その笑みは、どこか悲しげで。
けれど目の奥は笑っていなかった。
「また来る」
それだけ言い残し、ゆっくりと背を向ける。
ドアが閉まる音は、不思議なほど静かだった。
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「羽鳥! 大丈夫だ、何もされてないから!」
千秋は慌てて声を上げた。
必死に、宥めるように。
けれど羽鳥は視線を逸らさず、鋭く射抜くように千秋を見た。
「……お前は危機感がなさすぎる」
その低い声は、叱責なのに、胸の奥を揺らす。
「俺は、お前のなんなんだ」
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心臓が跳ねた。
――え?
――恋人……じゃ、ねーの?
頭の中で言葉は浮かぶのに、喉が塞がれて声にならない。
汗がにじむ。唇が震える。
「……」
千秋は結局、沈黙しか返せなかった。
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羽鳥の目が細められる。
長い沈黙のあと、冷たく吐き捨てるように。
「……もういい」
背を向ける。
靴音が床を叩き、玄関のドアが再び開く。
そのまま羽鳥は出ていった。
残された千秋の耳に、冷たい余韻だけが響き続ける。
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❖ 次回予告 ❖
羽鳥の冷たい言葉に、千秋の心は揺れる。
孤独の夜、震える手で選んだのは――彼の元へ。
第5幕「千秋の葛藤」/第6幕「震える手と本音」
📅 8月31日21時更新予定!
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