6 / 10

第5話

❖ ── ✦ ── ❖ 第5幕 千秋の葛藤 ❖ ── ✦ ── ❖ 玄関の扉が閉まった音が、やけに重たく残った。 シン……と静まり返った部屋の中。 残されたのは俺一人だけ。 ⸻ 毛布を握りしめる手が震えている。 指先が冷たくて、体温がどんどん奪われていくみたいで。 「……っ」 耳の奥に、さっきの声が繰り返し響く。 ――“俺は、お前のなんなんだ” ⸻ 目をぎゅっと閉じても、あの低い声が離れない。 胸の奥に突き刺さって、疼いて、動けなくさせる。 「……あいつは、強引で……」 言葉が勝手に零れてくる。 「すぐ怒るし……嫉妬深いし……」 声が掠れる。 それでも口にしないと、胸が潰れそうで。 「でも……」 喉の奥で、言葉が止まる。 その先を言ったら、戻れない気がした。 ⸻ 「……あーーーもう!!」 叫んだ声が虚しく跳ね返る。 考えれば考えるほど、答えが遠ざかっていく。 「考えたって……しょうがないだろ……!」 頭をぐしゃぐしゃにかきむしって、立ち上がる。 息が荒い。 胸が痛い。 じっとしてなんかいられなかった。 ⸻ 玄関を飛び出す。 夜風が頬を打つ。 涙が乾いて、冷たさだけが残る。 足は、気づけば自然に向かっていた。 ――羽鳥のマンションへ。 ⸻

ともだちにシェアしよう!