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第5話
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第5幕 千秋の葛藤
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玄関の扉が閉まった音が、やけに重たく残った。
シン……と静まり返った部屋の中。
残されたのは俺一人だけ。
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毛布を握りしめる手が震えている。
指先が冷たくて、体温がどんどん奪われていくみたいで。
「……っ」
耳の奥に、さっきの声が繰り返し響く。
――“俺は、お前のなんなんだ”
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目をぎゅっと閉じても、あの低い声が離れない。
胸の奥に突き刺さって、疼いて、動けなくさせる。
「……あいつは、強引で……」
言葉が勝手に零れてくる。
「すぐ怒るし……嫉妬深いし……」
声が掠れる。
それでも口にしないと、胸が潰れそうで。
「でも……」
喉の奥で、言葉が止まる。
その先を言ったら、戻れない気がした。
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「……あーーーもう!!」
叫んだ声が虚しく跳ね返る。
考えれば考えるほど、答えが遠ざかっていく。
「考えたって……しょうがないだろ……!」
頭をぐしゃぐしゃにかきむしって、立ち上がる。
息が荒い。
胸が痛い。
じっとしてなんかいられなかった。
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玄関を飛び出す。
夜風が頬を打つ。
涙が乾いて、冷たさだけが残る。
足は、気づけば自然に向かっていた。
――羽鳥のマンションへ。
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