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執着(4)

城門が開き、赤いマントを靡かせて現れたクラリスに、誰よりも早くステファンが駆け寄ってきた。 「クラリス様……!」 声は震えていた。足をもつれさせながらも、まっすぐにクラリスへ飛び込む。抱き寄せる腕に力がこもる。父譲りの大きな体から響く鼓動が、子どものそれではなく、必死に守ろうとする男のものに思えて、クラリスは息を飲んだ。 「……ご無事で、本当によかった」 吐息が頬をかすめる。その唇が何か言いたげに開いた時だった。 「クラリスよ」 背後から重い声がかかり、兵士たちが一斉にひざまずいた。振り返れば、闇色の瞳をしたヴィクターが立っている。その視線は、ステファンとクラリスを交互に鋭く射抜いた。 「……よく戻ったな」 クラリスが離れようとしても、ステファンは腕を緩めない。その様子を見たヴィクターの眉間に深い皺が刻まれる。 「後で話す」 それだけ残し、去っていく背中は燃えるような怒気を孕んでいた。 * クラリスが執務から解放されて部屋に戻ると、窓辺に佇んでいたヴィクターが、ゆっくりと振り返る。その顔には、疲れと苛立ちが入り混じっていた。 「……無事で何よりだ」 「遅くなって申し訳ございません。ただいま戻って参りました」 報告の言葉を口にした途端、顎を掴まれ、距離を詰められる。 「ステファンが、おまえを抱きしめていたな……まるで伴侶のように」 クラリスは慌てて首を横に振る。 「いいえ。ただ感情が昂っていたのだと思います」 「違う。あれは獲物を狙う目だった。我には分かる」 低く唸るような声とともに、クラリスの首筋に噛みつくような口づけが落ちる。鋭い痛みと共に、服では隠せぬところに深紅の痣が刻まれた。 「おまえは我のものだ。他の誰にも触れさせぬ」 抱きしめる腕は、鎖のように重くて硬い。クラリスは抗うことなく、その胸の鼓動を聞いていた。嫉妬と恐れが入り混じっていることを感じながら。 ヴィクターが瞳の中を覗き込む。 「迷いがあるぞ」 今日だけで何度も心が揺れた。エルネスト、ベルネア、ステファン……。自分の帰る場所は一つだけのはずなのに。 「おまえの居場所がどこなのか、思い出させてやろう」 ベッドに押し倒されて服を脱がされる。覆い被さる体が、今日は一段と重たい。むしゃぶりつくように、全身をくまなく愛撫され、クラリスは何度も声を上げた。それでもヴィクターは満足しない。額に滲む汗。その指先からは焦りも感じられた。 「我は居ても立ってもいられなかったのに、おまえは……」 何度も肌を甘噛みされる。痛みに顔を歪めてもお構いなしだ。 「いっそ、おまえを喰ってしまいたい。これで永遠に我のものだ」 そう言って、ヴィクターはクラリスの一物を口に含み、カリッと歯を立てる。 「イヤ……陛下、イヤ!」 あまりにもの恐怖に、クラリスは黄色い液体を漏らしてしまった。それを、ヴィクターは“甘露だ”と歓びながら、美味そうに舐め取る。 「意地悪が過ぎたようだ……」 荒い息を吐くクラリスを見下ろして、ヴィクターは笑う。黄色い液体で汚れたその顔を、クラリスは舌でペロペロと舐めた。 「本当は、こんな真似をしたくない。我の宝物なのだからな」 髪をかき上げる手のひらは優しい。初めてクラリスは人心地ついたような気がした。大きな顔が近づき、視界すべてがヴィクターで満たされる。 「……おまえだけだ」 低く、押し殺した声。 「誰も本当の我を知らぬ。恐れ、従うばかりで……真実を見ようとはしない」 クラリスは何も答えられない。ただ、心の奥底から吐き出された言葉が胸に突き刺さる。 「だが、おまえは違う」 ヴィクターの眼差しが揺れる。 「痛みに耐え、立ち向かい……それでも、我のそばにいてくれる」 声が震え、抱きすくめる腕に力がこもる。 「……失いたくはないのだ」 必死にこらえていたものが、堰を切ったようにあふれ出て、クラリスの顔を濡らした。 「頼む、クラリス。我のそばにいてくれ!」 自信を失くしたヴィクターの表情が哀れで、クラリスは思わず自分から唇を重ねてしまう。 「私はどこにも行きませんよ。陛下」 甘えるように縋ってくる姿に、“この方も弱いのだな”と、慈しむように抱きしめるのだった。

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