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混乱(2)
久しぶりにアジトへ戻ったクラリスを、ティアをはじめ、山賊の誰もが歓迎した。しかし、その背後にステファンの姿を見つけると、警戒心を露わにする。
「城が襲われたんだ。私がすべての責任を負うから、手出しはしないでくれ」
そう言って、クラリスは仲間たちを牽制する。ステファンは所在無げに俯いた。
「“責任を負う”って言ったな。じゃあ、今すぐにでも負ってもらおうじゃねぇか」
エルネストがクラリスの肩を掴む。それが何を意味するのか、クラリスは痛いほど分かっていた。
「待て。クラリス様をどうするつもりだ!」
問いかけるステファンを山賊たちが遮る。クラリスは引っ張られるまま、寝床に連れていかれた。
仕切り代わりの幕が下ろされるなり、エルネストはクラリスに覆い被さってきた。
「クラリス。俺のクラリス。ずっと、この時を待っていたんだ」
唇が重なる。体の匂い、重み。すべてが懐かしいはずなのに、心が動かない。それくらい時は経ち、クラリスはヴィクターに身も心も授けていた。せめて目を閉じ、声を押し殺して抵抗する。
乱暴に服を脱がされ、裸にされる。エルネストも裸になった。皮膚と皮膚が触れ合う。たぎる一物を太ももに押しつけられて、クラリスはなおのこと、身を固くした。それでも、敏感なところに指が触れるだけで甘い吐息が漏れてしまう。
きっと、ステファンには聞こえているだろうし、それが何を意味するのか分かっているのだろう。時々、「やめろ!」という叫び声と、身を捩る音が聞こえてくる。
(王子、私を許してください……)
エルネストの一物が侵入してくる。クラリスの目から涙がこぼれてきた。
「これだ!俺の愛したクラリスだ。俺の大好きな形……」
エルネストは性急に腰を動かす。ただ、溜まった欲望を吐き捨てるだけの行為。クラリスを気持ち良くさせようとは、微塵も考えていない。ヴィクターとは雲泥の差だった。
「おまえも俺に抱かれて嬉しいだろ?」
絶頂の時が近づいているのが、声の震えで分かった。置き去りにされていく自分の体。クラリスは心の中で叫んだ。
(私は貴方の稚児ではない!)
やがて、エルネストの動きは止まり、クラリスの中にたっぷりと精が吐き出される。そして、大きく息をつくと、体を離して大の字になった。胸の中に渦巻く失望。まるで、ヴィクターに戦いを挑んでからのすべてが無かったかのようだ。
幕の向こう側で、すすり泣く声が聞こえる。慌ててクラリスは服をまとい、寝床を出た。そこには、山賊に支えられて泣き崩れるステファンがいた。クラリスを見て、狂ったように声を上げる。
「王子、私は大丈夫です。だから、落ち着いて」
「イヤだ……。僕のクラリス様が汚されるなんてイヤだ!」
自分のために泣いてくれるステファンが、申し訳ない反面、有難くもあった。優しく抱き寄せて安心させる。
その様子を、やはり服をまとったエルネストが見ていた。
「つまらねぇな……」
その顔には不満がありありと浮かんでいた。
*
その夜。クラリスは、ステファンが眠りにつくまでずっとそばにいた。山賊たちの悪意から庇うように。ステファンはクラリスの手を握って安心している。
(こんな辛い思いをさせてしまうなんて……)
けれども、あのまま壇上に留まっていたら、今頃はもっと危険な目に遭っていただろう。これが運命なら守り抜かなければいけない。クラリスはあらためて心に誓うのだった。
本当はずっと寄り添っていたかったが、二人をじっと見つめる眼差しがある。クラリスはためらいがちにその場を離れ、自分の寝床に入った。
すぐにエルネストが追いかけてくる。横になるのも惜しんで抱きしめてきた。
「私は逃げませんよ」
そう言っても、腕が緩むことはない。いつのまにか、首元に何か結び付けられる。それは、かつてヴィクターが返してしまったペンダントだった。
「これ……」
「ああ、やっぱりおまえにお似合いだ」
暗闇の中でも、かすかな光を受けて光る緑色のペンダント。それは、エルネストがくれたお守りであり、鎖でもあった。
「今の私にふさわしいでしょうか……」
「もちろんだ。これをつけてくれると俺は嬉しい」
唇が重なり、そのまま寝床に押し倒される。感極まったエルネストの瞳。
「おまえに挿れたい」
その言葉に、クラリスは気怠げに服を脱いだ。エルネストが鼻息荒く、裸になる音が聞こえる。
「坊ちゃんは寝ているんだ。遠慮なく声を出していいんだぜ」
無神経な言葉に苛立ちを感じながらも、クラリスはエルネストの挿入を許した。先の見えない未来に、やりきれない思いを抱きながら。
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