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復興(1)
雪解けが進み、春の気配が大地を覆い始めた頃。鬼の国の城跡では、復興作業が本格化していた。クラリスはステファンたちと共に、瓦礫にまみれた城内で汗を流していた。
作業の指揮はロボアールが執り、山賊や民の有志たちが手を貸してくれていた。エルネストやティア、セイドも黙々と働いている。重たい瓦礫を運ぶたび、ロープが軋み、担ぎ棒が大きくしなった。
「これだけの瓦礫を作り出すなんて、坊ちゃんは本当にすげぇな」
ティアが、感心しているのか皮肉っているのか分からない調子で呟く。
「……申し訳ない」
ステファンは、自分が壊した責任を感じているらしく、誰よりも率先して動いていた。
変身さえできれば、一瞬で瓦礫など吹き飛ばせるかもしれない。だが、それは自分の意志では制御できない力だった。何より、クラリスを失ったと思い込んだ時の衝動だった。
「案外、クラリスの兄貴がまた酷い目に遭ったら、鬼に変身したりしてな」
ティアが茶化すように言うと、すかさずエルネストがクラリスの肩を抱き寄せて見せつける。
「たとえば、こんな感じか?」
「や、やめてください!」
クラリスは驚いて体を押し返した。ステファンの顔が一瞬こわばり、視線を逸らす。その空気を読んだのか、ロボアールが咳払いした。
「遊んでいる暇はないぞ。急がねば、戴冠式に間に合わぬ」
「はーい!」
間延びした返事と共に、全員がそそくさと作業に戻った。
*
昼の休憩。城下町の食堂から、パンと干し肉の差し入れが届いた。陽気な笑い声が、かすかに城跡まで届いてくる。
クラリスはステファンの隣に腰を下ろし、手にしたパンを齧った。
「王子、無理なさらないでください。今朝からずっと動きっぱなしじゃないですか」
「大丈夫です。このくらいでへばっていたら、国王なんて務まりませんよ」
笑ってみせる顔は埃まみれだったが、視線はまっすぐだった。クラリスはその成長ぶりを頼もしく感じる。
「むしろ僕は、クラリスの方が心配です。……お身体、大事にしてください」
「ありがとう。私も、戦士になった時に鍛えられたからね」
ふと、昔のことを思い出す。稚児だった自分が、戦場に立つまでの過酷な日々。あの頃は、誰にも頼らずに自分の力で立ち上がろうと必死だった。
「……あの時のクラリスを、僕は見ていました」
ステファンがぽつりと呟く。
「憧れていたんです。強くて、怖いもの知らずで、誇り高くて。ずっと、あんな風になりたいと思っていました」
クラリスは少しだけ驚いたように目を瞬かせた。まさか、自分がそんなふうに見られていたなんて。
その時、先に食事を終えたロボアールが声をかける。
「休憩は終わりじゃ。午後の作業に取り掛かろう」
クラリスは、ステファンにもう少し休むよう勧めたが、断られてしまった。
「僕は、城を一刻も早く立て直したいのです」
「なぜですか?」
「それは、僕の居場所を作るため。そして……」
そこまで言いかけて、ステファンは顔を赤らめる。急に立ち上がると、作業に戻ってしまった。
クラリスは黙ってその背中を見つめる。少年だった王子が、今や一人の男として歩き始めている。その歩みに応えなければいけない──そう思うのだった。
王子が瓦礫を運ぶ姿に心を動かされたのか、日ごとに手伝いに来る民の数も増えていった。服を埃で汚し、額に汗して働く姿に、目を潤ませる者もいる。遅々としながらも、確かな歩みで、鬼の国の復興は進んでいった。
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