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第17話 ハッピーエンドのその先で②※R描写
王都へ戻ってしばらく経ったある日。
レオが正式に執事に任命されたその夜、俺は自室へ彼を呼んだ。
「レオ。……話がある」
静かに告げると、彼は一礼し、迷いのない足取りで部屋へと入ってくる。
窓から差す月明かりだけが、室内を淡く照らしていた。
俺は、ソファに腰かけたレオの隣へ座り、少しだけ言葉を探す。
そして、深呼吸をひとつ。
目を逸らさずに、ゆっくりと話し始めた。
「……レオ、よく聞いてくれ。……信じてもらえないかもしれないけど、実は……俺は、本当は、別の世界から来た人間なんだ」
レオの目がわずかに見開かれる。だが、口を挟まず、静かに続きを促してくれる。
「リュシアンに、まるで生まれ変わったような気でいた。けど……違った。
実際は“元の俺”の身体がまだ生きていて、魂だけがこの世界に来て……リュシアンとして在っていただけにすぎなかった」
レオは黙っていた。ただ、沈黙のまま、俺の言葉をすべて受け止めようとしてくれていた。
「気づいたら……元の世界で、機械に繋がれた自分の身体を見下ろしていた。
魂は、やがてそこに戻る運命だったんだと思う。
でも──それを“終わらせる”決断ができたのは、お前のおかげだ」
胸の奥がじわりと熱くなる。
「何度も俺を呼び戻してくれた。
何度も信じて、手を伸ばしてくれた。
その記憶が、魂に刻まれて……俺に、なにをすべきかを教えてくれたんだ」
声が震えていた。
今さら、こんなふうにしか語れない自分が、情けなくて仕方なかった。
「俺は……自分の意思で、機械を止めてきた。
“前の俺”を、きちんと終わらせてきた。
でも……それでも俺は、本当のリュシアンじゃない。
この世界に初めからいた兄さんとは、少し違っていたかもしれない」
レオの顔を、どうしても見られなかった。
恐ろしくて、情けなくて、ただ膝の上で握りしめた拳だけを見つめていた。
それでも、言わなければいけなかった。
この想いだけは、どうしても。
「……今まで、ずっと言えなくて……お前を騙すようなことをして、本当に──」
言いかけて、顔を上げた瞬間。
レオの唇が、そっと俺のそれを塞いだ。
驚きで目を見開いた俺を、彼は何も言わず、静かに、そっと抱きしめる。
「……レオっ……!」
「俺にとって、本物の兄さんは、貴方だけです」
優しい声だった。
言葉よりも、その体温の方が胸に刺さってくる。
知らないうちに、涙が頬を伝っていた。
「レオ……」
「もう、どこにも行かないでください」
「……うん」
そう答えたとき、俺の中でようやく“すべて”が終わったのだと、心から思えた。
レオの胸の中は、やわらかくて、あたたかい。
ベッドの上で抱き寄せられたまま、こうして眠れたらと思ったのに──
眠気は、どうしてか遠のいていくばかりだった。
心は満たされてる。安らいでる。
それでも身体の奥に、ぽつんと、渇きのようなものが残っていて。
「……レオ」
小さく囁くと、腕の中の彼が目を開けて、優しく微笑んだ。
「眠れないですか?」
「うん……なんか、こうしてると、逆に……」
「……嬉しいです。でも、困りましたね」
レオの指が、俺の頬を撫でる。
その手つきは、守るための優しさじゃない。
俺を求めてやまない男の指だった。
それだけで、胸の奥が甘く疼いてしまう。
「……さっきまであんなに優しかったのに」
「今も、優しくするつもりですよ。……ただ、もう少し深いところまで……ね?」
耳元で囁かれて、背中にぞくりと快感が走った。
ああ、やっぱりだ。
俺はこのひとが、好きで、愛しくて──
触れてほしくてたまらない。
レオが布団をゆっくりとずらして、身体の上に覆いかぶさる。
その動きすらも丁寧で、慎重で、なのにやっぱり、どうしようもなく──
「……兄さん、こっちを見て?」
顔を上げると、まっすぐな瞳が、俺だけを見ていた。
「好きです。何度伝えても、きっと足りないくらい」
そんな言葉、もう何十回も聞いてるはずなのに、また胸がぎゅっとなる。
「俺も……好き、レオ」
言い終わる前に、くちびるが重なった。
静かな熱が、深く深く沈んでいく。
レオの舌がゆっくりと侵入してきて、絡め取るように優しく動く。
味わうように、慈しむように──まるで、俺の心ごと愛してくれているみたいだった。
気づけば、身体は火照っていて、肌の接触に敏感になっていた。
レオの指が、喉元を撫でたとき、微かに身体が強張る。
……何度も、そこを狙われて、殺された記憶が──
首元に触れかけたその指が止まる。
俺の目に、レオの表情が映った。驚き、悲しみ、そして……悔しさの入り混じった目だった。
「……ごめんなさい」
ぽつりと、吐き出されるような謝罪の声。
それがあまりに切実で、俺の胸がちくりと痛んだ。
「もう……酷いことはしません。
今夜はただ、あなたを、気持ちよくしてあげたいだけなんです」
すごく静かな声。
なのに、その奥に、狂気じみた熱が潜んでいるのを知っていた。
“気持ちよくしてあげたい”なんて言いながら、きっと、壊れるほど求めてくる。
……わかってる、知ってる。何度もそうされた。何度も――何度も、抱かれて、壊されて。
だけど。
「……それでもいい」
俺は目を伏せたまま、彼の手を自分の首へ導いた。
「触れて。……レオじゃなきゃ、もう……俺は、駄目だから」
触れられた場所から、じん、と熱が広がっていく。
レオの指は、信じられないほど優しかった。
けれど、時間をかけるほど、その指は執拗に、熱を孕んでいく。
「……ここ、好きだったんですよね。反応、変わってない」
くすりと笑って、唇が俺の喉を這う。
唇が首筋を辿り、鎖骨へ、そして喉元をしゃぶるように啄んでいく。
そのすべてに、ゆっくりと、だが確実に痕が刻まれていく。
「……は、ぁ……やっぱり……知ってるんだな、全部……」
「ええ、もちろん。あなたの体は、すべて俺のものですから」
囁きとともに耳朶を噛まれ、腰が跳ねる。
ゾクリとした快感が背骨を走り抜け、思わず彼の腕にすがった。
「レオ……」
唇が触れる。優しく、深く、けれどすぐに、欲が滲みはじめる。
舌が舌を絡め取り、濡れた音がやけに鮮明に響く──まるで、口づけすら支配の一部のようだった。
「気持ちいいですか? もっと感じて、兄さん。……あなたの全部、俺が溶かしてあげます」
指が肌をなぞり、慎重に、けれど的確に奥へと触れてくる。
過去の記憶が痛みのように走るはずなのに、今は違った。
怖さと同時に、求めている自分が確かにいた。
「……ん、や……レオ、もう……ッ」
「大丈夫。もっと気持ちよくなりますから」
彼の言葉に、体が震え、心が揺れる。
指が熱を注ぎ、吐息が耳元を撫でる。
そのすべてが、今の“レオ”のものだと、体が理解していく。
「……そこ、もう……ッ、なんで……」
喉奥から零れたかすれた声に、レオが微笑んだ。
その微笑みには、どこか哀しげな慈しみすら宿っている。
「言ったでしょう? 何度もあなたに触れて、確かめたからですよ。何度も……世界を越えて」
囁きながら、レオの指先が喉元から腹部、脚の付け根へと、ためらいもなく滑り落ちていく。
その動きはあまりにも正確で──
まるで、“この世界の俺”に初めて触れているとは思えないほどだった。
「ここと……ここを同時に撫でると、身体が震える。少しだけ強く押せば、声を我慢できなくなる。……ね?」
言葉と同時に指が動く。
「ひ、あっ……!」
脳が焼けつくような電流が、身体の奥を走り抜ける。
ただの偶然なんかじゃない。的確すぎる。
これまでのどの快楽とも違って──まるで、“答え”を与えられているようだった。
唇が耳元に触れ、甘く囁く。
「あなたの身体のどこが敏感で、どうされたいか。何度繰り返しても変わらない。変わらなかった。……あなたが誰であっても、俺の愛した人である限り」
数多の時間を経て、繰り返された愛。
その中でレオは、リュシアンという存在のすべてを、記憶と身体の奥底にまで、焼きつけてきたのだ。
「あなたの声も、表情も、何度も見て、聞いて……もう、全部わかってるんです」
そう言って、深く、深く、身体の奥へと沈み込んでくる。
初めて味わうような快感に震えながら、
でもどこか懐かしい“答え”を、確かに感じ取っていた。
「気持ちいいですか? 兄さん。……もっと感じて。あなたの奥まで、俺の熱で溶かしてあげます」
名を呼ばれるだけで、呼吸が乱れる。
快楽が波のように寄せては返し、理性の岸辺を削っていく。
もう、どこにも逃げられない。
それが、どうしようもなく、甘くて、怖かった。
「レオ……もう、いっぱい……なのに……」
「全部受け止めてください。私の愛を。
……今度こそ、あなたを泣かせるのは、気持ちよくてどうしようもないときだけにします」
その言葉が、俺の胸を貫いた。
涙が溢れても、それは痛みのせいじゃない。
「……レオ、もう……やだ、こんな、の……ッ」
俺は息を上げ、声を震わせながら、レオの肩に爪を立てた。
全身が熱い。
さっきから、ずっと、身体の奥まで掻き乱されて、
気が狂いそうなほど、繰り返し達してる。
なのに──レオは止めてくれない。
いや、やめられないんだろう。俺のことになると、いつも……。
「駄目ですよ、まだ、足りない……兄さんの、もっと奥まで、俺を覚えさせて」
レオはそう囁きながら、柔らかな声で俺を貫く。
体が跳ねる。
ずる、と熱いものがまた奥を擦り上げた。
そこは、何度も触れられて、もう痛くはなかった。
それどころか。
「あっ、んっ、や……あ……ッ、ふっ……!」
声が零れ落ちる。喉が、唇が震えて、どうしようもなく反応してしまう。
レオの指が、中心の敏感な部分をなぞってきた。優しく。
でも、その愛撫の奥には、強い支配欲と執着が隠れている。
「……そんな顔、他の誰にも見せちゃだめです。あなたの全部は、最初から私だけのものなんですから」
「ひっ……あっ、やだ、そんな……ことっ……!」
俺の腰が浮いた。
レオの動きが止まらない。緩急をつけながら、俺の奥を、同じ角度で何度も穿たれて……身体のほうが、レオを覚えてしまいそうだった。
「あっ、ふ……ぅ……! ま、って……そんな、奥……!」
脚が勝手に震える。
何度も迎えたはずの絶頂なのに、身体はもう、止まってくれない。
すでに限界を越えているはずなのに──レオの動きは、さらにその奥を求めてくる。
「ここも、好きでしたよね。弱いくせに、すぐ締めつけて……」
わざとらしく舌を這わせながら、敏感な部分を執拗に責め立てる。
「俺に刻み込まれてます。どの角度で突けば、どの順で触れれば、あなたが壊れるか。……全部、繰り返して覚えた」
その指が、舌が、奥を知っている。
どこが気持ちよくて、どこで耐えられなくなるのか。
どれだけ揺らせば、喉から嗚咽が漏れるのか──何もかも、すでにレオの中に“記録”されていた。
「ふ、あああっ……! レオ、もう……だめっ、壊れちゃ……っ」
「壊れてください。何度でも。俺が、全部拾って、またあなたを満たしますから」
息が、熱が、理性が──全部、塗りつぶされていく。
その奥を、限界のさらに向こうまで抉られながら、何度も名を呼ばれる。
レオの声が脳を犯し、快感が神経を焼き尽くす。
耳元で、そっと息を吐かれた。
「気持ちいいでしょう……? 俺が壊した場所を、今、俺が愛してるんですよ」
ゾクッと背中を電流のような快楽が走る。
こんな台詞、まともに受け止められるはずがないのに──
俺はもう、抗えなかった。
「レオ、レオ、レオ……っ、や、やだ……好き……!」
思わず、叫ぶように、彼の名前を何度も口にする。
レオが、そこでピタリと動きを止めた。
「……好き?」
その声には、ほんのわずかに震えが混じっていた。
俺は自分の腕を伸ばして、レオの背を抱きしめる。
「……何度でも、抱かれていい……もう、逃げない……だから……最後まで、俺を、壊して」
沈黙のあと──レオが、熱に浮かされたように、激しく奥まで突き上げてきた。
「……全部、俺のものにします。
何度も、繰り返して、あなただけを求めた……
もう、二度と、離しませんから……!」
腰が何度も打ちつけられて、肌が打ち合う音が室内に響く。
レオの手が、俺の髪をぐしゃぐしゃに撫で、首筋を口づけ、背中を抱きしめてくる。
痛いほどの愛情が、欲望が、心と身体に刻まれていく。
「……リュシアン、愛してる、ずっと、貴方を……」
その声に、涙があふれた。
どんな過去も、どんな傷も──もう、どうでもよかった。
「……俺も……レオ以外、もういらない……!」
強く、深く、熱い交わりが繰り返されていく。
最後の絶頂を迎えるときにはもう、身体が痙攣して、指先すら震えて動かせない。
それでも──レオは、俺の名前を何度も囁きながら、優しく、優しく、奥を満たしてくれた。
「……俺……もう、レオじゃなきゃ……生きてけない……」
「ええ。だから、何度でも、あなたを溺れさせます。
快楽でも、愛でも、俺だけで──あなたをいっぱいにしてあげます」
熱に包まれ、涙に濡れながら、俺たちはまたひとつに溶けていく。
何度も繰り返したはずなのに、今夜が──
本当に、最初で、最後の“救い”だった。
気づけば、もう言葉すら交わせずにいた。
ただ、熱の名残りだけが体内に残って、微かな震えとともに心を満たしていた。
……静かだった。
繋がれたままのぬくもりが、やがて夢のように溶けていく。
レオの胸に顔をうずめながら、俺はそっと目を閉じた。
たった今、確かに“還ってきた”のだと、遅れて実感していた。
***
朝。
窓の外に、かすかな光が差している。
レオの腕の中で目を覚ました俺は、ぼんやりと彼を見上げる。
「……おはよう、兄さん」
彼は優しく微笑み、俺の髪に口づける。
「気持ちよかったですか?」
俺は、目を細めて答えた。
「……殺されるよりは、こっちのが、ずっといい」
「それは……光栄です」
2人して、くすりと笑った。
肌を重ねるよりも、ずっと深く、俺たちは結ばれた気がした。
これからも、何度だって狂って、何度だって赦して、それでも互いに溺れていく。
それが、俺たちの愛のかたちだった。
『ラストラビリンス』の世界では、これからさらなる試練が待ち受けている。
悪魔崇拝組織に操られた、俺の長兄──この国の第一王子、ヴェルガルド兄さんとの戦い。
そして、その背後に潜む“闇の根源”を討ち滅ぼすという、避けられない宿命が。
「俺たちの戦いは──これからだ!!!」
思わず拳を突き上げて叫んだ俺に、隣のレオがきょとんと目を瞬かせた。
「……? どうしたんですか、兄さん」
「……あ、いや。ちょっと、言ってみたかっただけ」
「……ふふ、可愛いですね」
「今の要る!?!?」
肩をすくめるレオに突っ込みながらも、俺は笑った。
それでも──俺には、レベルもステータスも、好感度すらもすべてがカンストした、完凸済み最強のEXR《エクストラレア》執事が隣にいる。
たとえどれほど深い闇に呑まれようと。
この手を、何度でも引いてくれる彼がいる限り──
俺は、何度でも立ち上がれる。
この物語の結末を、必ず自分の手で選び抜くために。
そしてきっと、彼となら。
その先の未来すらも、きっと──
塗り替えていける。
俺は、決して負けない。
「さあ、行こうか。レオ」
「はい。どこまでも、兄さんの傍に」
たった一人の執事と共に、
俺は今日も、物語の続きを歩き出す。
TRUE END:To be continued.
これからの物語は、二人で紡いでいく──。
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