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恋人はツンデレ(デレ抜き) 3
どう考えてもそちらが当たりだろうと塞ぐ気持ちを大きくため息とともに吐き出したら、ミャーがすぐに態度を改めた。
「ごめん、悪かったって。いじめすぎた。ワンチャンそういう可能性もあるかもしれないしな。ほら、今日こそツンデレのデレの部分が見れるかもしれないし。ダメだったら俺が代わりに祝ってやるから」
俺が目に見えて落ち込んでいたからか、ミャーがフォローに回ってくれる。
「ミャーが祝ってくれるの?」
「でっかいケーキ買って、でっかいステーキ買って、蛍の欲しいものプレゼントして、よしよししまくる」
「それ全部俺が食べるの?」
「もちろん。太りたくないし」
「あれ、もしかしてこのフラペチーノも?」
同棲記念日を祝ってくれる、同棲相手に会ったことない友達。それはなんだか面白そうだと笑ったら、「うん、やっぱり蛍は笑顔がいいね」と再度フォローが入った。どうやら気を遣わせてしまったらしい。
まあ、哀れにも思うか。ライブだけじゃなく家禁止令まで出されているんだから。
「どう考えたって俺の方がイイ男だろ」
「イイ男だね」
「『でも朝生くんの方がかっこいい』って顔に書いてあるんだよな」
「まあ中学の時からの片思いですしぃ」
ぶっちゃけ恋人になっても片思いみたいなものだ。
朝生くんのすることにはなにか理由があるんだろうし、お祝いのパーティーなんかしなくたって一緒に住んでいることが答えだと思っている。愛の重さに偏りはあるかもしれないけど、俺はこれで満足しているんだ。
デレがなくたって番にならなくたって、今まで一緒に過ごした時間がなによりだとわかっているんだから。
「なあ、やっぱオーディションの話……」
「あ、ごめん、電話だ」
ミャーが言いかけた言葉を遮るように、俺のスマホが鳴った。
朝生くんからの連絡かと思ったけど、表示されていたのは見知らぬ番号だった。
「はい、もしもし……」
仕事の話かもしれないから、ミャーに断って電話に出る。
「……え?」
事故、朝生凌太、病院、連絡先?
聞こえたはずの言葉が上手く脳に届かない。全部の音が遠くくぐもっていて水の中にいるみたいだ。
「蛍!」
呼びかけられて、はっと我に返った。そしてお礼を言ってから電話を切る。手が震えている。
頭が上手く働かないけれど、自分がなにを聞いてどう答えたかはおぼろげながら覚えていた。
「誰からの電話だ? 顔真っ青だぞ」
ミャーの顔が恐いくらい真剣だ。いや、心配してる? わからない。目の前がぐらぐらする。
「ご、ごめん、あの、わかんないけど、朝生くんが事故? 怪我したとかって、財布の中に俺の名刺が入ってて、緊急連絡先って書いてあったって。だから俺病院行かないと」
「待て、俺も一緒に行く」
よほど俺が動揺しているのを見て取れたのか、ミャーが立ち上がって手を取ってくれる。ミャーの手が熱い。いや、俺の手が冷えているのか。血の気が引くって、こういうことなのかもしれない。
それを認識して、少し冷静になれて、頭が動いた。
「ダメだよ、ミャーはこの後仕事でしょ。大丈夫。タクシー呼ぶから」
俺と違ってミャーじゃなきゃいけない仕事を放り出させるわけにはいかない。俺だって駆け付けたところでなにができるのかわからないし、大騒ぎしてもいいことはない。それでもとにかく今は病院に行きたい。
「後で連絡する」
「……いつでもいいから。大丈夫だから、気を強く持てよ」
「うん、ありがと」
ミャーが冷たくなった手を温めてタクシーを呼んでくれて、俺は病院へと急いだ。
「朝生くん!」
教えてもらった病室に駆け込むと、ベッドの上にぼんやり座っている姿が見えた。目立つ銀髪は遠目からでも見間違えようがない。
四人用の部屋みたいだけど、ベッドは一つしか埋まっておらず他には人がいなかった。本来なら処置室みたいなところにいるけれど、他の患者さんが来たから空いていたここに移されたらしい。
近付きながら観察したところ、擦り傷だらけだけど大きな怪我は見えない。いや、左手が固定されているからなにかしらの怪我はしているのかもしれないけど、骨折という感じではなさそう。
「良かった! あ、おっきな声出しちゃダメだね。でも俺、本当にびっくりして」
「……ごめん」
「謝んないでよ。降りれなくなってた猫助けたって、すごいヒーローみたい」
とにかく無事な姿が見れただけで良かった。
なんでもひどく高い木に登って降りられなくなっていた猫を助けたらしい。ただそこで猫が暴れたためにバランスを崩して落ちたのだとか。猫を抱いて守っていたことで受け身が取れず頭を打って気を失っていたので、救急車で運ばれて検査をしたそうだ。まるで物語の中の人物みたいな展開に、ある意味朝生くんらしいと気が抜けた。ちなみに猫は無事だったと見ていた人が言っていたらしい。
目に見えてひどい傷はないけれど、頭を打ったなら安静にしないとねと安堵の笑みを向けた相手は、けれど眉をしかめて俺を見ていた。
「いやあの、ごめん、誰?」
「……え?」
「友達、とか? あれ、知り合いだよな?」
呆然とする俺に、朝生くんは首を傾げて不可解な言葉を投げてくる。
ごめん、と再度謝り、家族とか? と恐る恐る聞いてくる朝生くんは、どうやら冗談ではなさそうだった。
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