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初めての熱 1
「あっつ……」
さっきから妙に体が熱い。疲労からの熱か、風邪の引き始めか。
どちらでも嫌だなと思いながらも、文化祭の準備を進めないとと空き教室に入る。準備期間中に使わない机を集めた部屋。ここから二台教室まで運ばないといけない。身長が高くたって力があるわけでもないのに、普通に無理なことを頼まれてしまった。
とりあえず安全に一台ずつ、いや往復するのは面倒だからこの際一気に運んでしまうか、と考えていた時だった。
「あ……っ」
ぞくぞくぞくっと背筋を怪しい痺れが通り抜けていってその場にへたり込む。
瞬間的に感じた。これ、ただの熱じゃない。ヒートだ、と。
「なんで俺が……っ」
なぜだか本能的にわかる。
アルファにもオメガにも反応がなかったからベータだろう、病院で改めて詳しく検査するようにとバーステストの時にプリントをもらった。だけど自分のことをベータだと思っていたから、必要ないと思って行かなかった。今までだってそんな予兆なかった。それなのに。
確かにここ数日、あちこちから色んな作業を頼まれて全部引き受けたせいでキャパオーバーはしていた。先輩と少しでも接点を増やそうと、委員会やら部活やらクラスやらの催し物全部来るだけ引き受けたのがバカだった。
それでも授業がなくて学年関係なく行動できる分いつもより先輩と会う機会が増えて、浮かれていた。それがいけなかったのか? 特別みたいな存在のアルファと会う時間が増えたから、なにか刺激された?
先輩のことを考えるたびにぞくぞくした熱が体を走り、腰元をざわつかせる。
憧れなんて嘘だ。今、こうなって朝生先輩のことしか考えていない。一歩も動けないほど体が熱いのに、先輩のことを考えるだけで足の先まで体がざわめく。
「月夜見? ここにいるのか?」
「……ッ!」
そんな時、幻聴かと思うタイミングで先輩の声がした。それだけでイきそうになるほど体が疼く。
「せ、先輩、来ちゃダメ……っ」
「なんだこの甘い匂い……ちょっと待て、フェロモンかこれ」
「来ちゃだめぇ……っ。はぁ、も、おれ、ダメだから、先輩の声すると、なんにも考えられなくなる……っ」
先輩の声で理性がぼろぼろと崩れていく。
たぶん先輩は机運びを頼まれていた俺を気にして見に来てくれたんだと思う。そんな先輩を巻き込みたくない。
バカみたいに甘ったるい声で媚を売ろうとする自分が恥ずかしくて、口を閉じて蹲る。先輩はアルファだ。オメガのヒートは、アルファのラットを誘発させるという。そうなると問答無用でオメガを襲いたくなるのだと。
授業で習ったそれが頭の中をぐるぐる回り、そんなことさせちゃいけないという理性の欠片と、いっそそうなってほしいという欲でいっぱいになって泣きたくなった。
足音が近づき、期待と不安で心臓が爆発しそうだ。
「出てって、せんぱい……」
それでも辛うじて搾り出した声で離れることを望んだけど、先輩のとった行動は逆で。
「お前はどうしたい?」
すぐ傍で聞こえた声は、ギリギリ理性を保っているような声だった。俺の肩を掴む手が熱い。
驚いて下から覗き込んだその顔は、瞳に欲を宿してはいたけれどいつもの先輩で。
「保健の先生呼んでくるか、それとも」
ギリギリの状態で俺の意思を確かめてくれる先輩に、すべてが混ざってどろりと溶けた。
「先輩としたい」
「……わかった」
次の瞬間にはそう答えていて、先輩は望み通り俺の欲しいものをくれた。
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