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初めての熱 2
「あッ! あっ……んっ、ん」
「人来るから、声抑えてろ」
待ちに待った挿入の瞬間、漏れた声を留めるために唇を塞がれたのがファーストキス。
そしていつ誰が来るかもわからない空き教室で、初めてするセックスはロマンチックとは程遠く。フェロモンに脳を犯され、ぐちゃぐちゃのドロドロで全然綺麗じゃなくて、それなのに夢みたいな気持ち良さだった。
しっかりとオメガの体だった俺はなんなく先輩を受け入れて、なんの痛みも戸惑いもない直接の気持ち良さだけを受け取った。
「ん、んっ、きもちい、あっ、せんぱいっ、あ、う、あっ」
本能に任せるのがこんなに気持ちいいことだと知らなかった。
先輩が俺に腰を打ち付けるたび肌がぶつかる音とぬめった水音が響き、その振動も音も全部気持ちが良くてどうにかなりそうだった。
エッチな先輩もかっこよくてたまらない。むしろどこもかしこもかっこいい。
ずっとこのままでいたいし、早くイきたいし、もっと気持ち良くなってほしいし。
もっと近づきたくて抱きついてキスをねだって、してくれた時に突然気づいた。
この人が好きだ、と。
今までの、先輩に対して抱いていたふわふわした気持ちがその一言で簡単に表せることに今さら気づいたんだ。
遅い、鈍い、バカみたい。
理性が残っていたら自分に対してそう文句を言ってやるところだけど、残念ながら俺の中にはそんなもの残されていなかった。
それからはもう「好き」と「先輩」と「気持ちいい」だけが頭を占めて、ひたすらに先輩から与えられる熱だけに酔った。
「せんぱい、あさおせんぱい……っ」
「わかってる」
「んんん! あっ、まだ、あッ、ああ、んっ!」
もっとという意味でシャツを引っ張れば、すぐにわかってくれた先輩が奥を突いてくれて、信じられないくらい甘い声が漏れた。
「あ、せんぱい、もう、イ……ッ」
「ん」
一人でする時とは比べ物にならないくらいの真っ白になる絶頂。自分では制御の利かない快感に追い立てられて、痙攣するように幾度も白濁を吐き出した。そこにギリギリで引き抜かれた先輩のモノから吐き出された欲が混じる。
「ハァ、ハァ……」
「……ちょっと落ち着いたな」
少しの間お互いの息を整えてから、俺が持っていたタオルで体を拭いて軽い後始末を終える。そして先輩は、大きく息を吐いて汗を拭ってから立ち上がった。
「いいか。ここで待ってろ。今保健の先生呼んでくるから」
「え、でも」
「すぐ来る」
確かに一度達した分、最初の時よりかは落ち着いている。それにこのまま抱き合っていたら色々とまずいことになるだろう。オメガのフェロモンは、なにも先輩だけに効くものじゃないんだ。
誰かに見られるのもまずければ、その人がアルファだった時は限りなく事態が悪化する。その前に取れる手段を取ってくれた先輩には感謝しかない。
もちろんその時はもう一回したいという思いと誰か来たらどうしようという不安だけでいっぱいだったけど。
その後先生に緊急用の薬をもらってから病院に行った。
状態が状態だったので色々検査して、やっぱりオメガだったとお墨付きをもらって、説明と注意を受けて。
さすがに次の日は休んだけれど、その次の日からは学校に行けたし文化祭にも出られた。
なにより先輩の連絡先を手に入れたのがラッキーだった。
しばらく不安定だろうから、我慢できなくなったら呼べと言われて、文化祭の途中で遠慮なくかけた。
一応薬は効いていたはずだけど初めてのヒート中だったせいか、軽音部の発表で先輩の歌声を聞いた瞬間どうしようもない熱がこみ上げてきたんだ。だから先輩が舞台を下りてから連絡を取った。
忙しかっただろうに文句も言わず来てくれた先輩は、電話した時点で俺の言いたいことをわかってくれた。
だから大した説明もなしに立ち入り禁止になっている屋上に連れていかれて、そこでした。こんなところで、と不安に思う気持ちは実際先輩のモノで貫かれると一気に溶けた。
「ああ、せんぱい……っ、ん、そこ、んんッ!」
「薬で抑えてこれかよ。……首、自分で守っとけよ」
フェロモンは薬で抑えられても、直接繋がって汗をかいて欲を満たそうとすれば影響は受けるのだろう。
段々と瞳が熱に犯されていく先輩に揺さぶられながら、うなじを噛まれたらどれだけ気持ちいいんだろうと夢想した。
もちろん高校生のうちにそんなことになったら大変だろうけど、それでも考える。間違いで噛んでくれないかとか、抑制剤がなければそうなるのだろうかとか。
みんなが楽しんでいる声をどこか遠くに聞きながら、ぐずぐずになるほど先輩に抱かれて、オメガで良かったと思った。
だってそうじゃなきゃ、先輩とこんな風に抱き合うことはなかっただろうから。
その後も、先輩とはそういう関係が続いた。
ヒート時の興奮を抑えるためにセックスをする仲は、普通セフレというのかもしれない。だけど先輩は普段からさりげなく傍にいてくれたし、危なっかしいからこれをしていろと首輪もくれた。モデルにスカウトされた時も、やってみればと背中を押してくれた。
卒業して先輩が先輩じゃなくなり、朝生先輩から朝生くんと呼ぶようになり、朝生くんがプロのミュージシャンに、そして俺が大学生になっても関係は続いた。
学校で一緒じゃなくなった分会える時間は当たり前じゃなく、時間を作ってはお互いの家を行き来して数えきれないくらい抱き合った。
それから朝生くんに誘われて一緒に住んで、あっという間に一年が過ぎた。
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