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一線を越える 4

「……凌太くん? もう大丈夫だよ?」 「……え?」  ただ、いざとなって男の体に戸惑いを覚えたのか、凌太くんが俺の体に触れるまで間があった。やっぱり引いちゃったのかな。それはそれで仕方ないと思うけど。 「ゆっくり、あの、優しくお願いします。でも俺頑丈だから。多少無茶でも大丈夫」  オメガとはいえ、ヒート中じゃなければ勝手に濡れない男の体だ。いくら慣らしたとはいえ、女の子のようにはいかない。それだけ気をつけてくれれば、ととりあえず声をかけてみると、また微妙な間。 「あ、ああ」 「……凌太くん?」  どうしたんだろうと後ろを振り返ろうとした途端、凌太くんが俺の腰を掴んだ。そして今までのためらいがなんだったのかというほど、すんなりと挿入される。 「ひ、ああっ!」  もっとゆっくりと試すように入ってくると思っていたから、心構えがなかった。ずんっといきなり最奥まで突かれて、声が押し出される。 「あっ、ああ! 待って、凌太くん、いきなりそんな、揺さぶられたら、あっ」  時間をかけて慣らしてくれたから痛みはない。それどころかスムーズすぎて色々よろしくない。気が緩んだタイミングでいきなり攻められて、逡巡や臆する気持ちが吹っ飛んだ。 「あっ、ああ、んっ、あ、ふ、まって、はげしいっ」  やっぱり体は朝生くんだ。みっちりと俺の中を埋めて、隙間なく擦り上げ刺激してくる。  こんなに声を出してしまったら引かれるかもしれないのに、喘ぐ声が抑えられない。  罪悪感がチリチリと胸を騒がす。朝生くんだけど朝生くんじゃない凌太くんでいきなりこんなに気持ち良くなってしまって、どれだけ快感に弱い体なんだと。  でも、いきなりこんなに容赦なく気持ちのいいところばかり突かれるとは思わないし、不意打ちにも程がある。  そもそもバックからの経験自体浅いと言うか、ヒートでぶっ飛んでいる時以外に後ろからこれだけ激しく責められることが珍しいから、耐性がついていないのは仕方がないと思う。そう言い訳させてほしい。 「……なあ、イイか?」 「ん、すごい、頭ん中、ぐちゃぐちゃ……あっ!」 「今んとこ好き?」 「好き……あ、すきぃ……っ」  囁く声はセクシーに掠れていて、びくびくと体が跳ねる。  記憶をなくしたとてセックスの経験値はちゃんと残っているのか。さすが朝生くんだ。 「中、すごい締め付けてる。ここも?」 「んっすき、あっそこイイっ、あ、ふかいっ」  ヒートの時はもっとぐちゃぐちゃでめちゃくちゃだから、こんな風に言葉で意識させられると余計感じてしまう。凌太くんは言葉責めの天才かもしれない。  俺の腰を掴んで音を立てて腰を打ち付けてくる凌太くんに迷いはなくて、その雄みがたまらなく体をゾクゾクさせる。  本当に、後ろからで良かった。そうじゃなかったら、もっとはしたない顔を見せてしまったことだろう。朝生くんはいつも隠すなと言うけれど、好きで晒したい顔じゃない。元々ただでさえ可愛いらしい顔をしていないんだから、醜態はできるだけ晒したくないんだ。  とはいえ、朝生くんの体にはとっくに負けている俺のこと。  長い間その激しい責めに耐えられるわけもなくて。 「あ、あっ、凌太くんっ、もうダメ、俺、イく」  ついた手がガクガク震えて、耐えきれずに肘が折れる。枕に顔を埋め、抑えることのできない声と熱を激しい突き上げで押し出されて。 「あッ……おっ、あ、あー、アッ……!」  意味のない声を漏らしながら痙攣するように白濁を吐き出して、ぐったりとその場に倒れ込み……たいところだったけど。 「ひあっ、あ、りょたくん、いま、あっあっ!」  まだ滾ったままの凌太くんに突き上げられて、問答無用で再び高められたところで、凌太くんの放ったものを中で受け止めるのと同時に意識を飛ばした。  リハビリであり凌太くんにとっては初めてのセックスは、リードするはずの俺が気を失うことで終了した。  記憶がなくたって、凌太くんは立派なアルファで、俺の敵わぬ相手だった。

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