37 / 52

砂上を歩く 7

「もう出よう。死にそう」 「ふっ、そうだな。死なれたくないし」  振り返って答えた顔によっぽど決死の覚悟が表れていたのか、凌太くんが口元を緩ませて俺の手を引く。バスタオルで簡単に体を拭いてバスローブへ。濡れた服もそのうち乾くだろう。  それからまた手を引かれてベッドへ向かう。  ……外見が朝生くんなら誰でも構わないのかお前はという気持ちと、そもそも凌太くんも朝生くんだし、朝生くんならどんな朝生くんだって好きだという気持ちがせめぎ合っている。  でも、自分から恋人の設定を押し付けておいて、いちいち迷うのも失礼じゃないか?  俺にとって朝生くんは特別。だからこそ、「だったら」と「だから」がずっと言い合いをしている。 「冷えないように、ほら」  そんな葛藤をよそに、事はすんなり進んでいく。だって凌太くんの差し出す手を俺が払うわけがない。  導かれて、ベッドに腰掛けた凌太くんに跨るように腰を下ろした。抱き合う形の密着感。確かにこれなら冷えないけど。 「このまま、する?」 「蛍が嫌じゃなかったら」 「……凌太くんの腰が心配」  いくら標準体重より軽いとはいえ、身長がある分この体勢は凌太くんに負担がかかる。ほとんど治っているとはいえ怪我人だし、無理はさせられない。 「なら大丈夫。おいで」  凌太くんはそんなためらいも一蹴して、俺の腰に手を添えた。それに従って、膝立ちになる。  片手を凌太くんの肩に、もう一方の手で凌太くんのモノを軽く擦ればゆるりと立ち上がってくれた。求めているのは俺だけじゃないとわかれば、それで十分。  腰を支えられ、位置を調整しながらゆっくりと凌太くん自身を受け入れる。 「ん……ぁ」  挿入されるのとはまた違う、自分で受け入れる感覚に声が漏れた。  ゆっくりと腰を落とし、凌太くんの上に座り込んでから再び膝を立ててゆるりと抜き、抜けきらないところでまた腰を落とす。それを徐々に早め、自らのペースでピストンを繰り返しつつ凌太くんの反応で動きを変える。いつもされるがままだから、こちらで動きをコントロールできるのはいつもと立場が逆になった気がして気分がいい。 「あッ! 待って、俺がする、から」  と思ったのも束の間、下から突き上げられて息が乱れた。不意打ちで奥を突かれて、足から力が抜けてしまう。 「イヤ?」 「やじゃ、なくて、んっ、俺のペースぅ……っ、ん、もうっ」 「この角度いいな。いい顔が見える」 「ひゃっ、あっ、舐めちゃダメ、だよっ、もお、動けないって、ば」  ベッドのスプリングを使って突き上げてくる凌太くんに、どうしようもなく感じてしまってのけぞった。その顎をちろりと舌で舐められて、反応してしまえば俺の負け。体を丸めた俺と唇を合わせながら突き上げてくる凌太くんに、しがみつくだけで精いっぱいになってあっという間にイかされてしまった。  何度しても気持ち良くて勝てない。それは朝生くんだろうが凌太くんだろうが関係なかったみたい。  それにしても、キスして抱き合って、したい時にセックスして、まるで本当にただの恋人同士だ。  このまま凌太くんの記憶が戻らなければ、ずっとこうしていくのだろうか。それって喜んでいいものなのだろうか。  だって周りは全員知らない人で、好きだった音楽も忘れて、これから全部を作っていかなきゃならなくて。  その時にたまたま俺が一番近くにいたから頼られているだけじゃないんだろうか。  凌太くんがこうやって俺を抱くのも、俺がしたいと望んでいるから応えてくれているだけだったらどうしよう。本当は朝生くんは俺のことどう思っていたんだろう。 「……疲れた?」 「ダメ、抜いちゃやだよ。凌太くんもちゃんとイってほしい」  抱きついたまま動きを止めた俺に、凌太くんの窺う声が囁く。だから腰を引こうとする凌太くんの体に足を絡めて深く奥へと導いた。  本当にどう思ってるかなんて、どうせ考えたってわからない。だったら今ここにいる俺のことを気持ちよくしてくれるこの人を、ちゃんと気持ち良くさせたい。 「明日に響いたら困るだろ」 「体力はあるって言ったでしょ」  こういうことをしている時にあんまり暗いことは考えたくない。今は今のことだけ。 「どうせ服はすぐには乾かないよ」 「ったく。……本当に大丈夫なんだな?」 「凌太くんが動かないなら俺が動く」 「はぁ。……誰が動かないなんて言った?」  考えることはたくさんあるけれど、とりあえず今夜は冷える心配は無用のようだ。

ともだちにシェアしよう!