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迫る現実 2
一通りのパターンを取ると、今度はコーディネイトを変えるために着替え。次いで背景を変え、ばっちりヘアセットを終えたミャーが加わる。
普段もアルファらしい派手さがあるけど、こういう場所に立つと迫力が出るから羨ましい。
同期だからかミャーが口添えしてくれているのか、なにかと二人で撮る機会も多いから、ミャーがいると一人の時よりは少し気が楽だ。俺よりも多くの大きい仕事をこなしているミャーは単純に頼りがいがあるし、タイプが違うからバランスも良く見えてありがたい。
とはいえ、やっぱり凌太くんに見られていると思うと変に緊張はする。
「蛍、ほら、力入ってる」
そしてしっかりとそれを察知するミャー。さすがに視野が広く周りが見えている。
緊張を解くためか、腰に回された手でぐいっと引き寄せられて、寄りかかるように密着した。身長の分華奢なつもりはないけれど、それでもやっぱり実際触れると体つきの違いを実感せざるを得ない。
厚みのある胸板も力強い腕もしっかりした腰も全部俺にはないもので、どう頑張っても身につかないものだ。こういう時、自分はオメガなんだと思い知らされる。
ともあれ反省は後にして、今はカメラに集中。
今の凌太くんは笑わないかもしれないけど、それでも情けないところは見せたくない。
なにより恋人としてかっこいいところをちゃんと見せたい。いい画を撮ってもらいたい。
そんな思いが強すぎたのか、それからも俺が余計な力を入れるたび、ミャーが指摘するように触れてきた。
今日のミャーはスキンシップが多めだ。もしかして俺同様凌太くんを意識してたりするのだろうか。わかるけど。見学の人がいるといつも以上にかっこよく思われたくて気合いが入るのは。
とにかく内面では色々あったけど表面には出さずに撮影を終え、着替える前に凌太くんのところに飛んでいく。
「ごめんね、放っといて。どうだった?」
「モデルだなって思った」
「へへ、嬉しいかも、それ」
ちゃんとモデルに見えてたなら良かった。なんだかんだで凌太くんには情けないところばかり見せていたから、少し見直してくれてるといいんだけど。
「メイクするとまた雰囲気違うな。美人さが際立つ」
「プロだよね。いつもしてもらえばいいのかな」
「じゃなくて」
普段の家での俺を知っている凌太くんからしたら、ヘアメイクや衣装でぱりっとしている俺は別人みたいに見えるかもしれない。褒めてもらえるのならこのまま帰ろうかな、と浮かれる俺に、なぜか凌太くんは苦い顔。
「まあいいや。家で言う」
けれどすぐに切り替えたらしく、俺の頬を軽く指で撫でる。反射的に猫みたいに擦り寄りそうになって、人目を思い出してやめた。
今はミャーの個人での撮影の準備中でこっちを見ている人はいないけれど、さすがに過剰な接触は我慢しなくては。暗闇でも凌太くんの銀髪は目立つのだから。
「あいつがミャーってやつ?」
俺への反応は終わったのか、次いで着替えに向かうミャーを示して言われて、頷いて答える。
「うん。後で紹介するね」
「……いいや。俺のこと嫌いそうだし」
話はしていたし写真も見せたけど、実際会うのは初めてだ。そもそも俺の仕事場に来たことがないから、それも当然なんだけど。
それでも少しの沈黙の後、凌太くんは首を振って断った。前々からミャーのことを話すたび同じような顔をしていたから、先輩の時と同じく苦手なものは苦手らしい。
「別にそういうんじゃないと思うよ」
「あんな見せつけられたのに?」
「うーん、いつもはあんなじゃないんだけど……」
「俺が見てたからだろ?」
確かに今日はスキンシップが多かった。内緒話のように耳元で喋ることも多かったし、いつもよりか距離が近かった気がする。普段と違う原因は、まあ、いつもいない人がいたからだろう。
「うぅん、俺のせいかなぁ。朝生くんの話色々しちゃったから」
「なに話してた?」
「……ちょっとしたことを色々と」
誰にもできない俺の愚痴めいた話ばかり聞いていたら、印象が悪かったかもしれない。そんなつもりで伝えていたわけじゃなかったけど、ミャーに否定してほしくて他の人にはしない話を多々したのは確か。
普段は個々の撮影だし、あんな風にくっつくことなんてあまりないから、やっぱり凌太くんがいることが影響しているのだとは思う。
それなら俺のせいだ。かっこいいという話は山ほどしたけど、魅力を伝えるにはまだ足りなかったし俺の伝え方が悪かったに違いない。それで凌太くんに嫌な思いをさせてしまったのなら、それも俺のせいだ。今日は反省点が多い。
「蛍」
その時、着替えから戻ってきたミャーが俺を呼んだ。
「ちょっと話したいことがあるから、撮影終わんの待っててくれない?」
近付いてきたミャーは凌太くんに一瞥もくれず俺へと話を振ってくる。見えていないわけはないから、わざと視線をやらないのか興味がないのか。凌太くんの方も声をかけず、ただ黙って見ている。
「大事な話なんだけど」
本当は凌太くんと一緒に帰ろうと思ったけど、明らかに普段とは違う空気をまとったミャーに声を低められれば、そういうわけにもいかない。
「わかった。着替えて待ってる」
「ありがと」
俺の答えを聞いて口元に笑みを刻んだミャーは、そのままカメラの前へ戻っていった。改めてお互いを紹介する暇も空気もなかった。
「えっと、ごめん、凌太くん。そういうことになったので、先帰っててくれる? ちょっとミャーと話してから帰るから」
「いいけど……大丈夫か?」
「大丈夫だよ?」
ミャーの撮影が終わるのを待つのはよくやることだし、いつも色々聞いてもらっているお返しに話を聞くことぐらいいくらでもする。俺で解決できることがあるのかという疑問はあるけれど、頼まれたら行くしかない。
「じゃあ俺は車返してくるけど」
「うん、ごめんね」
指先に引っ掛けたキーをくるくると回しながら言う凌太くんに申し訳ない気持ちももちろんある。だから素直に謝った途端、凌太くんが指の動きを止めた。
そのせいでチャリン、と音を立てて鍵が落ちる。
どうしたんだろうと思いつつも、拾うためにその場に膝をつくと、凌太くんも一緒にしゃがんで。
「待ってるから早く帰ってきな」
耳元でそう囁くと、掠めるように頬にキスして立ち上がった。一瞬すぎて誰にも見えていないはずだけど、衝撃は十分。
「……!」
どうやら凌太くんも自分の声の威力を正しく把握したようで、意識的に使われれば俺なんてイチコロだ。
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