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迫る現実 4

「今は二人の世界でいいかもしれないけど、あいつが普通に外に出るようになって、他の人間と会って、本当に惹かれ合うオメガに会ったら蛍はどうする?」  俺が考えないようにしていた現実を、ミャーは冷静に突きつけてくる。  なにをしても器用に上手くこなすアルファの凌太くんと、オメガらしくもなく才能もない俺。  中学の時のきっかけがなければ、きっと今の二人の関係はないだろう。  それが今はない。だったら一緒にいる理由もない。  それを思ったら、胸が握りつぶされたみたいに苦しくなった。  いつも思ってた。モテる朝生くんがいつかお似合いの相手が現れていなくなるんじゃないかって。その時引き止められる魅力も権利も俺にはない。  だって俺たちは結婚しているわけでもなく、番でさえないんだから。 「そもそも蛍が大事だったんなら番にしなかったのはなんでだ? それも全部忘れてるんだろ?」 「番のことは、俺だって気になってたけど、なにか理由がある、はず」 「でも普通はすぐにしないか? 少なくとも出会って十年近く放っとくのはおかしいだろ。だって心配だろ? この業界アルファばっかりなのに、そんなとこに自分の最愛のオメガを放り込めるか? ヒートの時に貪るだけで番にしないなんて、都合良過ぎないか?」  ずっと俺が思っていたことを言葉にして改めて聞かせるミャーの言いたいことはわかる。俺だってずっと疑問に思っていたから。  そしてその答えを持ってない俺にはひたすらにその一つ一つの言葉が棘となって突き刺さる。  聞きたくても聞けない。なぜなら凌太くんも答えを知らないから。覚えていないから。  楽観的に考えることで現実を見ないふりしていたけれど、ミャーは寝起きの顔に冷水をかけるようなやり方で俺の目を覚まさせた。  なんでそんなひどいことばかり言うんだと、理不尽にミャーを責めたい気になった。  でもミャーは本当のことを言っただけだ。  どうしよう。今さらひどく泣きたい。泣いたってどうしようもないのに、どうしたらいいのかわからず涙が溢れそうだ。 「……嫌な思いをさせたいわけじゃないんだ。でも、今がちゃんと考えるタイミングだと思うから」 「考えるタイミングって、なに」  返す声が震える。  これ以上頭が回らなくて、早く家に帰って凌太くんと話し合いたい俺に、ミャーが話題を変える。  それが本題だった。 「これを機に一回距離を取って自分の思いを見直した方が良くないか。ちゃんとキャリアを作るチャンスだし、生活を変えたら考えだって変わるかもしれないし。だから今度のオーディション受けて、俺と海外行こう」 「海外……」 「蛍。あいつが傍にいるせいで自信持ててないみたいだけど、ちゃんと自分がどこにいるか確認した方がいい。蛍はしょっちゅうモデルが向いてないなんて言うけど、仕事が途切れてないのが十分必要とされてる証拠だろ。それにずっと努力してるのを俺は知ってる。ジムで体型維持してるし体力もつけてるし我流のウォーキングで誤魔化したりもしない。そういうのが大事だって、蛍はちゃんとわかってるし、それがちゃんと仕事に出てる。十分実力はあるんだよ。なのにどうしてそこまで自信が持てないか。その原因はあいつだろ」  いつもミャーは俺の仕事を褒めてくれる。でも俺はそんな風には思えないし、友達ゆえの優しさだと思ってる。  モデルの仕事は楽しい。だけど仕事としてそれが向いているかは別の話だとわかっている。 「ち、がうよ。だって普通に俺なんて通用しないし」 「試してから言えばいい。俺は蛍の実力の話をしている」  どうやらミャーは前から言っているオーディションをどうしても受けさせたいらしい。  事務所主体のそのオーディションは、受かれば、というか選ばれれば海外での仕事を得るとともに他の仕事を取るための援助もしてくれるという。  渡航費に滞在費、向こうのエージェント会社との契約、その他とにかく活動するための後押しをしてくれるというから、当然ハードルは高くライバルも多い。  一応俺にもエントリーする権利はあるけれど、事務所の名前を背負うのだし、ミャーと違って自信なんてなにもない。  なにより、そうは見えなくても俺はオメガなんだ。番なしのオメガということがここでも足を引っ張る。 「ほら、この業界アルファ多いし、海外でヒートになったら怖いから無理だよ」 「それは俺が守る。というか守らせてほしい」 「ミャー……?」 「俺はアルファだよ。……意味わかる?」  ミャーが言いたい意味はわかる。俺がずっと悩んできた問題だから。いや、だからこそわからない。だってそれは、ミャーと俺の間で出てくる問題ではないはずだから。

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