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迫る現実 5

「本当に蛍は俺のことアルファとして見てないんだな」 「だってミャーは……」 「アルファとオメガだよ。それとも、俺となら間違いは起こらないと思ってる?」  自嘲的に笑うミャーの言葉は、今まで俺たちの間には単に性別としての意味でしかなかった。いや、俺が劣等感を覚えるものでしかないというのが正しい。  それなのにミャーはそこに意味を持たせようとする。 「だって、友達だから……。そ、それにミャーはアルファらしいアルファだし、普通にモテるから俺のことなんかオメガとして見る必要ないでしょう」 「意味ないよ。蛍以外にモテても」  目の前で言葉を紡ぐミャーが別人のように見える。だっていつもと違う。友達として諫めながらもアドバイスしてくれるミャーと雰囲気が違う。  不安になって首輪を触った。オメガの印。ミャーはこれをどういう目で見ていた? 「わかってる? 好きな子じゃなかったら彼氏の話になんて延々付き合わないよ」 「す、好きって、ミャーが、俺を……?」 「他に誰がいんの。初めて会った時からずっと好きだったけど、その時からお前はずっとあの男に囚われてたから。蛍がそれで幸せって言うなら邪魔したくなかった。でも今はそうじゃないだろ?」 「初めて会った時って、そんなの一度も」 「言うわけないじゃん。相手に困ったことのない俺が、横恋慕して他の相手全員切りましたなんてダサいこと。けど、本当になにも気づいてなかった?」 「気づくわけない! だってミャーはいつも優しくていい友達だったから」 「まあ、そのポジションは誰にも譲りたくなかったし。でも、あいつはちゃんと気づいてたよ。俺のこと嫌いだったろ? さっきの記憶喪失? のあいつだって気づいてたよ。なんとも思ってなかったのなんて蛍くらいじゃない?」  言われて思い出した。ヒネモスのメンバーに話を聞いた時に、ミャーの名前に過剰反応されたこと。朝生くんが、ミャーに対していい印象を持っていなかったのはどうしてなのか。  俺がミャーの話をする時は褒めることばかりだったから、そんなに悪いイメージは持たれていないと思っていたのに。 「嫌われるのも当然だよ。だって俺は蛍を番にしたいとずっと思ってるから」 「なっ……!」 「当然だろ。オメガを好きになったアルファなら、みんな思うよ。早く番にして、誰にも取られないようしたいって。だから早く目が覚めたらいいのにって思いながらあいつの話を聞いてた。大事にしてくれない相手と一緒にいたって幸せになれないのにって。俺だったらもっと大事にするのにって、ずっと思ってたよ」  ミャーはいつも朝生くんの話を聞いてくれた。アドバイスもしてくれて、慰めてもくれた。優しい人だなとずっと思っていた。けれど、そんなの親切心だけで飽きずに聞いてくれる人なんていないと、考えればわかることだ。忙しくてもお茶をして話を聞いてくれた意味をちゃんと考えなきゃいけなかった。 「俺だったら蛍に悲しい思いはさせないし、どんなことも応援する。ちゃんと気持ちを伝えるし、不安にもさせない。それに、蛍が望んでくれるならすぐに番にしたい」 「きゅ、急になんでそんな話」  いや、きっと全然急じゃなかったんだ。俺が、自分がどんな風に見られているか無頓着だっただけ。  自分が、本来の意味でのオメガとして扱われるわけはないと思っていたから、アルファであるミャーからそんな風に思われる可能性があることさえ考えていなかった。 「プロポーズだよ蛍。俺はチャンスをどん欲に掴みたいんだ」  手を握られ、その感触の違いにアルファを感じる。同じ男の手なのに、俺とは違って力強く欲しいものを掴む手だ。 「いい加減意識してもらわないと始まらないし、奪うなら今しかないって思ってる。俺の方が蛍を大事にするし、姿だけ同じ男と恋人ごっこするより、今までとこれからのある俺と一緒に先に進もう」  朝生くんではない凌太くんと進もうと思った矢先のことだ。ミャーはその前に立って、現実を見ろと言う。  ずっと褒めてくれたミャ―。俺に自信を持たせて、慰めて、アドバイスして、ずっと一緒に仕事をしてきた。その時間を使って先に進もうと。 「急かすつもりはないけど、真剣に考えて」  お願い、と握った手を両手で包まれ、俺は返す言葉を持たぬままその姿を見つめた。

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