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手を取る、繋ぐ 4

「だってお前、俺のことなにやってもかっこいいかっこいい言うだろ」 「だってかっこいいもん」 「その『理想の朝生くん』から外れるのが嫌なんだよ」  立てた膝に肘を置いて、またぷいっと向こうを向いてしまう朝生くん。  『理想の朝生くん』もなにも、今目の前にいる人がその人なのに。 「そもそもお前、あんま求めてこないじゃん。だからあんまがっつきすぎんのもカッコ悪いし、仕事に影響出ても困るだろうから」 「え、もしかして、ヒート以外で全然しないのってそれが理由?」 「負担でかいだろ。無理させたくないから」 「無理じゃないよ! 全然、いつでもウェルカムだったし、影響出ることなんてなんにも……」  俺はずっと朝生くんがしたくないだけだと思っていたのに。まさか俺の体を気遣って遠慮していたなんて思うわけがない。  そりゃあヒートの時以外はただの男の体で、女の子のように濡れもしなければ受け入れるようにもできていない。むしろそれが原因で滅多に手を出されないのだと思っていた。だって俺は朝生くん相手ならいつだってしたいのに。 「覚えてないか?」  遠慮なんていらなかったのに、と言い募る俺に、朝生くんは眉を下げて困り顔をした。俺を見る目が複雑に揺らいでいる。 「一緒に暮らすからって買ったベッドが届いた時に俺から誘ってしたら、もっともっとって興奮しすぎたって熱出して寝込んだの」 「……あったね」  言われて思い出したのは、同棲をスタートさせてすぐのこと。  クィーンサイズのベッドが届いたことで喜んでいたら、まさかの朝生くんからのお誘いですぐにその寝心地を確かめて。  これから毎日こういう生活が続くんだと思ったら、嬉しすぎて求めすぎて熱を出した。なんなら数日寝込んだ。  だって今まで終電の時間とか隣の家とか普通サイズのベッドの狭さとかをずっと気をつけてきたんだ。それから解放されただけじゃなく、大きなベッドでこれからずっと朝生くんと気持ちいいことを存分にできると思ったらオーバーヒートしたんだ。  どうやらその暴走を受けて、朝生くんはすっかり俺に手を出すことをやめてしまったらしい。  その上で俺は理由を聞かずに、求められないならそういうものなんだろうと受け入れてしまったのがいけなかったようだ。  自分から言って断られるのが恐くて、キスさえねだることは滅多にしなかった。それを朝生くんは俺から求められていないと思って我慢してくれていたのか。  なんというすれ違いだろう。お互い、相手のことを思って我慢してたなんて。 「俺だって恋人らしいイチャイチャとかしてみたいと思ったけど。そういうの、お前の『朝生くん』じゃないんだろ?」 「したいの? イチャイチャ」 「ほら、意外って顔してる。クールでかっこいい朝生くん像じゃねぇんだろ?」  子供っぽく口を尖らせる様は、確かにクールな仕草ではない。  そんなの、もちろん意外だ。だけどそれは悪い意味じゃない。 「したいんだ、イチャイチャ……」 「しみじみ繰り返すなよ。したくないわけないだろーが」  したくないわけないんだ。  いちいちすべての言葉を繰り返したくなるのは、そうやって咀嚼しないと飲み込めないくらい大きな出来事だから。  できることなら朝生くんのすべての言葉をおうむ返しにして噛み締めたい。  それぐらい、今すごいことを聞いている。  なんだ、朝生くんも俺と同じ気持ちだったのか。 「だから『凌太くん』のままでいたの?」 「……お前のことを『月夜見』じゃなくて『蛍』と呼ぶ『凌太』なら、甘やかして可愛がっても受け入れられてたから、この際それでいこうと」  記憶が戻ったと言うタイミングはいくらでもあったはずだ。  わざわざ周りに聞いて回ったということは、記憶をなくしていた時の記憶はないのだろう。ということは記憶が戻った直後はなにがなにやらわからず困惑しただろうに、その時にも、その後も、朝生くんは『凌太くん』のふりを続けていた。  それは、俺への態度を本来したかったものに変えるためだと。  ……あまりに俺に都合が良すぎる展開で、そろそろ夢なんじゃないかと思えてきた。ここでベッドで一人で目覚めても、ある意味納得してしまうかもしれない。 「ライブ禁止なのはなんだったの? メンバーに会わせたくないから?」 「それもあいつらがバラしたんだっけか」  夢なら夢でもいいから、この際気になっていたことを全部聞こうと、朝生くんに詰め寄る。  すると俺に聞かせるように大きなため息をついた朝生くんは、観念したように口を開いた。  すでに一番大きな秘密を話してしまったから、今さら隠すこともないのだろう。  欠けていたピースが埋まって、一気にパズルが出来上がっていくみたいだ。

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