17 / 63

高まる熱⑥

(てんようのも、高まっている) 雪弥は抗うことをやめた。目の前に欲しいものがある。 決して自分のものにはならないもの。 「ほ、ほし、い……、てんよう、おまえがほしい」 「どこに?」 雪弥も覚悟を決めた目で天陽を見上げる。 (俺はあさましい……。限りなくあさましい) 雪弥は自分の腹を撫でた。所在の知れない本能が欲しい場所を撫でさせる。 「ここに、ここにくれ」 天陽の目の奥が揺らめいた。息を飲んで雪弥を見つめて、喉を上下に動かした。 「うん。わかった」 そう言うと、唇の端を吊り上げて満足げに笑んだ。雪弥はその笑みに不意にぞっとする。 (天陽……?) 天陽が別人に見えて、雪弥は体をのけぞらせた。 シートから落ちかけた雪弥の体を、天陽が抱えて、シートに引き上げる。 天陽は目を細めてじっくりと雪弥を見下ろしている。いつもの伸びやかさはない。 獲物を追い詰める鷹のような目をしている。 (セックスする相手にはこういう顔になるのか。こういう支配者のような) 天陽が雪弥のズボンのベルトを外し始めた。思わず腰を後ろに引くと強引に引き寄せられた。 雪弥は足をばたつかせた。 天陽が雪弥の体を抑え込んできた。 「雪弥、もう、遅い。抵抗するな」 雪弥は、己の無様さを呪う。 (今だけ、今だけだ。今だけ天陽を俺のものにしよう) 雪弥の目から、こらえきれずに涙がこぼれ落ちた。 (おかしい、こんなのおかしいのに。天陽を欲しがるなんて) 天陽は雪弥の涙を無視して、雪弥のスラックスの前を開いた。雪弥のアンダーごと足からスラックスを引き抜いた。 車内にむせ返るようなΩのフェロモンが匂い立つ。 それに感応した天陽からαのフェロモンがあふれ出る。 「雪弥にあてられて、くらくらする」 天陽は雪弥のシャツを脱がしにかかる。 雪弥は天陽の首に腕を絡めた。天陽に顔を寄せる。 (キスくらいさせろ) 唇が重なると天陽はすぐに舌を絡ませてきた。資料室での遠慮がちなキスとはまるで違う。図々しいほど大胆に舌をねじ込んでくる。 唾液と唾液が混じり合う。 αの体液に、たまらない欲情を駆り立てられる。 (もっと、もっとおまえをおれに……) 天陽は唇を重ねながら雪弥のシャツをするりとはいだ。 リップ音が卑猥に響く。 天陽の肌の表面は冷たいが、その舌は熱い。熱い舌の感触に、雪弥は身をよじる。 (てんよう、もっと、もっと、欲しい) 雪弥は天陽の腰に足を絡ませる。 (ほしい。おまえがほしい) 熱が高まり発情が完全なものとなる。 惚けたような雪弥の目にはもう天陽以外何も映っていない。 不意に天陽は唇を外した。 「あ……」 雪弥は離れた天陽の唇を取り戻そうと唇で追いかけた。 天陽は、雪弥の唇を避けて、上半身を起こし、目を細めた。 「天陽……。ほしい、おまえがほしい」 口づけを拒否されて、雪弥は傷ついた。気位の高いはずの雪弥が、天陽に懇願する。プライドなど放り出している。 「天陽、ほしい。おまえが、ほしい……」 天陽は、そんな雪弥を目を細めてじっくりと堪能するような顔で眺め下ろした。 「俺が、欲しい?」 こくこくと雪弥は何度も頭を縦に振る。 (欲しい、お前が欲しい) 「どこに欲しい?」 もう終えたはずの質問を繰り返す。 「あ……。ここ、ここに」 雪弥は口に出して言えずに、再び腹を手で擦る。 「ここってどこ?」 「は、腹に。腹におまえが、ほしい」 「俺の何がほしい?」 「お、まえの、おまえのを、お、れの腹に」 雪弥は天陽の肩に顔をうずめようと上体を起こした。あさましい顔を見られたくない。 天陽は隠すことを許さずに、雪弥を押し返して、顔を覗き込む。雪弥をじっと見つめながら、自分のベルトを外しはじめた。 「俺を見ろ、雪弥。俺が欲しいか?」 天陽はそう言いながら、雪弥の背中をそっとシートに沈めた。 雪弥は首をこくこくと縦に振るしかできなかった。 「俺が欲しいんだな」 天陽は満足げにつぶやくと、前を開いた。むせかえるほどのαの性臭が立ち込める。 「ほしい、天陽がほしい」 「そうか」 天陽は雪弥の中にズブリと突き立てた。抵抗なく入る。それがΩ特有の粘液によるものだとはそのときの雪弥に考える余裕はなかった。 雪弥の太ももがビクビクと震え始める。高ぶりの先からも粘液が漏れ出している。 「うっ……。いやらしいな、雪弥。なかがうごめいてる」 「………言うな」 雪弥は腕で顔を隠す。その腕を天陽はシートに抑えつけた。容赦なく腰を雪弥に打ち付ける。 「……っ、っ」 雪弥は浅い呼吸になっている。 「雪弥、息をしろ」 天陽は目を眇めて、いったん動くのをやめた。 「雪弥、息を吐け」 「う、ふぅぅ……」 雪弥が息を吐き出すのを見て、天陽は再び、雪弥を貫いた。そのうち、雪弥がビクビクと背中を逸らして達する。 雪弥は揺すぶりに身を任せて、言葉を垂れ流している。ひたすら「てんようがほしい」と繰り返している。雪弥の先からは、突かれるたびに、じわじわと白いものが漏れ続ける。 Ωは、αの体液を取り込まない限り、その熱は冷めない。 雪弥は涙を目に溜めて、天陽に懇願を始めていた。雪弥の中が、ねだるように締め付ける。 「おねがい、おまえの、なかに、おれの、なかに」 「わかった。全部受け止めろ」 天陽はそう囁くと、今度は上り詰める快楽に耐えて眉根を寄せた。その間も雪弥をじっと見下ろしてかたときも目を逸らさない。 雪弥は天陽のものが一層大きくなるのを体内で感じ取る。腹に蓋をされたように圧迫が強まる。 もうこうなればαは出し尽くすまでΩからは抜けない。

ともだちにシェアしよう!