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戻らない日常③

休み明けの朝、制服に着替え終わってもなお、雪弥は部屋を出るのをためらっていた。 振替休日と祝日が重なった三日間の休みの間、大山を訪ねた以外、部屋にこもりきりだった。 雪弥は体調不良で通し、食事は天陽が部屋に運んでいた。 休日が明け、文化祭以降初めて学校に行くという朝、いつも始業時間にかなりの余裕をもって部屋を出る雪弥が、ぎりぎりまでネクタイを結び直している。 (俺はαだ。あれは一時的なホルモン異常か何かだったんだ。だから大丈夫だ。もう熱もない) 何度も頭で念じている。 (俺はαだ) 天陽が部屋を出ようとしない雪弥に訊いてくる。 「大丈夫?」 屈辱をこらえて天陽に尋ねた。 「俺の匂い、確認してくれ」 (何だこれは。まるでΩになったことを心配しているみたいじゃないか) 天陽が雪弥の項に顔を近づけた。 「あー、うーん」 「匂うか?」 天陽は黙り込んだ。 「なあ、答えてくれ、匂うか?」 「うん、ちょっとだけ」 「Ωの匂いか?」 「うーん、なんか腹が空いてくる匂い。雪弥を食べたくてしようがなくなる。でも、この距離にならないとわからないよ?」 「そうか」 「学校に行くの怖い?」 「そんなわけないだろ。何を怖がる必要があるんだ」 「だよね。雪弥、でも、俺から離れるな」 「ねえわ」 「雪弥、一人でどこかに行くな」 「ねえっつの」 天陽を遮ぎってドアに向かう。天陽との会話で元気が湧いた。後ろを天陽がついてくる。 雪弥の足が竦まないわけがない。 天成学園の三分の一はαだ。SSクラスは半数がαだ。中等部は未熟だからまだいい。 しかし、高等部、しかも、三年となるとほとんどが成熟しきっており、αならαとしての特性を持つ。 そんなαばかりの場所に向かうのだ、これから。

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