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ゼロアタック①

雪弥はドアの鍵を締めると早速ファイルを開いた。 ファイルには病院の研究資料、ニュースサイト、秀人の考察、などが挟まれていた。 没頭するうちに、涙がすっかり乾いていた。ファイルに集中することが、立て続けに起きた困難と次々に捻じ曲げられていく未来への絶望から、雪弥を一時的に解放している。 ―――『欲情』フェロモンをターゲットαに照射するアタックは二段階で行われる。数日にわたる複数人からのアタックであるファーストアタックを受けて、ターゲットαは発熱を始める。 ―――その後、大多数のアタックを一気に受けるセカンドアタックから、半日以内に、ターゲットαは完全な発情を迎え、Ω化する。 資料は、雪弥に起きたことをも説明していた。 生成写真がファーストアタックを、文化祭で絵画がセカンドアタックを引き起こした。雪弥も、セカンドアタックの半日以内に完全な発情状態になった。 俳優Kも、画像流出以降ファーストアタックを浴び続け、パーティーでセカンドアタックを受けたのだ。そしてパーティー会場で完全な発情を起こし、その場を離れることができず、被害を負った。 雪弥も天陽がいなければ後夜祭で無事ではなかったはずだ。下手すれば重体か、もしかしたら死んでいたかもしれない。 ―――ファーストアタックとセカンドアタックは、αのΩ化では共通した事象である。しかし、これだけでΩ化するとは考えにくい。 ―――この二つのアタックでΩ化が起きるとすれば、偶発的なΩ化が数多く起き得るからだ。 ―――だが、実際にはΩ化の事例は少ない。ファーストアタックとセカンドアタック以外のファクターがあると考えられる。 確かに雪弥の場合は故意に二段階のアタックが仕組まれたが、Kの場合は画像が流出しただけだ。画像流出でΩ化が起きるのならば、数多くのΩ化が起きるはずだが、実際にはそうなっていない。 ―――鍵となるファクターを探すために、ターゲットαの共通点を探したが、有意なものはない。起点と思われるファーストアタックから、着点と思われる完全発情までの間にも、注目すべき共通点はない。 ―――となると、ファーストアタックに先行する、ゼロアタックの存在の可能性が高い。 資料はそう述べている。 『Victim』以前から起きていた何か。

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