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第18話 誰か、俺に休みをくれえええええ!!―月曜日のガウル― ※R描写あり

 いつものように、4人で食卓を囲んでいた、ある日のこと。  塩以外の調味料が高価なこの世界でも、最近は生活にゆとりが出てきたおかげで、香辛料や砂糖なんかも時々は手に入れられるようになった。  やっぱり、料理は“塩味と甘味のバランス”が命である。  ――とはいえ、あいつらの食べる量が尋常じゃないので、どうしてもコスパ最強の塩に頼らざるを得ないのが現実だ。 「ごちそうさまでした。……では、クーさん、行きましょうか」  そう言って皿を流しに運びながら立ち上がったアヴィの背中に、俺は問いかけた。 「え? アヴィとクー、どっか行くの?」 「ああ、ご主人様にまだお伝えしていませんでしたね。……実は僕たち三人で話し合って、ご主人様の負担を減らそうということになったんです」 「……え?」 「ほら、僕たち、人よりずっと食べるでしょう?  それで、夜の依頼ってだいたい報酬がいいですから、交代で“夜勤”を回すことにしたんですよ」 「ええ!? そんなの気にしなくていいのに……っていうか、だったら俺に一言くらい相談してくれよ」  そう不貞腐れたように呟くと、クーがすかさず口を挟んだ。 「でもユーマ、絶対『気にしなくていい』って言うでしょ?」 「それはそうだけど……。なんかお前ら、また俺に隠し事とかしてないだろうな?」  なにせ、前科がある。  訝しげに問い詰める俺に、アヴィが申し訳なさそうに首を振った。 「いえ。ただ、決定事項の共有が今になってしまっただけなんです。……すみません」 「それ、世間一般では隠し事って言うんだよ!」  思わず突っ込む俺の肩を、クーがポンポンと宥めるように叩いた。 「まあまあ、ユーマ。俺たちはユーマの負担を減らしたいだけだよ♡」 「ふぅん……。まあ、事情はわかったけどさ。ガウルも行くのか?」 「いや。俺はユーマに危険が及ばないように、家に残る」 「じゃあ、行ってきます。……ガウルさん、あまりご主人様を“夜更かし”させちゃダメですよ」 「ガウル、ユーマのことよろしくね♡」  クーはひらひらと手を振ると、アヴィと一緒にご機嫌な様子で玄関を出ていった。  扉が閉まり、静かになった室内に――二人分のぬくもりだけが残された。  (……えっ、ちょっと待って。っていうことは、つまり……今夜は俺とガウル、ふたりきりってやつ!?)  頭の中でジリジリと警報が鳴り響く中、俺はぎこちない手つきで皿を重ねていく。  無言で後片付けを進めていると、隣に立つ男の圧倒的な存在感が、嫌でも意識に入り込んでくる。  ちら、とガウルに視線を向けた。  彼は特に変わった様子もなく、大きな手で黙々と食器をまとめていた。 (……ヤバい。この前、ガウルとキス未遂したこと思い出してきた。あれはべつに、深い意味は――いや、深い意味しか無いだろ!?)  ざわつきまくる心を誤魔化すように、俺はわざとらしく息を吐きながら口を開いた。 「……そんなの、いつの間に決めたんだよ?」 「つい、この前だ」 「……なんか俺、いつも蚊帳の外じゃない?」 「相談したところで、あんたはどうせ反対するだろ」 「そうだけどさ! でもなんか、いつも俺だけ仲間外れにされてるみたいで淋しいんですけど!?」  口を尖らせてブツブツと文句を垂れる俺を見下ろし、ガウルはわずかに口元を緩めた。 「ふっ……わかった。次からはちゃんと、あんたにも伝える」  シンプルに言い放つその声音は静かで、でも、ズルいほど優しかった。  俺は頬を膨らませながらも、どこかで――ちゃんと分かってしまっていた。  ……俺の負担を減らそうとしてくれた、彼の不器用な気遣いに、どうしても怒りきれない自分を。 「……でもまあ、ありがとな」  ぽつりとこぼれた俺の言葉に、ガウルは一瞬だけ目を見開いた。  そして――すぐに、気まずそうに視線を逸らす。  ほんのわずかに顔をしかめたように見えたのは、気のせいだろうか。  どこか居心地悪そうに「……ああ」と低く呟くその横顔は、まるで何かを誤魔化しているみたいだった。  一通り片付けを終えて、ふぅ、と小さく息を吐く。  ようやく一息つけたところで、俺はぽつりと呟いた。 「……さて、やることもないし、寝るか」  そう言って、何気なく寝室のドアに手をかける。  けれど――扉を開けた、その瞬間だった。 「……ユーマ」  ――不意に、背中から腕が伸びてきて。  俺の体が、ぐいっと引き寄せられる。 「……っ!?」  振り返る間もなく、ぴたりと背中にガウルの胸板が触れる。  その体温が、じんわりと俺を包んだ。 「ガ、ガウル……? 」  背後から抱き寄せられたまま、俺は戸惑いと動悸で言葉を失っていた。  そんな俺の耳元に、低く押し殺したような声が落ちる。 「……この前、俺が――あんたのものだっていう“証”が欲しいって言ったこと、覚えてるか……?」 「……え……?」  声が上ずりかけた俺の問い返しに、ガウルは少しだけ腕の力を強める。  その仕草が、まるで「逃がさない」と言っているみたいで、思わず背筋が震えた。 「今から……くれないか」  その声は静かだったけれど、  それ以上にどうしようもなく――熱かった。  心臓の音がうるさい。  何か言いたいのに、喉がふさがれてうまく声が出ない。  けれど―― 「ちょ、ちょっと待って……!」  俺が慌てて声を上げると、背後のガウルは低く呟いた。 「もう、待った」  その声は静かで、けれど妙に重たくて――体の芯がじわりと熱くなるのを感じた。 (ヤバいヤバいヤバい……!)  逃げ出すタイミングを完全に逸した。  視線が、寝室の奥にあるベッドに吸い寄せられる。  ただのシングルベッドを二つ、くっつけてるだけのはずなのに―― (な、なんで……なんで、あれが今はラブホのベッドにしか見えないんだ……!?)  息が詰まる。  背中に感じる体温と、耳元で落ちる吐息が、やけに熱い。 「ガウル……お、落ち着こう。な? こういうのは、ほら……段階っていうか、心の準備っていうか……! アヴィとクーが、戻ってくるかもしれないし……!」  必死に言葉を繋ぐけど、喉はカラカラで、うまく唾も飲み込めない。  背中越しに感じるガウルの体温が、じわじわと俺の肌を焼いてくる。 「……あいつらは、朝まで戻ってこない。そう、決めてある」 「…………っ!?」 (ちょ、ちょっと待って!? なにそれ聞いてない――ていうかそれ絶対、わざと仕組まれてるやつだよな!?!?)  脳内警報が鳴り響く。  ベッドの存在感が急激に増してくる。  空気の密度まで変わって感じるのは気のせいじゃない。 「ガ、ガウル……っ」  情けない声が裏返る。  でも、そんな俺の反応に動じることなく、ガウルは低く、やさしく――それでいて抗えない重みを持った声で囁いてくる。 「……ダメか?」  ダメ……か?  いや、そう聞かれた瞬間から、頭がショートしてる。 (や、やばい……っ。耳元で、そんなバリトンボイスで囁かれたら……脳みそが沸騰する……!)  必死に自分を戒めようとする。  俺の好みは――そう、ショタ。ぷにっとしてて、可愛くて、守ってあげたくなるような……! (なのに、なんで!? なんでこんなゴリッゴリの筋肉獣人に、脳がバグってんの俺!?)  広い胸板、太い腕、低くて落ち着いた声。  本来なら属性的にアウトなはずなのに―― (……ちょっと待って、もしかして俺、嫌じゃない……?)  怖い。  何がって、自分のこの感情が一番怖い。 「……ッ、そ、それ……は……」  否定したいのに、言葉が喉の奥に貼りついたまま出てこない。 「好きだ……ユーマ。あの森で、初めて会った時からずっと――あんたしか、見てない」  ……ずるい。  そんなふうに、まっすぐな声で言われたら。  ダメなんて、言えるわけないじゃんか。  でも。 「わ、わかんない……俺……。ガウルのことは……好きだけど……お、男だし……その、恋人としてとか、そっちは……考えたこと、ないっていうか……」  目を伏せながらしぼり出した俺の声に、ガウルは、静かにこう告げた。 「……なら、今、考えてくれ」  言葉と同時に、俺は強く抱きしめられたまま、ぐいと壁へ押しつけられる。  背中に硬い感触が当たって、思わず息を詰めた。  彼の指先がシャツの裾をそっと持ち上げ、素肌に触れる。  冷たくない。むしろ、熱い。  その手のひらが胸元を撫でた瞬間、喉の奥から情けない声が漏れそうになった。 「……っ、ガウル……っ」  名前を呼んでも、彼は何も言わなかった。  けれど、耳元に落ちた吐息が、すべてを物語っていた。  ふと鼻先をかすめた、淡くて、少しだけ湿った干草のような懐かしい匂い。  けど、その匂いの奥に、汗と熱と、獣の発情を思わせるフェロモンのような――今の“男のガウル”の匂いも混じっていて。  焦がれるように熱い体温が背中越しにじわりと伝わってくる。  壁とガウルのあいだに閉じ込められた俺の身体は、身動きすら忘れていた。 「……もう、限界なんだ」  低く、掠れた――でも、確かに抗えない声。  その一言とともに、ガウルの腕が俺をきつく抱きしめた。  わかる。  ずっと抑えていたものが、もう止まらないことくらい。  だって、ガウルの指先が震えてる。  こんなふうに、取り乱した彼を見るのは、初めてだった。 「っ……や、やめっ……」  拒もうとした言葉が、途中でふるえた。  ……ダメだ。  心の奥で、何かが崩れていく音がした。  その瞬間だった。  ガウルの唇が、俺のうなじに、そっと触れた。 「……っあ」  びくん、と肩が跳ねる。  噛みつくように、彼の唇が首筋をなぞった。  舌先が、ゆっくりと肌をなめあげる。  思わず、自分のものとは思えないほど情けない声が漏れた。 「っ、あ……待て……っ、そこは……っ」  恥ずかしいのに、声が止まらない。  頭の芯がしびれて、足元がぐらついた。 (……ああ、ヤバい。俺……もう……)  指先ひとつで、唇ひとつで、  こんなふうに体を溶かされていくなんて、思ってなかった。  ずっと守ってくれてた手が、今は俺のシャツの裾をまくり上げて、肌をなぞってる。  背中から押し寄せてくる体温が、まるで檻みたいに俺を囲ってくる。  逃げなきゃ、って頭のどこかで理性が叫んでるのに。  でも――ガウルにだったら。  このまま全部、掻っ攫われてもいいのかもしれないと……  そんなふうに思い始めている自分がいた。  耳朶にぴたりと触れた唇が、そっと、歯を立てるように甘く噛んだ。 「……っ、ガウル……!?」  不意を突かれた声が、掠れて喉から洩れる。  そのすぐあと、舌先が耳の内側をゆっくりと這った。 「ん、ぁっ……!」  ビクリと肩が跳ねる。  脳に直接熱が届くような感覚に、背筋がしびれた。 (ヤバい……ヤバい、耳はダメだ……!)  なのに、ガウルは執拗に何度も唇を這わせ、噛み、吸った。  その間にも彼の手は素肌の上を滑っていく。  腰のくびれをなぞり、脇腹に沿って胸元へ――。 「ん、ぅ……!」  指が触れたところから、電流のように甘い震えが走る。 自分でも信じられないほど敏感になっているのがわかった。 「……感じてる、んだな」  耳元で、低く囁く。  その声がまた、背中をぞわりと撫でていく。  恥ずかしくて、たまらないのに、抗う力がどんどん抜けていく。 「……あ、ぁ……っ、ガ、ガウル……」  上ずる声。  どうにか言葉を紡ごうとしても、唇は熱で乾いて震えてしまう。 「……ユーマ、いいか……?」 「っ、わ、わかんねぇ……っ、わかんねぇよ、俺……っ」 「じゃあ、身体に聞く」  その言葉と同時に、ベルトの音が軽く鳴った。  バックルが外れ、ズルリと生地がずらされる感覚。  冷たい空気に肌が晒されて――それよりも早く、ガウルの掌が俺を包んだ。 「――ぁ、……っ!!」  もはや声にならない。  ガウルの無骨な指に優しく絡められるたび、俺の意志に反して、欲望が首をもたげてしまう。 「――っあ、ま、待て……って……!」 「もう……待てない。止まれないんだ、俺は……」  その言葉とともに、体中に優しく、それでいて容赦のない愛撫が降りてくる。  耳元にふれた唇が、今度はやさしく耳殻をなぞって、そっと歯を立てる。 「っ……ぅあ……!」  腰がびくりと跳ねた。  自分が発した声の甘さに、自分がいちばん驚いていた。 (……やばい……俺、もう……)  ガウルの指先が、俺の胸元に触れる。  乳首をなぞるように、そっと、けれど執拗に愛撫されて――  体の奥に、ふつふつと熱が沸き上がっていくのがわかった。  腰を抱き寄せられた瞬間、理性がぷつりと音を立てて途切れた気がした。 「……あぁ、もう……ム、リ……っ」  喉の奥から漏れた声は、誰のものとも思えないほどかすれていて、情けないほど甘く、切羽詰まっていた。  恥ずかしい。  こんな自分、知らない。  でも、怖いくらい……気持ちいい。  まるで知らない生き物に変わっていく自分を止められなくて、俺は目の前の壁に、すがるように手をついた。  白くなるほど指先に力を込めても、膝はもう、役目を果たしてくれない。  震えがひどくて、自分の体が自分のものじゃないみたいだった。 「ユーマ……」  背後から名前を呼ばれただけで、身体の芯が痺れる。  耳元にかかるガウルの熱い吐息が、首筋をなぞって落ちていくたびに、腰の奥がひくりと跳ねて、自然と尻を突き出すような格好になってしまう。 (ちがう……っ、こんなのは……っ)  拒みたいはずなのに、もう、体はどこにも逃げ場を持たない。  背後から抱き寄せられたまま、俺の昂ぶりを包み込んだガウルの掌は――温かくて優しくて、なのに、容赦がない。  じわじわと、逃げ場をなくすような動きで、  敏感な部分を執拗に責めてくる。 「――っ、ひっ……あ、ぁぁ……!」  すでに濡れそぼった亀頭の割れ目を、指の腹で擦られた瞬間、全身が跳ねた。 熱が一点に集中して、あまりにも鋭い快感が、雷のように全身を貫く。  限界なんてとうに越えていた。  先端からとろりと溢れた愛液を指先ですくい上げられ、ぬちぬちと湿った音を立てて逃がす気もなく擦り込まれるたびに、身体がビクビク震え、頭の中が白く痺れていく――。 「あっ、ガウルっ……や、だっ……あっ……あああっ――!」  名前を呼んだ瞬間、体の奥で何かが爆ぜて、俺は声にならない叫びとともにガウルの腕の中で果てた。  背中を大きく仰け反らせて、張りついていた壁から腕が滑り落ちる。  全身の力が抜けて、もう何一つ支えられなかった。 「……大丈夫か」  耳元に落ちたその声は、あくまでも低く、優しい。  だけど今の俺には、それすらも甘すぎて苦しくて――息を返すことさえできなかった。  喉の奥で引っかかるような吐息を繰り返しながら、俺はただ、彼の腕の中で震える。 (ガウルに……イかされてしまった……)  しかもこんな呆気なく……。  自分でするより何倍も気持ち良くて。  視線を落とした先、俺の先端から弾けた白い痕跡が、情けなく床やシャツを汚していた。  全身が、恥ずかしさで火照っていた。 「……っ……」  ようやく呼吸が落ち着いてきた頃、不意にガウルの手が、名残惜しげに俺のものから離れていく。  そして次の瞬間、ふわりと体が浮いた。  抱き上げられている。  厚い胸板に支えられて、お姫様みたいに、俺はそっとシーツの上に寝かされた。  冷えた生地が、肌を包む。  それだけなのに、妙に生々しくて。  さっきまで自分がいた空気とは違って、何もかもがやけにくっきりと感じられて――  俺は思わず、シーツを握りしめるようにして後ずさった。  けれど――逃げ場なんて、どこにもなかった。 「……ユーマ」  熱のこもった瞳で見下ろされながら、  俺はガウルにゆっくりと、覆いかぶさられていく。  すぐ目の前にあるのは、何年も俺を想ってくれてた優しい獣の顔。  その唇が、そっと俺の額に触れた。 「……愛してる」  囁くような声が、耳元に落ちた瞬間、  心臓がひときわ強く跳ねた。  いつもそうだ。  ガウルは一言で、俺の世界を簡単に塗り替えてくる。 「ん、待っ……ガウル……っ」  言葉も抵抗も、もう意味をなさなかった。  首筋に落ちた唇は、乱暴じゃない。でも優しさとも違ってた。  必死だった。  この瞬間に、全部ぶつけるような――  言葉よりも本能に近い、真っすぐな執着。  胸が痛くなるほどの想いが、そこに詰まっていた。 (……こんなの、無理、だろ……) 「……ユーマ」  名前を呼ばれて、顔を向けたその瞬間、  唇が重なった。  ひとつの迷いもなく、やわらかく、でもひどく情熱的に注ぎ込まれるキスは、まるで何年分もの想いを、一度に流し込まれるみたいで——。 (……あ……唇ってこんなに柔らかいんだ………)  ほわっとした頭の片隅で、そんな事が浮かんでは消えた。  舌が触れ合い、熱が伝わる。  唇の裏側までくすぐられるような感触に、頭がぐらりと揺れた。  どこまでも優しくて、でも、激しくて――  俺を全部、奪っていくキス。  この口づけだけで、身体の芯まで、すっかり溶かされてしまいそうだった。 「……悪い。もう少しだけ……付き合ってくれ」 「えっ……あっ――」  引き止めるより先に、彼の手が俺の奥の窄まりをそっと撫でる。  その手つきに、迷いはなかった。 「……俺はもう、あんたの全部が欲しい。  誤魔化すつもりもない。……ずっと、こうしたかった」  ぶつけられる想いの重さに、胸がぎゅっと締めつけられる。  言葉に詰まった。  言いたいことは山ほどあるのに、どうしても口から出せなかった。  それでも――気持ちはもう、隠しきれない。  俺はそっと、彼の胸元を掴んだ。  その体温を感じることで、かろうじて自分を保っていた。  そして、唇が震えるのを感じながら、ようやく声にする。 「……もう、好きにしろよ」  それは、俺なりの精一杯の降参だった。  ガウルは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに、静かにうなずいた。  まるで、俺のすべてを抱きとめるように。  微笑みもしない。  でも、あの瞳の奥にある光が、何よりの返事だった。  触れられた肌から、熱がじわりと広がっていく。  まるで壊れものを扱うように、けれど決して遠慮ではない。  ガウルの指先は、丁寧に、深く――  熱く締めつける粘膜を、ひとつひとつなだめるように広げていく。  俺の身体の奥を、確かめるように、慈しむように解してくる。  その手つきが、何より雄弁に語っていた。 「おまえを、大事にする」と――  口に出さずとも、すべてが伝わってきた。  言葉にならない想いを、体温が、吐息が、ひたむきに、繰り返し伝えてくれる。 「……ガウル……っ」  自分でも気づかぬうちに、名前を呼んでいた。  溶けるような声が漏れ、視界が滲む。  胸がきゅっと痛むほど熱くなって――  最後に残っていた理性の灯火が、静かに、そっと、消えていった。 「ユーマ……」  耳元に落ちた、低く甘やかな声。  それだけで背筋に電流が走るような感覚が広がる。  こんなにも無防備で、こんなにも――  幸福だなんて、知らなかった。  解されたそこに、熱を帯びた塊が、そっと入り口に押し当てられる。  触れた瞬間、びくんと腰が跳ねた。  そして次の瞬間、ずぶり――と、奥へと沈んでくる。 「あっ……! ぐ、ぅっ……」  想像以上の熱さと硬さに、息が詰まる。  強引ではない。でも、迷いもなかった。  俺の奥を押し開けながら、確実に、深く進んでくるその圧に、ただ目の前が真っ白になる。 「悪い、ユーマ……。でも、もう……無理だ」  掠れた声が耳元で落ちた。  それがあまりに震えていて、俺は思わず息を呑んだ。 (……そんな声、聞いたことない……)  苦しいはずなのに、体はそれを拒みきれない。  逃げようとした腰を、優しく――でも決して離さない強さで、彼の腕が抱き留める。  気づけば俺は、両腕を伸ばして彼の背中をぎゅっと抱きしめていた。 「……っ、ガ、ウル……」 「……奥まで……入った……。ユーマ、大丈夫か?」  ゆっくりとした問いかけ。  俺を気遣う声。  それだけで、苦しさの奥にある“安心”が、心のどこかで膨らんでいく。 「……う、ん……ちょっと……まだ……苦しいけど……」  そう答えると、ガウルは大きな体を少し丸め、額を俺の肩口にそっと押し当ててきた。  その呼吸の乱れと小さな震えが、皮膚越しにダイレクトに伝わってくる。 「……ありがとう。……怖かったら、止める。俺は……あんたを、ちゃんと愛したいから……」  その言葉に、胸がきゅっとなった。  返事をしようとした瞬間――  彼の腰がゆっくりと引かれる。  ズリ、と引き抜かれる感覚が鋭く背骨を撫でて、俺は思わず声を漏らした。 「んっ……! あ、ぁっ……」  そしてすぐに、再び熱が奥に押し込まれる。  壁の奥に、ガウルの質量がぶつかってくる。 「……ん、んんっ……ああっ……!」  言葉にならない吐息が、口からこぼれていく。  痛みと快楽が交錯して、泣きそうになるのに――  どこか、幸せな感情も混ざっていた。 「ユーマ……苦しいか……?」  掠れるような声が、耳元でそっと響く。  その問いかけに、俺はほんの少しだけ首を振った。  ガウルは何も言わずに、俺を強く、けれど丁寧に抱きしめた。  触れ合うたびに、心がほどけていく。  熱が重なり、息が絡み、  俺たちは本当に「混ざり合って」いた。  痛みも、戸惑いも、恥ずかしさも、全部。  彼の体温が、俺の全部を包み込んでくれた。 「……ガウル……ガウル……」  気づけば、何度も名前を呼んでいた。  深く繋がるたびに、彼の熱が俺の奥に残るたびに――  心まで、彼に染められていくのがわかった。  もう、戻れない。  でも、それでいい。 「愛してる、ユーマ。俺は、ずっと……ずっとあんただけを……」  その声が、やさしくて、でも切実で――  俺の理性は、もうとっくに溶けていた。 「……っ、あ……ガウル……ッ、もっと……奥……っ」  願うような声でそう囁くと、ガウルは一度だけ目を閉じて、そしてまた静かに腰を動かし始めた。  リズムはゆっくりだった。  ひと突きごとに、奥深くまで届く体温が、俺の中を溶かしていく。 「あっ……う、ぁ……ガウル……っ」  突き上げられるたび、奥の一点が擦られて、腰が勝手に跳ねる。 「そこっ……ぃ、んっ……! ッ、そこばっかり……擦んな……バ、カっ……」 「ふっ、あんたが欲しがったんだろ……?」  耳元で囁かれ、唇が首筋をなぞる。  甘やかな愛撫と、深い結合の熱が、内側から何もかも壊していく。  もう、痛みじゃない。  ただただ、心が痺れるように――  愛されてる。 (……だめだ、俺……もう……っ) 「ひあっ……! んっ、あっ、あ……!」  もう、言葉にならない。  頭の中も、感覚も、全部ガウルにかき乱されて、  ただ溢れ出す声を止められない。 (だめ……だっ、気持ちよすぎて……)  翻弄されるまま、甘い痺れに身を任せるしかなかった。  そして、無意識にナカを締めつけてしまったとき―― 「……っ!」  小さく息を呑んだガウルの喉が、震えた。  その直後、彼の腰の動きががらりと変わる。 「くっ……悪い、ユーマ……もう、我慢できない……っ」  次の瞬間、激しく何度も奥を突かれて、俺は目の前が真っ白になるような感覚に襲われた。  喉から洩れた叫び声とともに、ガウルの熱が脈打つように注ぎ込まれていく。 「やっ……ガ、ガウル……あっ、ああぁっ!」  体の奥が灼けるように熱くなって、俺も同時に、絶頂へと押し上げられていった。 「っ……あぁ、っ……!」  痙攣する身体を、ガウルは一言も発さずに、ただきつく抱きしめていてくれた。  全てが終わっても、彼の腕は解かれない。  胸に感じる体温と心音が、まるで自分のものみたいに思えて、それだけで、涙が出そうになった。  ――いや、実際に零れていた。  頬を伝って落ちたしずくに気づいたガウルが、焦ったように顔を覗き込んでくる。 「ユーマ……っ、……痛かったか……?」  その顔が、どうしようもなく優しくて、まっすぐで――  胸の奥が、またきゅっと締めつけられた。 「……ちが……うよ」  思わず笑ってしまう。  泣きながら笑うなんて、情けないって思うのに、止まらなかった。  あの頃みたいに小さな背中じゃなくなって、今は俺よりずっと大きくて、あたたかくて――  だけどその胸の奥にある想いだけは、昔も今も、変わらずまっすぐだった。  ずっと不器用な“好き”を伝えてくれてたのに、ちゃんと向き合おうとしてなかったのは、きっと俺のほうだ。  だからこれは、あの頃の気持ちとは違う。 「好き」よりもずっと奥のほうで、ようやく、ちゃんと触れられたんだ。  ***  ガウルのユーマへの好意は、正直言ってめちゃくちゃ分かりやすかった。  オレがまだ“チビ”だった時――背も低くて、声も甲高くて、暇さえあればユーマにぎゅっと抱きついてたあの頃は、ユーマにじゃれついても、ガウルは特に何も言わなかった。  けど最近は、ちょっと違う。  オレがユーマの腕を取っただけで、肩を叩いただけで、ガウルは無表情のまま、ゆっくりと目だけを動かす。  表情は変わらない。けど――  皮膚がピリつくような、“不機嫌”の匂いが漂ってくる。  ……たぶん、これ、人間には分からない感覚だと思う。  獣人ってのは、感情を匂いで感じ取る。  喜びは甘い、怒りは鉄のように錆びた匂い。  ガウルのそれは、焚き火の下でじわじわ燻された炭のにおい―― 「誰にも触らせたくない」っていう、焼け焦げるような独占欲だ。  オレとアヴィは、森の外れで夜間の見張り中。  夜行性の魔物が出るって話だったけど、今のところ静かなもんだ。  ……まあ、静かすぎるのも、それはそれで不気味なんだけど。  夜の空気を胸いっぱいに吸って、オレは枝の先っぽで葉っぱをくるくる回しながら言った。 「ガウル、ちゃんとユーマに好きって言えたかなぁ?」  わざと軽い口調で言ったけど、本音を言えば、ちょっと気になってる。  ……いや、ちょっとどころじゃないな。  全く嫉妬してないなんて言ったら、嘘になる。  けど、それ以上に胸にくるのは――やっぱり、心配だ。  ユーマが、ちゃんと笑っていられるかどうか。  ……それだけは、どうしても気になってしまうんだ。  アヴィは火の番をしながら、ちらりとこっちを見た。  そして、いつもの穏やかな顔で――まるで何でもないように、こう言った。 「さあ? ……ガウルさんのことだから、無理やり押し倒してるんじゃないですか?」 「……わあ。わりと真顔で言うね、それ」 「……だって、わざわざ僕たちと手を組んでまで、ご主人様と“二人きり”になる機会を作ったんですよ?  まさか何もせずに夜を越すなんて……そんなこと、あると思いますか?」  アヴィは静かに笑ったまま、まるで当たり前のことのように言う。 「ご主人様を“欲しい”って思った時点で、もう共犯なんです。  ――欲しいものを手に入れるのに、やり方なんて選べませんよね?」  淡々とした口調なのに、背筋がすっと冷える。 「……それは、そうだけどさ。ユーマ泣かせるのだけはナシだよ。泣かせたら、オレ、怒るから」  アヴィは微笑んだまま、ひとつ瞬きをする。  その目は――ひどく優しげで、ひどく冷たい。 「……大丈夫ですよ、クーさん。泣かせたりなんかしません。  ただ――泣いて縋りたくなるくらい、僕のものにしたいだけです」 「いや、それもう泣かせにいってるやつじゃん!」  オレのツッコミにも、アヴィはふっと笑った。  その笑みはどこか恍惚としていて、目元には熱を帯びた光が宿る。 「だって……ご主人様が僕の腕の中で涙をこぼすところ、想像してみてください。  弱音も恥も、全部さらけ出して――  僕だけに打ち明けてくれるなら……それだけで、嬉しくてゾクゾクしませんか?」  声はいつも通り穏やかで、言葉選びも丁寧なのに。  その言葉の奥には、“壊す”のではなく“絡め取る”ような、静かな狂気が滲んでいる。 「だから、泣かせるんじゃなくて――  “泣かせてあげる”んです。……優しく、逃げ場も残さずに」  アヴィの言葉が静かに終わるころ、  オレは――思わず、ほんの少しだけ距離を取ってた。  なんか、今の笑顔、めっちゃヤバいの混ざってなかった!?  普段は穏やかで礼儀正しい分、余計に怖い!  オレは決意する。  絶対ユーマを泣かせたりしない。  怖がらせたりもしない。  怒らせもしないし、不安にもさせない。  ユーマが笑ってくれるなら、それでいい。  だからオレは―― 「……オレは、ちゃんと優しくするから」  ぽつりと、そう言った。  ほとんど誓いのような、静かな声で。  その隣で、アヴィは相変わらず穏やかに微笑んでいる。  けれど、その笑みに宿る“何か”が、どうしても拭えない。  底の見えないあの瞳に、また、ぞくりと背筋が震えた。  ……やっぱり、オレが守らなきゃダメだ。  ユーマの笑顔も、泣き顔も、全部。  オレが――全部、守るんだ。  その瞬間、胸の奥で何かがふつっと灯る音がした。  たぶん今、オレの中の「ヒーロー魂(?)」が、静かに――でも確かに、燃えはじめた気がした。

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