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第19話 誰か、俺に休みをくれえええええ!!②ー水曜日のクーー ※R描写あり
(※性的描写あり)
「ごちそうさまでした。……では、ガウルさん、行きましょうか」
そう言って、皿を流しへ運びながら静かに立ち上がったアヴィの背中に――
俺は、言いようのないデジャヴを覚えた。
まるで、以前にもまったく同じ光景を見たことがあるような、
あるいは、これが“繰り返されている”何かであるような、そんな――
得体の知れない感覚に、背筋がひやりとした。
「今日はガウルとアヴィが夜勤……?」
ちょっと待て。ってことは――
「いってらっしゃーい♡」
いつのまにか俺のうしろに立っていたクーが、玄関に向かうガウルとアヴィに、にこやかに手を振っていた。
そして、バタンと扉が閉まる音。 ……沈黙。
(あれ?俺、今めっちゃまずい状況にいるんじゃ――)
「ユーマ♡」
その声がした瞬間、嫌な予感が背筋を駆け抜けた。
振り返った俺の視界に、にっこにこに笑うクーの顔が飛び込んでくる。
「今日は、ふたりきりだね〜♡」
「ま、待て! 落ち着けクー! その笑顔、なにかとてつもなくヤバい匂いがするぞ!?」
「だいじょーぶ。ちゃんと優しくするから♡」
「いや、そういう意味じゃねえ!! ちょ、おま、話を――!」
逃げる暇も与えられず、クーの腕が俺の腰をすっぽりと抱え込む。
軽く引き寄せられたはずなのに、体格差のせいで感覚は“強制連行”。
「ちょっと、クー!? お前、また――って、ベッド! ベッドはダメだろ!!」
「えへへ♡ だいじょーぶだってば。オレ、ユーマのことだいすきだもん」
満面の笑顔。
完全に理性のタガが外れた男の笑顔である。
「そういう問題じゃねえ! ちょっとは人の都合を――お、おい、やめ、やめろーっ!?」
声を上げる間もなく、俺はベッドの上に押し倒されていた。
そのままクーの腕の中に包み込まれ、あっという間に身動きを封じられる。
「……ねぇ、ユーマ」
顔が近い。耳がかすかに触れて、息がかかる。 あったかくて、甘ったるくて、獣の匂いがふわりと混ざる。
「今日は……ユーマのこと、いっぱい可愛がってもいい?」
その囁きと同時に、クーがぐっと距離を詰めてくる。
潤んだ瞳でまっすぐ見つめてくるもんだから、俺は思わずたじろいだ。
「ちょ、ちょっと待て! その前に! 先に聞きたいことが山ほどあるんだが!?」
ベッドの上、がっちり横抱き状態――これ、ガウルのときと同じシチュエーションじゃん!?
ってことは、つまりこれは……そういう展開になるってことか!?
しかもこの状況、よくよく考えれば――
「俺の負担を軽くするための夜勤」って、めっちゃ都合のいい建前じゃねぇか!!
(いや待て、確かに金銭的な負担は減るかもしれないけど……
そのぶん俺の負担(物理)はめちゃくちゃ増えてるんだが!?!?)
「これ絶対、お前らグルだろ!? “今日はクーの日ね♡”みたいなシフト制になってるだろ!? 俺の人権、どこいったんだよ!?!?」
俺の問いかけにも、クーはふにゃっと微笑むだけ。
「えへへ♡ だって、ユーマ可愛いし。オレも……ずっと、したかったんだもん♡」
「お前なァァァ!! 人の尊厳を返せ!! 俺の意思とか、意見とか!! 何処に置いてきたんだよ!!!」
「んー……ユーマがいちばん可愛いのは変わらないから、大丈夫♡」
「答えになってねぇぇぇ!!!」
ああもう、頭の中がぐるぐるして、うまく考えがまとまらない。
何が正しくて、どうするべきかなんて、全然わからない。
……けれど、それでも。
クーの体温は、ただ静かに、やさしく俺を包んでいた。
触れてくる指先のぬくもりが、じわじわと心の奥に染み込んでいく。
まるで、綿あめで編まれた蜘蛛の巣に絡め取られるみたいだ。
抗いたいはずなのに、抗えない。
甘くて、心地よくて、怖いくらいにやさしい。
(……こんなふうに優しくされたら、もう逃げられなくなる――)
「ユーマ。今日は……いっぱい甘えさせてね。オレ、ずっと、我慢してたんだから」
「ぐっ……ッ、だからってなぁ……っ……」
(このままじゃ、また流される……!)
混乱する俺の声をふわっと塞ぐように、クーの唇が優しく触れてきた。
「……ね、ガウルとしたんでしょ? じゃあ、オレともしよ♡」
ぽつりと落とされたその一言に、心臓がひゅっと跳ねる。
無邪気そうに笑うクーの顔が、やけに近い。
「ちょ……お前、なんでそれを――」
「あのあと、ガウル、すっごく機嫌よかったもん。……わかるよ、そんなの」
「……っ」
さっきまでの柔らかい笑みはそのままなのに、
クーの瞳はどこか、意志の強い光を宿していた。
「……オレも、甘えていい? ……ユーマに、いっぱい、触れたい」
耳元で囁かれた瞬間、ぞくりと背筋をなぞるような感覚が走った。
その声には、甘さだけじゃなく、熱と――どこか滲む切なさが混じっていた。
「クー……俺の気持ちは……どうなるんだよ」
自分でも答えを持てないまま、思わず口をついて出た言葉。
クーは少しだけ間を置いて、ぽつりと尋ねた。
「……ガウルの方が、好き?」
思わず沈黙してしまう。
ガウルが好きかどうか――というより、問題はそこじゃない。
俺は、どちらかといえば “ショタ派” なんだよ。
なんでこのタイミングで、そんな根本的な性癖の話をしなきゃいけないんだ。
(……進化する前のクマショタに戻ってくれ、なんて……言えるわけがねぇ!!)
黙ったまま固まる俺に、クーはふっと笑って、静かに言った。
「……いいよ、ガウルのことが好きでも。
……目、閉じてさ。オレのこと、ガウルだって思ってくれていいから」
絞り出すような声。
まるで“拒まれる”ことが怖くて、先に身を引いてしまおうとするかのように。
(だから、そうじゃねぇっての!!!)
心の中で思いきりツッコみながらも、そんなこと言ってくるクーが愛しくて、ちょっと切なくて、でもやっぱりズルいと思った。
「……なんで、そうなるんだよ」
思わず吐き出した言葉に、自分でも苛立ちがにじむ。
「目を閉じたって、お前はお前だろ?……誰と間違えるわけ、ないだろ」
「……よかった。……オレ、ユーマのこと、いっぱい好きで……ずっと、見てほしかったんだ」
クーはふにゃっと笑ったその笑みのまま、ゆっくりと俺に顔を近づけ――そっと、抱き寄せるように腕をまわす。
そして次の瞬間、俺の上に覆い被さるように体を重ねてきた。
視線が絡む距離。
体温と息遣いが肌を撫でるように伝わってくる。
クーの指先が、そっと俺の頬に触れた。
その目には、いつもの無邪気さとは違う、真剣で――どこか寂しげな光が宿っていた。
「オレ、ユーマが好きだよ」
その一言が、胸の奥にまっすぐ落ちてくる。
ふざけたやり取りだったはずなのに、今はもう――笑えなかった。
「……そんなふうに言われたら、逃げられなくなるだろ……」
「うん……逃がしたくない。ずっと、そばにいてほしいんだ」
そう言って、クーはにこっと笑った。
ひどく優しく、残酷なほど可愛くて――その笑顔に、俺の中の抵抗は、もうとっくに意味を失っていた。
クーは俺を包み込むように抱きしめてきた。
「……やっぱり、ユーマ、あったかいね♡」
囁くような声と同時に、頬に、まぶたに、額に――
やさしいキスが降り注いでいく。
「ふふ……こことか、ここも……ぜんぶユーマの大好きなところ♡」
ちゅ、ちゅ、と音を立てて肌に触れる唇が、
くすぐったくて……でも、どこかくやしい。
「や、やめろって……くすぐったい……!」
「じゃあ、もっと気持ちいいことする?」
「ばっ……か、お前……!」
恥ずかしくて抗議の声を上げかけたその時には、
クーの唇が、俺の唇をやさしく塞いでいた。
ちゅっ、ちゅ……ちゅ……
一度離れても、すぐに重なるキス。
何度も何度も、まるでそれだけで愛を伝えようとしてくるみたいに。
「ん……っ、ふ、くっ……ちょ、ちょっと待て……!」
必死で口を離すと、クーは拗ねたように眉を寄せた。
「えー……やだ。もっとキスしたい。足りない……ぜんぜん、足りないよ」
そう言って、俺の頬を両手で包み込みながら、
とろけるような目で見つめてくる。
自分の鼓動が、クーの胸の中でどんどん早くなっていくのがわかる。
「好きだよ。ユーマの全部が……だいすき♡」
唇を甘く吸われながら、耳元で甘えたように囁かれて、心も体も、どんどん溶かされていく。
クーの優しさとまっすぐな愛情が、ずるいくらい心地よくて――
クーの手が、背中をゆっくりと撫でながら腰に回ってくる。
ふわっとした抱擁じゃない。しっかりと包み込まれているのが分かる。
その腕の中で、俺はどこにも逃げられなかった。
「ねぇユーマ……すごく、可愛い顔してる……。さっきから、ずっと見とれてたんだよ」
耳元に落ちる声が甘すぎて、背筋がゾクリと震えた。
頬をぴったり重ねたまま、鼻先がこすれ合う距離。
息すら、交わるくらい近い。
「……っ、見るな……」
「やだ。もっと見たい。……ユーマがとろけてく顔、大好きだから♡」
そう囁いて、唇をそっと押し当ててくる。
舌を差し込むでも、乱暴に啜るでもない。
けれど――深い。
ゆっくり、じわじわと、舌を這わせるように絡めて、
まるで溺れさせるみたいな、長い長いキス。
息ができなくなっても、なぜか苦しくない。
心地いい、体の奥がじんわり痺れていく感覚だけが、そこにある。
「ふ、ぁ……っ、は……ん、ん……っ」
吸われて、舌先を優しく捕らえられて、
頭の芯がふわっと浮いていくような快感に、思わず声が漏れる。
「……ユーマの声、エッチでかわいい。もっと聞かせて?」
クーの手が腰のあたりをなぞりながら、
肌の温度を確かめるように、やさしく押し当てられてくる。
「だ、だめ……だっ、クー……っ」
ちゅっ、ちゅっ、と、首筋、鎖骨、胸のあたり……
クーの唇が這うたび、熱が肌に吸い込まれていくみたいだった。
クーの身体が重なるたび、ベッドの上の空気がじんわりと熱を帯びていく。
「ユーマ、かわいい……キス、もう一回していい?」
その声音があまりにも優しくて、俺は無言で頷いてしまった。
頬を寄せられ、また深く、じっくりと舌を絡められる。
ぬるりとした柔らかい感触と、唇が吸いつくたびに鳴る水音が、耳の奥に焼きついた。
「ん……ぅ、んんっ……ふ、ぁ……っ」
息もできないほどに唇を塞がれて、それでもクーの腕の中は心地よくて。
強引さより、溺れさせるような甘さのほうが、よほど危うかった。
(……っは、もぉ……ダメだ……。気持ちよくて、考える余裕なんてどこにも……ない……)
俺の体は、もうとっくに覚えてしまってる。
クーの手の温度も、舌の動きも、腰に沿って撫でられるその軌跡も。
「ユーマ……ここ、気持ちいいよね……♡」
下腹部を撫でられた瞬間、ぴくりと体が跳ねた。
服越しでもはっきりわかるほど、俺のそこは熱を持って張りつめていて。
「ひっ、ぁ……だ、だめ……っ、クー……!」
「だめじゃないよ。ユーマが気持ちよくなってくれるの、オレ、すごく嬉しいんだ」
優しい笑顔で、でも容赦なく、
俺の欲情をあぶり出すように指先が敏感な先端を撫で上げてくる。
「……っ、ん、んんんっ……!」
(やめろ、やめてくれ、そんなふうに触れられたら――)
「ユーマ……いっぱい気持ちよくしてあげる。……オレだけ、見てて?」
そう言って、クーは俺の服の裾をゆっくりとたくし上げた。
肌が露わになっていくたび、そこへ唇を落としてくる。
下腹部、太ももの内側、腰のくぼみ――
まるで愛撫の雨が降り注ぐみたいに、熱く、やわらかく。
「んぁ、あ……や、ぁっ……!」
焦らされて、丁寧に責められて、
すでに俺の理性は崩壊寸前だった。
俺のそこを優しく包み込んだクーの口が、何度も、くちゅ、ぬち、といやらしい音を立てながら、舌先で丁寧に味わうように責めてくる。
「んぁ……っ!」
突然訪れた直接的な刺激に、全身が大きく跳ねた。
クーの口の中であまりにも熱く蕩けるような温もりに包まれた瞬間、頭の中で火花が散ったような錯覚すら覚えた。
(嘘だろ……)
恥ずかしさと罪悪感で顔が熱くなる。けれど彼の舌先が優しく絡みつく感触に抗えない。
「ク、クー……やめて……」
言葉とは裏腹に身体は正直だった。クーの頭を押し返そうとする腕には全く力が入らず、逆に彼の髪をそっと掴んでしまう始末だ。
(ダメだって分かってるのに……)
自分の中に渦巻く欲望に戸惑う一方で、「もっと」と求めてしまっていることも否定できない。
「……っ、クー……やめ……そんな……ところ……」
抗議の言葉は、かすれた吐息とともに掻き消えた。
彼の唇が、さっきよりも深く吸いつき、同時に指先がそっと根元を押さえつける。
身体の奥底で押し留められていた熱が、行き場をなくしてふっとせり上がる。
自分の意思とは裏腹に、腰がわずかに跳ねた
「可愛い声……もっと聞きたい……ユーマが感じてくれてるのが伝わってきて……オレもすごく幸せなんだ」
そう囁く声が耳をくすぐる。
次の瞬間、熱を帯びた舌先が触れた。
柔らかく、円を描くように――まるで慈しむような動きで、じっくりと先端を撫でられていく。
思考は霞み、感覚だけが際立っていく。
ただひたすらに、静かに波紋のように広がる快感に、身を委ねるしかなかった。
「あっ……ん…だめ、だっ……もぅ……おかしくなる……っ」
必死に抗っても、彼はどこか楽しげに微笑んで――そのまま、さらに深く咥え込んでいく。
喉奥に届いた瞬間、ぴたりと止まり、まるで計ったような圧で締めつけられた。
(っ、あ……!)
たまらず目を見開いた俺に、クーは上目遣いで微笑みながら「……気持ちいい?」と問いかけるような眼差しを向けてくる。
その表情が、あまりにも艶めいていて――思わず息を呑んだ。
まるで俺の反応を楽しむように、クーの舌先が慎重に、けれど確実に、敏感な場所をなぞってくる。
一瞬、全身がびくりと跳ねた。
反射的にシーツを握りしめた手に、知らず知らず力がこもっていた。
「……っ、ん……ぁ……あ……っ……」
漏れ出た声は、押し殺したはずなのに、夜の空気に溶けていくように響いた。
クーはそんな俺の様子に、嬉しそうに細めた目で見上げてくる。
そして、さらにゆっくり、丁寧に――唇と舌で、愛おしむように触れてくる。
ときに優しく包み込むように、
ときに焦らすように、先端だけをすくい上げるような動きで――
まるで、どれほど俺のことを感じたいのかを伝えてくるようだった。
「っ……ク、クー……や……っ、あ、だ……」
抵抗の声も、揺れる身体にかき消される。
理性なんて、もう何の役にも立たない。
ただ、与えられる快感に振り回されて――翻弄されて――そのたびに、心の奥が、壊れていく。
「……クー……そこ……」
言葉にならない懇願が、喉の奥で震える。
触れられるたび、溶けていくのは身体だけじゃない。
心も、理性も、すべてが崩れていく。
でも、それがどうしようもなく心地いいと感じてしまう自分が、もういる。
「ココ好き?」
尋ねられても、もう声にならなかった。
喉の奥で息が絡み、かすれた吐息が零れるばかり。
熱をもった唇と指先が、同時に肌を這い――
どちらがどこを触れているのかすら曖昧になるほど、感覚が溶けていく。
一方はじんわりと吸いつき、もう一方は焦らすように撫でられて。
それぞれが独立していたはずの快感が、いつの間にか重なり合い、
意識の底に甘く濃い痺れを広げていった。
「……やだ、変な声、出る……」
情けなく零した言葉すら、クーには嬉しそうに受け止められてしまって――
どうしようもなく、体の奥が疼いていく。
「もう……だめぇ……!」
拒もうとした意志は、ただのかすれた抵抗にしかならなかった。
吸い尽くされるような熱に呑まれて、気づけば、限界なんてとうに越えていた。
「やっ、あ、ああああっ……! やだ、も、っ、く、う、ぁああああっ……!!」
視界が白く弾けた。
言葉も、思考も、身体もすべて――
甘い快感の奔流に呑まれて、堕ちていった。
クーは、何度も「好きだよ」と囁きながら、
俺の名前をやさしく呼び、そっと抱きしめてくれた。
「……ユーマ……」
その声音だけで、胸の奥がじんわり熱くなる。
汗ばんだ肌同士が触れ合う感触も、もう心地よくて仕方がない。
けれど、ふいに――太ももに、固くて熱を持った“何か”が押し当てられた。
(……え?)
明らかに、異質な感触。
熱く、硬く、そして――尋常じゃない存在感。
(ちょっ、まって……まさか、これって……)
脳が、目の前の事実を処理しきれずにフリーズする。
視界に映るよりも先に、肌がその“異物”の圧を正確に感じ取っていた。
(……知ってた。知ってたけど……!)
呼吸が乱れた。全身がざわつく。
理性が警鐘を鳴らすのに、クーの柔らかな声が、そのすべてを上書きしてくる。
「ユーマの、ここに、オレの挿れていい……?」
「……っ!」
太ももの奥をそっと撫でられる。
もう片方の手が頬に添えられ、視線を絡められる。
(ど、どうしよう……!)
頭では「無理だ」と叫んでいるのに、
クーの熱と想いに包まれているうちに、恐怖と同じくらい――いや、それ以上に、「このまま受け入れたい」という気持ちが膨らんでいく。
「……嫌なら、やめるよ? ムリにしたくないから」
囁く声はいつも通り優しいのに、その瞳には揺れる炎があった。
欲望――それだけじゃない。
不安と、焦りと、切なさが、まるで拠り所を求めるように滲んでいる。
「……怖くないよって、言いたいけど。オレも……ちょっと、怖いんだ。
でも、ユーマが欲しくて……どうしようもないんだよ」
手のひらが、そっと触れる。
震えていたのは、自分だけじゃなかったと気づいた時――胸が締め付けられた。
(怖い……けど)
クーの全部を受け入れたいという気持ちも確かにあった。
「……少しずつ……なら……」
掠れる声で、ようやくそれだけを絞り出す。
「うん。ありがとう、ユーマ♡」
クーが、そっと額にキスを落とす。
その唇が、愛おしさを滲ませるように、ぬくもりを残していく。
「ユーマのペースでいいよ。無理はさせない。大事にするから……ね」
彼の手がゆっくり腰に滑り、まるで体温を分け合うように包み込んでくる。
触れるたび、そこから熱が滲むように広がって、全身がとろけていく。
「ふっ……」
小さく息を漏らすと、それに応えるように彼の唇が首筋へと降りてきた。吸いつかれるたびに身体の力が抜けてしまう。
「ユーマに辛い思いさせたくないから、少しずつ、解すね?」
その言葉と同時に、クーの指先がゆっくりと俺の体内に侵入してきた。
「ん……っ」
冷たく湿った感触に身体が一瞬強張る。それが潤滑油だと分かるまで数秒かかった。
(……異世界に、そんなのあったんだ。
っていうか!エロが文化を発展させるって言うけど――
マジで、どこの世界でもそうなんだな!?)
最初は、そんなくだらないツッコミで自分を保とうとしていた。
けど――ダメだった。
クーの指が奥を撫でる度に、息が止まりそうになった。
優しくて、あたたかくて、どこまでも丁寧で……
まるで、壊れものに触れるような繊細さ。
なのに、芯の部分には確かな欲があって――
ひと撫でするたび、俺の中の“平静”は、じわじわと溶かされていく。
内壁を傷つけないようにゆっくりと動かしながらも、時折核心を避けるように掠める。
「痛くない?」
心配そうに覗き込む瞳には俺しか映っていない。
「だいじょうぶ……」
嘘ではない。まだ異物感はあるものの、痛みはまったくない。
彼は、ほっとしたように微笑むと、今度は二本目の指を添えて再び入ってくる。
最初よりも抵抗が大きいが、それでもクーの動きは慎重そのものだ。
クーの指先が内側のある一点を掠めると
「ひっ!」
背筋に電流のような衝撃が走り抜けた。全身が痙攣し反射的にクーの肩を掴んでしまう。
「……ここ?」
確認するように何度も同じ場所を優しく圧迫される度、脳天まで突き抜ける快感に襲われてしまう。
「ぁ……クー……そこは、だめ……っ」
喘ぎ混じりの制止の声も、彼には届かないのか、それとも届いたうえで無視されたのか。
クーの指先は、まるで意志を持っているかのように緩むことなく動き続け――むしろ、その動きは徐々に熱を帯びていった。
三本目が加わった瞬間、微かな抵抗が音もなくほどけてゆく。
深く、奥まで――優しく、でも確実に侵されていく感触に、もう何も考えられなくなる。
身体の奥底で、甘い痺れがじんじんと広がっていき、知らぬ間に声まで蕩けていた。
「……く、ぁ……んっ……ああ……っ」
息が漏れるたび、体が勝手に応えてしまう。
クーの指が動くたび、熱と快感が波のように押し寄せてきて――
頭の芯まで、とろとろに溶かされていくようだった。
――ああ、もう、ダメだ。
クーに触れられて、愛されて、満たされるって、こういうことだったんだ。
抗おうとしてたのが、どれだけ無意味だったかを今さら思い知らされる。
ただ、感じることしかできなくなった身体で、俺はようやく実感する。
心も、身体も――すっかり、彼に委ねてしまっているんだと。
クーは俺の腰を抱いたまま、静かに身体を密着させてきた。
ぬるんと熱を帯びた箇所に、硬くなった彼のそれが押し当てられ、びくりと身体が震える。
「……いくね」
囁くような低音が耳元に落ちた直後――
ぐっと押し込まれるような圧迫感が走った。
「っ……!」
指とはまったく違う。
ずっしりとした質量が、入り口をぐいぐい押し広げながら迫ってくる。
まだ奥まで来ていないのに、すでに中が張りつめるほどの存在感があった。
「……ぅぐっ……!」
予想以上の違和感と、つい声になって漏れる苦しさ。
呼吸が浅くなり、眉間にしわが寄る。
頭がぐらつくほどの感覚に、思わずシーツを掴んだ。
「ユーマ……!? ごめん、痛い……?」
クーが慌てたように腰の動きを止める。
額には汗が浮かび、唇を噛むようにして俺の顔を覗き込んできた。
「だ、大丈夫……でも……思ったより……きつい……」
ようやく絞り出した言葉に、彼は息を飲む。
その奥に宿るのは、自分を責めるような戸惑いと、どうしようもない葛藤だった。
「まだ、半分も入ってないんだけど……。無理に動かすと、ユーマが壊れちゃいそうで……」
焦り混じりの声音。
こちらを気遣いながらも、クーもまたどうしようもない欲と熱に呑まれているのがわかった。
彼の体温が、肌を通してひしひしと伝わってくる。
「ごめん……今日は、ここまでにしよう」
彼がそう言って、ゆっくりと腰を引いた。
抜けていく瞬間――
ズルリと内側を撫でながら出ていく感触に、また違った意味で息を呑む。
「っ……ぅ、ん……」
解放されたはずなのに、残る熱と疼きがやけにリアルで、やるせない。
「ごめんね、ユーマ……。オレ、ちゃんと待てるつもりだったのに……」
そう言ってクーは、俺の額にそっとキスを落とした。
「いや……俺の方こそ。力んじゃって……」
震える声でそう返すと、彼の手がゆっくりと俺の髪を撫でる。
湿った前髪を梳かれるそのたびに、心の奥がじんわりと温かくなっていった。
静かに重なり合う額と額。
肌と肌を寄せ合いながら、俺たちはしばし、何も言わずに呼吸を重ねた。
「……ユーマ、別の方法にしよう」
クーの囁きは、耳の奥をくすぐるように甘く低かった。
俺の腰にそっと手を添えて、横向きにされたかと思うと、そのままそっと背後から腕がまわる。
俺の体を優しく引き寄せたクーは、横向きのままでぴたりと背中に密着してきた。
脚を優しく開かされる。
「こうしたら……痛くないと思う」
中に入れるわけじゃない。それでも、クーの熱が俺の太腿のあいだをゆっくりと滑るたび、ぞわりとした感覚が背中を駆け抜ける。
体勢のせいか、それとも内腿に押し当てられている感触のせいか――恥ずかしさと、どうしようもない期待が入り混じって、胸の奥がざわついた。
「ん……クー……なんか、変な感じ……」
「うん、でも……気持ちいいでしょ?」
ふざけるような口ぶりとは裏腹に、クーの動きはどこまでも丁寧で、優しかった。
脚を閉じた俺の腿のあいだから、互いの熱が擦れ合い、汗ばんだ肌がぬるりとすべる。
太腿越しに伝わる鼓動のひとつひとつが、まるで直接触れ合っているみたいで、息が浅くなる。
「ん……ぁ、く……クー……」
太ももを挟むように押し寄せる圧に、息が漏れた。
ひとつ、ふたつと、緩やかに擦れ合うたびに、背中にぴたりと触れているクーの体温がどんどん上がっていくのがわかる。
肌の触れ合う音、汗の匂い、吐息の温度――すべてがじんじんと体の芯を焦がしていく。
そのとき、不意に――クーの唇が、俺の首筋にそっと触れた。
「……可愛い、ユーマ……」
低く甘い囁きのすぐあと、肌にぴりりとした痛みと熱が走る。
小さく噛まれたのだと気づいた瞬間、身体がびくっと震えた。
「ひゃ……っ」
首筋に残った歯型を舌でやさしくなぞるように舐められるたび、羞恥と快感が混ざり合って頭がぼんやりする。
舌が耳の後ろを撫でたあと、ゆっくりと肩甲骨へと降りていく。
「っ……あ、や……く、くすぐったい……」
恥ずかしさに身をよじる俺を、クーの腕がさらにきつく抱きしめてくる。
背中に当たる胸の鼓動が速い。
俺と同じくらい、クーも――きっと、必死なんだ。
「ユーマ、好きだよ」
その言葉が、決壊の合図だった。
クーの腰の動きが、少しずつ、確かに激しさを増していく。
横向きに寄り添っていたはずの体勢は、
いつのまにかじわじわと押し倒されるように傾いていき、
俺の体は次第に、ベッドへとぎゅうぎゅうに押し付けられていった。
背中に感じるクーの体温はますます熱を帯び、
彼の硬さが腿の内側を擦る感触が、いやでも鮮明になっていく。
「ん……く、ぁ……っ」
すれるたび、肌の奥がじんと痺れるように疼いた。
太腿の内側には、互いの熱がとろけるように滲み、どこか、くすぐったくて、でも逃れられない感覚がそこにあった。
(ダメだ……もう、わかんなくなる……)
声が勝手に漏れる。
なのに止められない。
まるでクーの熱に追い立てられるように、俺の奥まで痺れていく。
「……ふぁっ……あぁっ……クー……もうダメ……!」
「オレも……一緒にいこっ」
震える声が交差する。耳元に触れたクーの熱い吐息に、心までかき乱される。触れ合う体温が溶け合い、鼓動が激しく響いた。
クーの掌が下腹をなぞりながら滑り降りていく。
次の瞬間、熱を帯びた指先がためらいなく俺を包んだ。
ぞくりと背筋をなぞる快感に、声が抑えきれず漏れる。
「……っあ……、 それ反則……っ」
唇が微かに震える。
与えられる熱に抗えず、思わずシーツをきゅっと掴んだ指先に、力がこもる。
次の瞬間――深く触れられた場所から甘い衝撃が走り、反射的に身体が跳ね上がった。
「っ……あ、や……っ」
「ユーマ……可愛い……もっと感じて」
クーの動きが加速するにつれて俺の意識は霞んでいった。彼の汗ばんだ手が俺の腰を優しく支えている。
「っ……クー、もう……くる……っ! 」
限界が迫り、言葉も霞んでいく中で、クーが静かに言った。
「ユーマ、オレも、イきそう……っ、手……貸してくれる?」
枕にしがみついていた俺の手に、そっと――クーの手が重なる。
まるで優しく包み込むように、ぎゅっと握られた次の瞬間、彼の動きがピタリと止まり、全身がびくりと震えた。
「ん……っ! ユーマ……!」
俺の脚のあいだから伝わる熱が、どくんと脈打つ。ひとつになる感覚に包まれて、俺の体も大きく震えた。
「んっ───……!」
同時に俺も限界を迎え、全身が痺れるような余韻に包まれた。
まだ息を整える間もなく、唇がそっと重なる。
深く、熱く、それでいてひどく優しいキスだった。
しばらくの沈黙のあと、クーがそっと額を俺の肩に押し付ける。
「……ありがと。すっごく……気持ちよかった♡」
「……俺も……ちょっと、驚いた……けど」
クーが満足げに笑って、俺の髪を撫でる。
脚のあいだに残る、ぬるりとした余韻が生々しくて――だけど、どこか心地よかった。
目を開けると、ぼんやりとした視界の先にクーの顔があった。少し心配そうに、けれど優しく微笑んでいる。
「……起きた? 身体、平気?」
まだ外は暗く、夜明け前の静けさに包まれていた。自分がどれだけ眠っていたのかはわからない。でも、妙に体が重たくて、心地いい疲れが残っている。
「うん……全身バキバキだけど、大丈夫。多分」
無理に笑ってみせると、クーが眉を下げた。
「よかった……でも、ごめんね。ちょっと無茶させちゃったかな」
申し訳なさそうに目を伏せるその姿が、なんだか少し可愛く見えてしまって、思わず笑いそうになる。
「ううん……むしろ、俺の方こそ……なんか、ごめん……」
思い出すだけで、頬がじんわりと熱くなる。
あんなふうに乱れた自分の姿を、クーに見られたなんて……。
記憶の端にふと触れるたび、胸の奥がむず痒くなって、
居たたまれないような気まずさに包まれてしまう。
……なのに。
そんな俺の髪に、クーの指がそっと触れた。
優しく撫でるその仕草は、何も言わずともすべてを受け入れるみたいで。
恥ずかしさすら、少しずつ溶かされていく。
「何が“ごめん”なの。全部、ちゃんと大事にするつもりだったんだよ」
その言葉だけで、胸がいっぱいになる。反論できなくて、ただクーの胸に額を押し当てた。
「……バカ」
そう小さく呟くと、クーがくすっと笑って、優しく抱きしめてくれた。
***
「……ガウルさん、それ、もう絶命してます」
夜の静寂を破って響く、剣が肉を裂く鈍い音。
ガウルの刃は、既に動かぬ鳥竜種・レグノトラドの胸に深々と突き立てられていた。
その巨体は微動だにせず、紅い炎を宿したはずのトサカも、今はただ静かに崩れている。
それでもなお、彼の手は力を込めたままだった。
(……まただ)
その荒い呼吸、研ぎ澄まされた獣の目。
戦っているのは魔物じゃない。
自分の中に溜まった、鬱積した欲と焦燥だ。
アヴィはため息をついた。
「……ご主人様を独り占めできなくて、苛立つのもわかりますけれど」
ささやくように言えば、案の定、睨み返してくる。
返り血を浴びたままのその目は、まるで睨んでいる対象が“僕”じゃないかのような、妙に焦点の合わない光を宿していた。
(……ほら。やっぱり、わかりやすい)
「……黙れ」
唸るような声が返る。
それもまた、怒りというよりは、言葉にできない欲の裏返し。
アヴィは肩をすくめ、わざとらしく微笑んだ。
「図星でしたか。けれど、あなたはもう一度、抱いたのでしょう? それなのにまだ、足りないんですか?」
ガウルの怒気はもう、皮膚越しに伝わるほどだった。
それでもアヴィは引かなかった。引くどころか、むしろ一歩、踏み込む。
わざと目線を逸らし、ひとつため息をついてから——
「それとも、一度抱いて、惜しくなったんですか?」
とても柔らかい声だった。
剣を構えている相手に、白い手袋で頬をなぞるような声音。
だがその言葉の中身は、鋭く毒を含んでいた。
ガウルの眉が、ぴくりと動いた。
アヴィは知っていた。
あの一夜で、ガウルが「何かを得た」のではなく、
「何かを知ってしまった」のだということを。
——あの人は、手放せば、すぐに誰かのものになる。
誰にでも、あんな声を上げて、名を呼んでしまう。
だからこそ、惜しくなる。
たった一度では、足りなくなる。
——ずっと、欲しくなる。
アヴィは、静かに口角を上げた。
「僕は楽しみですよ。ご主人様が、どんなふうに乱れて、どんなふうに鳴くのかなって」
その瞬間だった。
「貴様……ッ!」
怒声とともに、ガウルの手がアヴィの胸倉を掴み上げた。
背後の冷たい空気が、びり、と張りつめる。
アヴィの体はわずかに浮き、背中が木の幹に叩きつけられる。
けれど、彼は顔を歪めなかった。
むしろ、口元にうっすらと笑みを浮かべたままだった。
「……僕に、八つ当たりしないでください」
柔らかい声で言う。まるで、無関係の傍観者のように。
「もう決まったことなんですから。今さら、無かったことになんてできませんよ?」
ガウルの目が、獣のように血走る。
けれどその視線の奥には、怒りだけではない——
焦り、悔しさ、そしてなによりも、渇望があった。
アヴィは、それを見ていた。
見ながら、自分の胸の奥にも同じ色の“なにか”が疼いていることを、薄々、感じていた。
(ほら、やっぱり……同じじゃないですか、僕たち)
その自覚が、たまらなく気持ち悪くて、でも——
どこか、心地よかった。
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