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第20話 誰か、俺に休みをくれえええええ!!③ー金曜日のアヴィー ※R描写あり

(※性的描写あり) 夕食後、テーブルにはまだ食器が残っていた。 その向こうで、アヴィは静かにコップの水を飲んでいる。 不思議なくらい、穏やかな顔。けれど、それが逆におかしい。 その視界の端で、ガウルとクーが無言で狩猟の装備を整え始めた。 その瞬間だった。 (……待てよ。これって、まさか……) 脳が警鐘を鳴らした。 (今日、アヴィのターンじゃないか!?) 背筋が凍るような気配に、体が勝手に反応する。 本能が「まずい」と叫んだ。言葉になる前に、俺は立ち上がっていた。 「……っ、ガウル! 今夜は俺も、狩りに連れてってくれないか?」 自分でも驚くほど、声が強張っていた。 ガウルの背中が、わずかに止まる。 装備を締める手が、微かに固まった。 一瞬の沈黙のあと—— アヴィのグラスが、カタ、と静かにテーブルに戻される音が響いた。 ガウルが何かを言いかけた、その時だった。 キイ、と椅子が引かれる小さな音。 その音だけが妙に大きく感じられて、思わず肩が跳ねる。 そして次の瞬間には、もう—— 彼は無言で立ち上がり、気づけば俺のすぐ背後にいた。 ぞくり、と背筋を冷たいものが這い上がる。 反射的に振り返る。そこに、アヴィがいた。 笑っている。 口元はいつも通り、やわらかく上がっているのに—— その目だけが、まるで別のものを宿していた。 笑っていない。 いや、それどころか……感情すら、感じられなかった。 ただ微笑みながら、静かに俺を見ている。 その手が、俺の肩に触れていた。 乱暴に掴まれたわけでもない。軽く、置かれているだけ。 それだけなのに—— まるで、冷たい鎖で繋がれたような感覚に囚われた。 「……いってらっしゃい、ガウルさん。クーさん。ご主人様のことは、お任せください」 その声は、やさしく微笑む家族のようでいて。 その奥に、狂気じみた確信と独占欲が滲んでいた。 睨みつけたまま動こうとしないガウルを、アヴィは一歩も引かずに見返していた。 そして、わずかに笑みを深めると、 「……急いでください。獲物を逃してしまいますよ」 と、まるで冗談のような調子で言った。 ガウルは舌打ちを押し殺すように、クーと共に踵を返す。 その背を、アヴィは見送るでもなく、静かにドアを閉じた。 カチリ、と内鍵がかかる音が響く。 たったそれだけの音なのに、背中に冷たいものが走った。 この部屋に、俺とアヴィしかいないという事実が、急に現実味を帯びてのしかかってくる。 ——逃げ場なんて、もうない。 アヴィがゆっくりと振り向く、それよりも早く。 俺は青ざめたまま、反射的に寝室へ駆け込んでいた。 ドアを閉めることも忘れて、ベッドに飛び込み、毛布を引き寄せる。 頭からすっぽり被って、そのまま壁際へ身を滑らせた。 ベッドと壁のわずかな隙間。狭くて、暗くて、息が詰まりそうな空間。 でも今は、そこしか逃げ場がなかった。 心臓の音が、やけにうるさく響く。 ドアの外、アヴィの足音はまだ聞こえない。 けれど、あの静かな笑みと、笑ってない目を思い出しただけで、背筋が震えた。 (……もう俺は、絶対に朝までここで過ごす……) 逃げない。いや、逃げられない。 だからせめて、ここでやり過ごすしかない——そう決めた。 祈るような気持ちで、俺は毛布の奥で息をひそめた。 床が、ミシ……と小さく軋んだ。 ゆっくり、ゆっくりと、その音が近づいてくる。 足音ひとつないのに、床だけが鳴っている。 それが、かえって恐ろしくて。 モンスターでも、殺人鬼でもない。 ただの兎獣人《アヴィ》のはずなのに—— 本能が全力で警鐘を鳴らしていた。 息を殺し、鼓動を押し殺して、じっと身を縮める。 音は止まらない。止まってくれない。 殺されるわけじゃないのに。 それでも、これ以上近づかれたら壊れてしまう気がした。 「……ご主人様」 すぐ近くで囁くような、熱を帯びた声。 毛布の向こう――アヴィの気配が、ゆっくりと近づいてくる。 一歩、また一歩。 それだけで息が詰まり、胸がきゅうっと締め付けられる。 ――来るな。来ないで。 喉の奥まで込み上げてきた言葉は、声にならずに飲み込まれた。 理性が必死に叫んでいるのに、身体は動けない。 怖いわけじゃない。……なのに、指先が微かに震える。 「……っ、く、来るな! ……俺は、もう……ここから一歩も動かないからな……!!」 なけなしの強がりを吐き出す。 けれど、毛布越しに感じる気配は、かえって濃くなった。 アヴィの足音は止まらない。 一定のリズムで、ゆっくりと——けれど、確実に迫ってくる。 獣が獲物に向かうような静かさで。 「や、やめろ……やめてくれって……!」 情けない声が喉から漏れる。 毛布越しに感じる気配が、俺のすぐ傍で止まった。 そして、アヴィの声が降ってくる。 「……悲しいです。さすがに、そんなふうに避けられると」 その声は、驚くほど静かだった。 柔らかくて、穏やかで、まるで独り言のようにさえ聞こえる。 けれどその優しさの奥に、肌を刺すような冷たい気配が混ざっているのを、俺は確かに感じた。 「……僕は、誰よりもご主人様のことを大切に思っていますよ。 なのに、どうして。どうして僕だけ、こんなふうに拒まれなきゃいけないんでしょう?」 その言葉に怒りはなかった。 あるのは、静かな寂しさ。ゆっくりと沈んでいくような、痛々しい響き。 けれど俺にはわかっていた。 その声の下に潜んでいるものが——甘い毒のような、執着だということくらい。 「……だったら! 俺の人権も大切にしてくれよ!! なんだよこの連続搾取イベント!!」 限界突破のツッコミが、とうとう喉から飛び出した。 まさか本当に、“恋が始まるのはホラーから”理論を地で行くやつだったとは……! 「……ああ、なるほど。あの二人のせいで、僕はこんなにも拒まれているんですね」 アヴィは微笑んでいた。けれど、その声にはかすかに滲む苛立ちと、底知れぬ熱が混じっていた。 「可哀想に、ご主人様。……こんなにも愛してるのに、届かないなんて」 囁くような声でそう言いながら、彼はそっと顔を寄せてくる。 「これは“ご奉仕”ですよ。僕が望んで、貴方に尽くすこと。搾取なんかじゃありません。……僕の一方的な――“献身”なんです」 「……は!? いや、どうなってんだよ、お前の思考回路!!」 即座に跳ね返したつもりの言葉が、アヴィにはむしろ嬉しそうに響いてしまったらしい。 その瞳に浮かぶのは、狂おしいほど真っ直ぐな、歪みのない“愛”。 アヴィの手が、すっと伸びてくる。 「……見ます? 僕の中、どんなふうに貴方で満たされてるか」 その指先がこちらへ伸びてくるのがわかった瞬間、俺は反射的に手をかざし、まるで身を守るように目をぎゅっと瞑った。 「いや、やめろって……!」 見たくなかった。触れられたくなかった。 ……それ以上に、“その手を受け入れてしまいそうな自分”が、何より怖かった。 怖いのは、アヴィじゃない。 怖いのは、この状況に慣れてしまいそうな俺の心だ。 アヴィの指先が、そっと俺の手に触れた。 その仕草はあまりにも優しくて、まるで、恋人のようだった。 ぞくり、と背筋が粟立つ。 あの夜の記憶が、一気に胸の奥を焼くように蘇った。 それは記憶でありながら、火種でもあった。 「……アヴィ……こんなの、おかしいよ……」 喉の奥から絞り出した声は、自分でも驚くほどかすれていた。 訴えるような気持ちとは裏腹に、その言葉は空気に吸われ、頼りなく消えていく。 アヴィの唇が、ゆっくりと微笑んだ。 けれどその目には、冷ややかな光が宿っている。 一見優しげなその表情の奥で、何かが静かに軋んでいるのがわかった。 「ええ、わかっています。 ……でも、“おかしくした”のは、貴方でしょう?」 その声は、柔らかくて、優しくて―― なのに、どこか常軌を逸していた。 理屈ではない何かが、背筋を這い上がってくる。 「僕はただ、ご主人様が与えてくれたものを、大切にしているだけ。 ……心をくれたのは、貴方でしょう? 僕なんかに、あんなにも簡単に」 「あ、あれはっ……成り行きで、ただ……見過ごせなくて……ヒールしただけで……」 「ええ、そうでしょうね。でも―― それでも、あの瞬間の貴方は、僕に“光”をくれた。 自覚があってもなくても、僕にとっては……救いだったんです」 すぐ傍で響くその声は、濡れた絹のように滑らかで、妙に甘くて、そしてどこか――狂おしいほどに、愛おしげだった。 「愛しています、ご主人様。優しくしますから。優しく、ゆっくり……だから、全部ください」 その言葉が、耳の奥にじわりと染み込んでくる。 まるで、何かが内側から崩されていくような――そんな感覚だった。 (なんでだよ……怖い。優しいだけなのに、怖い) 毛布の隙間から忍び込んだアヴィの指が、そっと俺の頬に触れる。 それは、欲望ではなく慈しむような手つきで、ただ優しく撫でるだけだった。 けれど――たったそれだけで、身体の奥に火が灯るように、熱がゆっくり広がっていく。 唇を噛んだまま、俺は言葉を失っていた。 毛布の中は、熱い。 アヴィの指先が、まるで甘やかな深海に誘うように、ゆっくりと首筋に触れたとき—— 俺はもう、声すらまともに出せなかった。 「……アヴィ」 毛布の中で漏らしたその名は、震えて掠れていた。 アヴィの唇が、ゆっくりと弧を描く。 まるで壊れものを扱うように、優しく包み込む手つきで毛布を剥がしていく――その動きひとつにも、抗えない圧があった。 彼の瞳に映っていたのは、怯えたまま熱に浮かされた自分の姿。 「……ご主人様は、ただ愛されるだけの存在でいいんですよ。だから、全部忘れて……僕だけ、見ていてください」 囁くように言いながら、アヴィの指先が首筋をなぞり、鎖骨へと滑り落ちる。 肌を撫でるその動きだけで、小さな痙攣が背骨を駆け上がった。 拒みたいのに、体が言うことをきかない。力が、抜けていく。 「もう、僕なしじゃ眠れないくらい、深くまで、連れていきますね……ご主人様」 そう言って、アヴィはしゃがみ込み、毛布の上から俺の体に手をまわす。 そして、まるで壊れものでも扱うように、そっと抱き上げた。 「っ……」 驚きに体が震えるが、抵抗できるほどの力はもう残っていない。 アヴィは何も言わず、静かに立ち上がると、すぐ横にあるベッドに体を預けるように俺を下ろした。 まるであらかじめ段取りが決まっていたかのような、滑らかな動きだった。 シーツの冷たさが足に触れた瞬間、ほんのわずかに現実味が戻る。 けれど、それすらアヴィの体温にすぐに押し流されていく。 「今は僕のことだけ、感じていてください。 怖いことも、難しいことも、全部あとまわしでいいんです。 “好き”に理由なんていりませんよ。……貴方の中を、僕でいっぱいにするだけですから」 囁く声がやさしくて、ひどく残酷だった。 彼の指が、そっと胸元をなぞり始める。 触れているだけなのに、そこから痺れるような熱が広がっていく。 内側のどこかが、じわじわと滲み出すように反応していくのがわかった。 逃げたくて、必死に身を捩る。けれど—— アヴィはそれを許さない。 すぐに腰へと腕をまわし、やわらかく、それでいて確実に引き寄せた。 「……痛くないでしょう?」 耳元に落ちてきたのは、低く、甘やかで、どこか囁くような声。 それはまるで、慈愛の仮面を被った毒だった。 「ちゃんと、優しくしてるんですから。 ね、ご主人様……」 唇が、そっと耳朶に触れた気がした瞬間、 背筋を焼くような戦慄が走った。 首筋を這う唇の温かさに、思わず息が詰まる。 そのわずかな刺激だけで、体がふわりと浮き上がるような感覚に襲われた。 アヴィが与えてくるのは苦痛ではない。 ——快楽だ。 そう脳が理解し始めてしまう。拒みたいのに、否定したいのに、 それでも体は、どんどん応えていく。 「……やっ、アヴィ……っ、もう……十分だから……!」 必死に縋るように訴えたその声に、アヴィはぴたりと動きを止める。 けれど次の瞬間、鋭く射貫くような眼差しをこちらに落とした。 強く問い詰めるわけではないのに、逃げ場がない。 その目には、確かな確信が宿っている。 「……何が“十分”なんですか?」 静かな声が、やさしく響く。 なのに、そのひと言は胸の奥を捕まえて離さなかった。 「気持ちいいんでしょう? ご主人様。 だからこんなにも……敏感なんですよね」 捲れたシャツの隙間から、アヴィの指が、ゆっくりと俺の肌を這っていく。 一つひとつの動きが、まるで俺の反応を見て愉しむようで……それでいて、まったくの無駄がない。 どこが弱いか、どんな触れ方で震えるか——その場で試しながら、確実に突いてくるような指先だった。 「……こうしてると、ご主人様の全部が……手の中でとろけていくみたいで、気持ちいいんですよ」 腹部のあたりを、やや爪を立てるように撫でたあと、 アヴィの手は指の腹でなだらかに円を描き、 そのままゆっくりと下腹部の神経をなぞってくる。 触れているのは、皮膚の表面だけのはずなのに—— なぜか、奥の奥までじんわり響く。 「ふぅ……っ」 息を飲んだ瞬間、それを逃さず、アヴィの手が内腿の付け根をやや強めに撫でた。 そのまま、熱を持った場所の“周囲”を、 何度もゆっくりと、焦らすように這わせてくる。 (やだ……そこ……触れられたら……) けれど触れない。 ギリギリを何度も、なぞって、揺さぶって、欲しがらせる。 呼吸が苦しくなって、脚に力が入らない。 「こんなに熱くして……かわいい」 熱っぽく囁きながら、今度はアヴィのもう片方の手が喉元を撫でてくる。 人差し指が鎖骨をなぞり、そのまま胸の中心を下っていく。 敏感な場所に指先が触れた瞬間、ぞわりと電気が走った。 「ひっ……ん、ぁ……」 咄嗟に口を押さえる。 でも、アヴィは俺の手をそっと掴み、自分の胸元へと導く。 「我慢しなくていいんですよ…… ご主人様の、感じる声……もっと、聴かせてください」 その言葉と同時に、指が急所に触れかけて——止まる。 ほんの一瞬、ためらうように動きを止めたあと、 アヴィは唇を寄せて、耳元でそっと囁いた。 「……欲しいって、言ってください」 アヴィの囁きが、耳の奥に静かに沈んでいく。 それだけで、全身の肌が粟立った。 言えるはずがない。 なのに、口の奥から言葉が漏れそうになる。 (ダメだ……俺、こんなの……) 「言えないんですか?」 耳たぶに、ふっと息をかけられる。 それだけで背筋が跳ねて、ぞくぞくとした震えが腰に落ちてくる。 アヴィの指が、そっと中心に触れた。 軽く——ほんの軽く、何かを確かめるように撫でられただけで、 身体が反射的に跳ね上がる。 「や……っ、アヴィ……やめっ……!」 叫ぶ声も情けなく震える。 アヴィはそんな俺の反応を、愛おしそうに見つめながら、そっと微笑んだ。 「本当に……かわいい人ですね。 ガウルさんやクーさんも、きっとこんなふうに可愛がってるんでしょう?」 ねっとりとした口調。 でもその言葉の裏に、ほのかに滲む独占欲。 その余裕のない色が、怖くて、そしてなぜか少しだけ、熱い。 (こんなのおかしいのに……どうして……) アヴィの唇が、喉元に落ちる。 まるで傷痕を探るように、ゆっくりと、甘噛みする。 「あ……んっ……!」 息が勝手に漏れてしまった。 一度反応を見せてしまえば、あとはなすすべがない。 アヴィの手が、今度はしっかりと俺の中心を包み込んだ。 薄布越しに、すべてを感じ取るように、じっくりと撫でてくる。 「ちゃんと感じてるじゃないですか。……素直になってください」 もう限界だった。 抵抗しようとした腕にも力が入らず、 かすれた声で、しがみつくようにアヴィの胸元を掴んだ。 「……や、だ……でも……もぅ……っ……」 涙が滲む。 何に対して泣いているのかわからない。 悔しさか、情けなさか、それとも、快楽への戸惑いか。 けれどアヴィは、その涙さえも嬉しそうに指先ですくい取って、 そのまま唇で舐めた。 「泣かせちゃいましたね……でも、仕方ない。 これは、ご主人様を愛している証ですから」 ゆっくりと覆いかぶさる影が、甘く、重く、迫ってくる。 「大丈夫です……全部、僕が……教えてあげますからね」 アヴィの唇が、鎖骨の窪みにそっと触れる。 まるで祈るような口づけだった。 けれど、そのやさしさの奥には、猛毒のような執着が宿っている。 一度体に染み込めば、抗うことはできない。 「……ほら、こんなに……熱くなってる」 囁きと同時に、指先が下腹部を撫でる。 そのわずかな刺激が、びくんと跳ね返るほど強く感じられる。 アヴィに触れられると、身体が嘘をつけなくなってしまう。 「や……あっ……!」 声が漏れるたびに、アヴィは嬉しそうに笑った。 まるで反応を楽しむように、じっくり、優しく、 けれど確実に俺の“奥”を暴いてくる。 (ダメ……なのに……こんなの……) 羞恥で顔が熱くなる。 なのに、身体の昂りは、それを待っていたみたいに脈打っていた。 「アヴィ……もう、……もうやだってば……っ、あっ……!」 声が震えて、喉の奥で何かが弾ける。 視界の端が滲む。 でも涙じゃない。 この熱に、悦びに、全身が支配されていく。 「大丈夫ですよ。怖くなんかない。ただ……もっと感じてもらいますから」 指先が、最も敏感な場所に触れた瞬間—— 脳天を貫くような快感が一気に駆け抜けた。 思わず、喉の奥から跳ね上がるような声が漏れた。 自分のものとは思えないほど甘く、震えた声。 身体が勝手に痙攣し、逃げようとした脚にすら力が入らない。 「ひっ……ぁ、あ……っ!」 制御不能な震えとともに、涙がつぅっと頬を伝って落ちた。 羞恥、困惑、そして……抗えない快楽。 (やだ……なにこれ、止まらない……) 「ほら……我慢しなくていいんですよ」 その言葉と共に強く擦られるともう堪えられなかった。 「ンぁ……っ!!!」 全身が跳ね上がるほどの快感に呑まれ、息すらうまく吸えなかった。 熱に浮かされた意識がふっと遠のき、身体の芯がとろけていくような感覚―― もう、何も考えられない。ただ甘さの中に沈んでいく。 ようやく力が抜けかけたそのときだった。 内奥をなぞるように、ゆっくりと、けれど確かな熱が再び這い上がってくる。 甘く痺れる刺激が脊髄を這い、脱け殻のような身体に、また火を灯す。 意識がとろけかけていたのに、逃がしてもらえない。 いやらしい音とともに与えられる快楽に、無理やり引き戻される現実。 息を吸うのも忘れて、ただ目の奥がくらくらと揺れていた。 「や……待って……っ、ダメだって……今イッ……あっ……!」 「まだですよ。 まだ、あなたは“自分”でいられてる。 ……そんなの、寂しいじゃないですか。 僕のことだけで満たされて……それ以外、何もいらないくらいになってください」 耳元に触れるアヴィの囁きと同時に、再び強烈な快感が身体を突き抜けた。 頭では「やめてほしい」と思っているはずなのに、反応はあまりにも正直だった。 アヴィから与えられるものすべてを、俺はもう――拒めずにいた。 受け入れてしまっている。それが悔しくないわけじゃない。 自分自身が、どこか遠くへ行ってしまうような、そんな感覚さえあって。 ……それでも。 その嫌悪も、戸惑いも、不思議とぼやけていく。 ただ、彼の熱だけが、俺の中のすべてを塗り替えていくからだ。 気づけばもう、思考も、感情も、彼の与える快楽だけに染められていた。 「や、やめて……お願いだから……休ませて……っ」 息も絶え絶えにそう訴える声は、自分でも驚くほど弱々しくて、泣き出しそうだった。 けれどアヴィは、その言葉さえ愛おしむように微笑んで、耳元でそっと囁く。 「大丈夫ですよ。ご主人様は……まだ、もっと感じられる」 まただ――また来る。 波のように押し寄せる快感が、全身を容赦なく飲み込んでくる。 「や……やだ……イきたくない、のに……っ!」 必死で腰を引こうとするのに、体が言うことをきかない。 熱が、痺れが、甘い疼きが、俺をどこまでも無力にする。 アヴィの指が触れるたび、確かにそこに“快楽”がある。 そんなはずないって、どこかで叫んでいるのに。 (なんで……こんなに、気持ちよくなっちゃってるんだよ……) 羞恥と戸惑いと、ほんの少しの恐怖が、喉の奥でせめぎあう。 涙が滲む。苦しい。でも、止められない。 抗えば抗うほど、奥底から熱がこみ上げてきて—— 「やだっ……そこ、ばっかりっ」 声にならない声が喉を震わせるたび、アヴィの目が愉しげに細められる。 まるで、俺がこうなることを、最初からわかっていたかのように。 一度達してしまうともう止まらなかった。アヴィの巧みな愛撫によって連続で押し上げられる。 「やっ……やだ……止まらな……っ…イっちゃう……!」 自らの意思とは裏腹に何度も果ててしまう。 「や……っ…アヴィ……ぃ…っ!」 涙が出そうだと思ったときには、もう視界がにじんでいた。 何が悲しいのか分からない。 でも、情けないくらいに心が揺れていた。 「お願い、やめて……これ以上されたら……俺……」 それでも、否定したくて、やっとの思いで声を振り絞った。 苦し紛れの言葉だった。 けど—— 「……いいですよ。僕と、同じところまで墜ちてきてください」 そう言ったアヴィの声は、俺を許すように、 でもどこか、同じ深みに沈んでいく共犯者のような響きだった。 甘い声で囁かれるたび、 俺の中の「自分」が、静かに、息を止めていく。 「全部忘れて。痛いことも、怖いことも、他の誰かのことも……ね?」 低く囁いたアヴィの唇が、そっと俺の口元に重なった。 触れただけ。けれどその一瞬で、体の奥がぎゅっと熱くなった。 キスなんて、何度かされたはずなのに—— どうして、こんなに震えるんだろう。 「……ん、ふ……っ……」 優しく、けれど逃がさない。 アヴィの舌が唇の隙間を探り、静かに押し入ってくる。 呼吸が奪われた。 体の中心に溜まっていた火が、舌先でかき混ぜられるたびに滾っていく。 理性が焼けていく。喉の奥から声が漏れそうになるのを、必死に堪えた。 (ダメだ……わかってるのに、止められない……) 舌が絡み、口内を這い、唾液が混じるたびに、羞恥と快感がないまぜになる。 頭がじんじんして、思考がまとまらない。 そんな俺の反応を楽しむように、アヴィの手がゆっくりと頬を撫でた。 「……可愛い、ですね。ご主人様って、キスだけでこんなに……」 囁きながら、唇が頬、顎、耳元へと伝い、また首筋に戻ってくる。 ゾクリと震えた。 もう声を押し殺す余裕すらなくなっていた。 「やだ……アヴィ……もう、やめ……」 そう言う自分の声が、泣きそうに震えている。 拒絶の言葉のはずなのに、甘さを含んで響いてしまう。 自分で自分が信じられなかった。 「やめませんよ。だって、ご主人様……」 囁きと同時に、もう一度、唇が重なった。 今度は深く、長く、熱く。 体の奥まで、アヴィの存在に満たされていく気がした。 「また……こんなに、感じてるじゃないですか」 その言葉に、逃げたかったのに、なぜか安心してしまう自分がいた。 抵抗しようと伸ばした腕を簡単に掴まれ、ベッドに縫い留められる。その強さに再び戦慄すると同時に期待してしまう自分が憎らしい。しかし——アヴィは容赦なかった。 「もっと気持ち良くなりましょう」 アヴィの手は、躊躇いなく滑り込んでくる。 シャツは片側だけ肩から落ち、ズボンも膝あたりで引っかかったまま、役目を果たせずにずり下がっていた。 そんなみっともない姿を晒しているというのに、俺の身体は抗うどころか、彼の指先を受け入れていた。 「あ……ッ!」 アヴィの指先は意地悪に内壁を愛撫し続け、俺はもう何度目か分からない絶頂へ押し上げられた。 荒い息を吐きながら、朦朧とする意識の中で俺は必死に理性を掴もうとしていた。 「ん……や、あ……」 けれど、アヴィの手は止まらない。 拒む言葉は喉の奥で絡まり、声にならない。 この状況がどれだけ歪んでいるか、分かっているのに…… それでも、彼の熱に抗えない自分がいる。 「力を抜いて——僕に任せてください」 拒む意志など、とっくに剥がれ落ちていた。 それでも俺は、まだ“拒んでいるつもり”でいた。 滑稽なほど無様に、見苦しく―― けれどその葛藤すら、アヴィの前では甘い玩具でしかなかった。 彼の指が肌を這うたび、脊髄に火花が走る。 思考は焼かれ、意識は蕩け、言葉は泡のように浮かんでは消えた。 わかってる、壊されてる。 なのに、なぜか……嬉しい。 壊されることすら、報いのように感じてしまうなんて――もう、俺の心はどこまで堕ちているのか。 アヴィが微笑んでいる。 その瞳に映る俺は、もう“ご主人様”なんかじゃない。 欲情に震える、ただのひとりの男。 与えられるものを貪り、満たされることを乞い願うだけの……彼の所有物だった。 そして、俺は悟る。 ああ、俺はもう――すべてを彼に、捧げてしまった。 「……ッ!!」 アヴィの熱が、一気に押し入ってくる感覚に、俺の思考は一瞬で奪われた。 抗えない悦びが、音もなく奥底から弾け、息をするのも忘れてしまう。 けれど痛みは全くない—むしろ信じられないほどの滑らかさで俺の中を満たしていく。 「……動きますね」 囁きとともに、身体の奥で新たな痺れがゆっくりと這い上がってくるのを感じた。 濡れた音が、狭い空間の中でいやらしく響いた。 結合部から零れる水音が、皮膚の打ち合う音と重なって、 理性ごとすべてを煽ってくる。 張り詰めた大腿部の筋肉がびくびくと震え、全身を駆け巡る快感は波となって押し寄せ、理性をひとつずつ、柔く溶かしてゆく。 理性は限界を告げているのに、どうしても抗うことができない。 拒みたいのに、どこかでこの背徳の悦びに心が傾いていく自分がいる。 怖い。だけど、甘い。 逃げたいのに、深く沈みたくなる。 胸の奥で葛藤が絡み合い、揺れ動くたび、快楽の波が優しく包み込む。 「ちが、う……ちがうのに……っ」 言い訳のように声を漏らす俺の言葉を、アヴィは唇で塞いだ。 舌先がかすかに触れ、押し広げられた口内に甘い熱が流れ込んでくる。 その舌が触れた瞬間――、全身の感覚が反転したように痺れた。 「そんなに感じて……どうして、隠そうとするんですか?」 唇を離した後、アヴィは俺の耳元にそっと囁いた。 彼の動きに合わせ、俺の腰は勝手に浮かび、自分の意思とは裏腹に、まるで――いや、確かに“求めている”としか思えない動きだった。 肌と肌が擦れ合うたび、奥底に熱が灯り、それはもう逃れられない領域へと導いていく。 拒絶の声が震えるたび、その声はやさしく溶かされていく。 罰なのか、それとも救いなのか。区別もつかぬまま、ただこの抗えない悦びに身を委ねてしまう――。 「あっ……ああぁあっ!」 声にならない叫びをあげる身体は、抗う間もなく快楽の波に押し流された。 全身の隅々まで、筋肉が引きつり、痙攣するような震えが走る。 全身を駆け巡る快感は、とうに限界を超えているのに、終わらない。彼がそれを許さない。 熱を帯びた空気が、肌の上にまとわりついて、触れられていない場所まで、火照って疼く。 「……もう、やだ……おかしくなる……っ」 言葉では拒むはずだったのに、身体は真逆の反応を返していた。 アヴィの熱が深く満ちていくたび、理性の薄膜は震え、心の奥を優しく、そして容赦なくなぞられていく。 肌と肌がふれあうたび、確かな熱が波紋のように広がり、快感のしぶきが意識をさらっていく。 「……もう、抗わないで。ほら、身体は……ちゃんと、僕を求めてるでしょう?」 耳元に落ちるその声が、脳をじんわり焼いていく。 息も絶え絶えに、でも無意識に腰が動いてしまっていた。 「……っ、違う、俺は……そんなつもりじゃ……」 喉の奥から掠れるように漏れた否定の声は、どこかで甘えのようにも聞こえた。 「でも、気持ちいいでしょう? ほら……もっと感じて。あなたが全部、僕を受け入れてくれるのが分かるから」 アヴィの言葉は、優しくて、でも決して逃がさない。 恥ずかしいくらいに濡れた音が響くたび、羞恥と陶酔が背筋を這いのぼっていく。 「……っ、アヴィ……やだ、もう、やだのに……っ」 「嫌、じゃないですよね……? ここ、もうこんなに、感じてるじゃないですか」 耳元に落とされた声は、熱い吐息とともに鼓膜を溶かし、そのたびに脳が白く染まっていく。 腰の奥が痺れるように疼いて、涙が滲んでも、 アヴィは微笑みながら、容赦なく追い込んでくる。 「まだ……こんなに敏感なんて。可愛いですね、ユーマ」 「アヴィ……もう……やだ、やだよ……こんなの……」 冷たい指先が、火照った肌をなぞるたびに、 そこだけが浮き上がって、世界から切り離されるような感覚に陥る。 ――気持ちいい、けど怖い。 もうどこまで堕ちているのか、自分では分からない。 「……アヴィ……っ……もう……わかんない……っ」 弱々しく漏れた声も、彼にはご褒美だったのだろう。 アヴィは優しくキスを落としながら、甘やかすように囁く。 「僕で、もっと気持ちよくなってください……」 もう、アヴィのことしか考えられない。 彼の名前が脳内を支配し、思考は甘く濁った夢の中を彷徨うみたいに、途切れ途切れにしか続かない。 アヴィの熱に打ち付けられるたび、息を吸うたび、鼓動が跳ねるたび、心の奥底で叫んでいるのは――ただひとつ。 このまま、アヴィに壊されたい。 何もかも委ねて、彼の手で深く深く沈められたい。 渇望は祈りになり、祈りは呪いに変わる。 アヴィの愛に溺れること、それだけが今の俺の救いだった。 「……っ、アヴィ……アヴィ……っ!」 知らず、名前を呟いていた。 崩れる理性の中で、それだけが祈りみたいに口から零れていた。 怖い。でも、もう戻れない。 ああ、俺は――アヴィに壊されるのを、ずっと、ずっと待ってたんだ。 この背徳の快楽の渦に飲み込まれても、迷いはない。 どこまでも深く、アヴィの温もりに身を任せてしまう自分を、ただただ感じていた。 「っ……あ、ああ、や……あっ……!」 その後何度果ててしまったのかわからないくらい、幾度と無く押し寄せてくる波にもみくちゃになりながら、必死について行くことで精一杯だった……。 逃げたいのに、逃げられない。 追い詰められているのに、心はどこか、望んでしまっている。 このまま、溺れてしまいたい――そんな錯覚すら、甘やかな熱とともに広がっていく。 ぼやけていく世界の中で、ただ一つだけ確かなのは、目の前にいるアヴィだけだった。 その存在が、自分のすべてを覆い尽くし、理性の隙間を埋めていく。 「あなたが壊れるところが見たいんです」 アヴィがその言葉を囁いた瞬間、身体は再び抗えない快楽の渦に呑み込まれていった。 理性は霧の中に霞み、ただただ蕩けていく感覚だけが全てを支配する。 「もっと……触れて。アヴィに、もっと……してほしい……」 ……ああ、もうとっくに壊れているのに。 抗うことを許さず、すべてを奪い尽くすような――独り占めの愛。 「……愛してます。あなたが壊れても、僕が全部拾ってあげますから」 優しげな声の裏に潜むのは、狂おしいまでの執着。 逃がさない。壊してでも、傍に置く。 そんな想いが滲んでいて、心臓が軋むほどに締めつけられた。 アヴィの指が髪を撫で、唇が額をかすめる。 そのひとつひとつが熱を孕み、まだ痺れの残る身体に火を灯していく。 快楽の余韻に蕩けながらも、彼の熱にまた呑まれていくのがわかる。 「もっとあなたが欲しい……全部、僕のものにしたい」 囁かれるたび、背筋を這う熱が甘く疼く。 俺の中にある“理性”の名をした防壁は、すでに跡形もなく崩れ去っていた。 息を吸うたびに、アヴィの匂いと温もりが肺の奥にまで染み込む。 もう逃れられない。 逃げるつもりさえ、とうに忘れてしまった。 抱きしめられるたびに、世界が彼一人に塗り潰されていく。 支配されているはずなのに―― この支配の甘さが、たまらなく心地よくて。 愛という名の檻の中で、俺は、静かに壊れていく。 「……アヴィ……」 声にならない声が、唇から漏れる。 それだけで彼は満足そうに笑い、俺をさらに強く抱き締めた。 深く、深く。 まるでこのまま、体も心も融かしてしまおうとするかのように。

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