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第45話 弟、来たる①

 「「「兄貴ッ!! お勤めお疲れっしたーーッ!!!」」」  玄関先でずらりと並んだチビーズが、見事なハモりで礼をする。  ……うん、もういつもの光景だ。チビたちは俺の足音で帰宅がわかるらしく、玄関を開ける頃には、まるで犬みたいに尻尾を振って待ち構えている。  そんなカオスにもすっかり慣れた俺の横で、弟のリセルがピタリと固まっていた。  王都内にある俺の新居に、「連休中、泊まりで遊びに来ないか?」と誘ったところ、喜んで行くというので、魔法学院の講義が終わったあと、リセルを連れて帰宅したのだが――。  「いや、言わなくてごめんな。でも説明するより見てもらったほうが早いと思ってさ」  「……兄さん、ちょっと」  「……へ?」  リセルは俺の腕をぐいっと掴むと、そのまま玄関の外へ引きずり出し、ドアをピシャリと閉めた。  「なんなんですかアレ!?!?  なんでマッスル獣人が増えてるんですか!?  兄さんから聞いてた話と全然違うのは何故なんですか!?」  開口一番、怒涛のツッコミ。  リセルは、この世の終わりみたいな顔で俺の肩をガクガク揺さぶった。  「兄さん、どういうことなんですか!? 本当にどういうことなんですか!?」  (うん、わかるよ。その反応、めっちゃわかる。俺も最初そうだった)  「いや、あのな、ちょっと落ち着け……」  俺は両手を上げて、なだめるように言う。  「それを知りたいのは、むしろ俺のほうなんだよ。ショタ獣人を保護してただけなのに――  なんでか知らないけど、気づいたらあんな感じで……」  リセルは頭を抱えた。  「“あんな感じ”で済ませないでくださいよ!!」  この調子じゃ、獣人進化のトリガーを話した瞬間にリセルが卒倒しかねない。  ……うん、命のためにも黙っておこう。  「ま、まぁ! そういう細かい話は後だ! ほら、入れよ、な? みんなリセルが来るの楽しみにしてたんだしさ!」  「ちょ、兄さん!? 本当に大丈夫なんですか!? 身体はなんともないんですか!? 酷いことされたり、嫌なこと強要されたりしてないですよね!? 風呂も寝室も無法地帯とかになってないですよね!?!?」  「……………………」  ――俺の頭の中、ここから――    『……ユーマ、ここ気持ちいいの?♡』  『あ♡ そこ、気持ちいぃの♡♡ ……あぁッ♡』  『ご主人様……もっとイジメていいですか……?』  『……やぁっ、許して……も、イかせて……♡♡』  『……まだイけるだろ?』  『……も、むり……だ、め……ア――ッ♡♡』    ――俺の頭の中、ここまで――  「……そ、そんなことに……なって……ねぇよ?」   「ちょッ! 今の沈黙ってなに!? なんで疑問形なんですか!! 兄さん!! ちゃんと僕の目を見て否定してくださいよッ!!」  「……お前なぁ。兄さんの貞操心配する前に、想像力の暴走止めろ!」  「え!? 原因作ってるの兄さんの方でしょ!?」  「だから不可抗力なんだって……!!」  ――カチャ。  「あ、あの……」  玄関のドアがそっと開き、リィノが申し訳なさそうに顔を出した。  「……ユーマさん、大丈夫……ですか?」  「あ、ああ! 大丈夫、大丈夫! ちょっとリセルのやつが混乱しちゃってさ~」  俺は慌てて笑いながら、背後でまだ何か言おうとしてた弟を手で制した。  「……おい。なにモタモタしてる。さっさと入れ」  リィノの背後からガウルが姿を現すと、リセルは目をパチパチさせながら、二人の顔を交互に見ている。  いや、完全に弟のリアクションが正しい。以前“ミニガウル”だったリィノは、進化後すっかり“ガウル化”していたのだ。  「……ご兄弟……?」  「…………違う」  「……あの、違います」  二人揃って否定されて、思わず苦笑い。まあ、見た目だけなら確かに“兄弟”に見えなくもないけどな。  「兄さん、見分けつくんですか?」  「は? 全然違うだろ。ほら、よく見ろ。目つきが悪くて眉間に皺が寄ってる方がガウルで、こっちの、おっとり優しい雰囲気の方がリィノだ」  「…………」  リセルは目を丸くしたまま、しばらく二人を交互に見比べていたが、やがて深いため息をつき、肩の力が抜けた。  「……兄さん、もう考えるのを放棄していいですか……?」  「おう、それが正解だ。まぁ、入れよ」  俺はリセルの肩を軽くポンと叩き、改めて二人を眺める。  そう、この世界は考えたら負けなのだ。  かつて“合法ショタ”を生み出したに違いないこの世界の神に、無知だった俺は全力で感謝し、そして握手を求めた。  今なら、神を正座させて小一時間説教し、ついでにケツバット100回も加えたい気分だ。  (返しやがれ、俺の純情……!! そして童貞!!)  (――いや待て、俺まだ童貞じゃねぇか!!!)  そんなセルフツッコミをかましつつ、再び開け放たれた玄関の敷居をまたぐと、変わらず待機していたチビーズが、ビシッと姿勢を正した。  「「「改めて、お帰りなせえ、ユーマの兄貴!! そしてリセルの兄貴!! よくお越し下すってぇ!!」」」  「……はは、どうも。こんばんは」  俺は若干死んだ目のリセルを家に招き入れ、そのまま食堂へと案内する。  今日の“カオス歓迎会”は、まだ始まったばかりだ。

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