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第47話 弟、来たる③
「兄さん、お風呂ありがとうございました」
食堂でガウルたちとまったり談笑していた俺に、風呂上がりのリセルが声をかけてきた。
「おう、ゆっくりできたか?」
「はい。さすが、国王が用意してくれたお家ですね。お風呂も大きい」
「前に住んでた貴族が風呂好きだったんだろ。湯が出る魔道具まで備え付けてあったからな」
「凄いですね」
「あ、二階の客室案内するな。……じゃあ皆おやすみ。今日は俺、リセルと同じ部屋で寝るわ」
「おやすみ〜♡」
ガウルたちにそう告げて椅子から立ち上がり、リセルを連れて階段を登る。
……が、気づけばリセルの後ろにガウルとアヴィが当然のようについてきていた。
「……あれ? お前ら寝ないの?」
「寝るが?」
「寝室、一階だろ?」
ガウルが眉ひとつ動かさずに言う。
「……なんであんたがいないのに、他のやつと添い寝しなきゃならない。俺は一人で寝る」
アヴィもため息まじりに続ける。
「僕も同じく。どうせベッド余ってますしね。下はクーさんが使ってます」
(え……あのデカい魔改造ベッド、今クーが一人で使ってんの……?)
「……では、ご主人様、リセルさん。おやすみなさい」
「お、おやすみ」
そう言い残して、ガウルとアヴィは並んで廊下の奥へと歩いていく。
足音が遠ざかるにつれ、屋敷の中が一気に静かになった。
(あの三人、仲が良いと思ってたけど、変なとこで意固地だよな……)
ぼんやりと二人の背中を見送っていると、隣のリセルが小首を傾げて俺を見上げた。
「……兄さん?」
「あ、ああ。ごめん、こっちだ。部屋、案内する」
部屋に入ると、窓際に置かれた二つのベッドが目に入った。
「へぇ……広いですね」
「まあ、広すぎて落ち着かないけどな」
俺は苦笑しながら、ベッドの端に腰を下ろした。
リセルは荷物を整理しながら、ちらちらと俺の方を見ている。
「兄さん」
「ん?」
「……楽しそうですね、この場所での生活」
リセルはにこっと笑って、ベッドの端に腰を下ろした。
「最初に来たときは、さすがに大丈夫かなって心配だったんですけど……。でも、兄さんがみんなに慕われてるのを見て、少し安心しました」
「ははっ、そりゃあな。初見じゃ腰抜かすよな」
(まあ、慕われるのは悪くないけど……、常時カオスなんだよな、ここ)
「でも……皆さん、本当にすごいです。僕なんて、学院でいくら学んでいても、いざ実戦となったら全然役に立たないと思いますから」
「そっか。リセルはまだ、実戦で魔法を使ったことなかったんだっけ?」
「……はい。模擬戦では使いましたけど、それも学院が用意した低級魔物を相手に、チームで戦う形式でした」
「へぇ、そんなカリキュラムがあるんだな」
「あります。でも……それって、本当に意味がある事なのかなって時々思うんです」
「意味はあるだろう。それに、リセルは現場で前線に立つより、研究職とかの方が向いてると思うけどな」
「研究職……ですか」
「そうそう。魔道具の開発とか、理論構築とか。そういうの、得意だろ?」
「……実は僕、兄さんと同じ宮廷魔術士になりたいって、少しだけ思ってたんです」
「へぇ、それは初耳だな。また、どうして?」
「…………」
リセルは俯いたまま、頬をほんのり赤く染めて口をつぐんだ。
「あー……まあ、言いたくないなら無理に言わなくていいよ」
「いえ……。兄さん、笑わないですか?」
「他人 の夢を笑ったりしねぇよ」
その言葉に、リセルは小さく息を吸い込んだ。
少しの沈黙のあと、決心したように顔を上げる。
「……子供の頃、『兄さんみたいになりたい』って言ってたの、覚えてますか?」
「ああ、もちろん。覚えてるよ」
「……今でも、そう思ってる――なんて……そう言ったら、引きますか?」
リセルは手をぎゅっと組んだまま、うつむいた。
表情は見えない。――けど、真剣なのが伝わってくる。
「……マジ?」
思わず聞き返すと、リセルは無言のまま、こくりと頷いた。
その仕草がやけに幼く見えて、胸の奥がじんと温かくなる。
まさか、そんなふうに思ってくれてたなんて。
「……へぇ、そっか」
言葉が出るまで、少し間があった。
「いや、引くどころか——マジで嬉しいんですけど!? ……あー、なんだろな、コレ……へへっ、ありがとな。でも、なんか……こういうの、照れくさいな」
気恥ずかしさを誤魔化すみたいに頭をかいたけれど、
リセルがうつむいたまま口元を少し緩めたのが見えて、なんだかそれだけで報われた気がした。
「……なぁ、リセル。久しぶりに“ニャス”、やらないか?」
「あるんですか?」
「あるある。……ちょっと待ってろ、下から持ってくる」
その晩、久しぶりに向かい合ったニャス対決は、リセルの勝利で幕を下ろした。
「わざと手を抜いたでしょう?」と不満げに唇を尖らせるリセルに、
「抜いてねぇって」と笑って返したが、内心ではちょっとだけ悔しかった。
やがて、夜が更けていく。
いつの間にか眠気が押し寄せ、どちらからともなくベッドに潜り込んだ。
隣の寝台から、すぐに穏やかな寝息が聞こえてくる。
俺は天井をぼんやり見上げたあと、そっと視線を横に向けた。
リセルの寝顔は、どこか幼い頃のままで——その無防備さが少しだけくすぐったい。
(……宮廷魔術士、なれるといいな。いや、きっとお前なら――)
胸の奥でそう思いながら、静かに目を閉じた。
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