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第48話 魔力切れ……?

 夜中。体の芯から冷えるような寒さを感じて目が覚めた。  なんかダルい。体が鉛みたいに重くて、頭もボーッとしている。  風邪か……いや、そんな単純な話じゃない気もする。自分のおデコや首に手を当ててみるけど熱はない。熱はないのに、全身を冷たい霧が包むように寒気が襲ってくる。  毛布に頭までぐるりとくるまって丸くなる。震えは止まらず、冷えた足先をこすり合わせ、手の指先に息を吹きかける。  (……ただの風邪? 本当にそうだよな……? でも、この寒気とだるさは普通じゃない気がする……)  俺の異変に気づいたのは、隣で寝ていたガウルだった。  「……おい、大丈夫か?」  「……うん、たぶん大丈夫。なんか風邪っぽいだけ……かも」    言葉にはしたものの、自分でもその確信は持てなかった。  ガウルは俺の額に手を当て、そのまま前髪をかき上げると、俺の額にガウルの額がぴったりとくっついた。  「……熱は無さそうだな」  「……うん、今はすごく寒い」  「これから上がるかもな」  ガウルはおもむろにシャツを脱ぎ捨てると、毛布の中に滑り込んできた。そのまま、俺を両腕でぎゅっと包み込み、柔らかくも弾力のある温かい胸板に顔をうずめる形になった。  「……少しはあったかいか?」  「……ありがと」  ガウルは毛布に隙間ができないように丁寧に整え、震える背中を大きな手でそっと撫でた。  (あー……なんだろ、あったかいし、めちゃくちゃ安心する……)  その温もりに包まれながら、俺は自然と力が抜け、冷えきった体がじんわりと解けていくのを感じた。  「……ご主人様、どうしたんですか?」  背中越しに、アヴィの囁き声が聞こえた。  ガウルが代わりに答える。  「寒気が止まらないらしい。具合が良くないみたいだ」  それを聞いたアヴィは、すかさず俺の背中にぴったり身を寄せ、毛布にくるまったガウルごと俺を後ろから抱きしめた。  「……気持ちが悪いな」  「そんなこと言ってる場合ですか。ご主人様を温めるのが先決でしょう」  その瞬間、クーが寝返りを打ったのか、ガウルの向こう側でベッドが軋む音が響いた。  「……えーっ、なんでガウルとアヴィが抱き合ってるの!?」  うん、クーの位置からだと、そう見えるよな。  ――だが、すまん。今はツッコミを入れる余裕なんて、俺にはなかった。  「あっ、なーんだ、あいだにユーマがいたんだ! ビックリしたー! 二人が変な気でも起こしたかと思った……!」  「……おい、静かにしろ」  「クーさん、非常事態です。ご主人様の具合が悪そうです。2階から使ってない毛布を何枚か持ってきてくれませんか?」  「え!? 待って、すぐ持ってくるね」  「……ごめんな」  「いいから、寝てろ」  ほどなくして毛布を抱えたクーが戻ってきた。  「……ユーマ、大丈夫? 寒いの?」  「……震えは収まった。でも手足がまだ冷たい」  「毛布を掛けてください」  クーが毛布をかけてくれて、ガウルとアヴィも熱を逃さないように更に密着してきた。  毛布の中には、ガウルの温かい胸板とアヴィのやわらかな体温が、俺を包み込むように重なっている。  冷たかった手足も、じんわり温かさが染み渡って、体の奥から力が抜けていく。  俺は目を閉じたまま、小さく息をついた。  ガウルの大きな手が背中を撫で、アヴィの腕がそっと腰を支えてくれる。  毛布と人肌のぬくもりに包まれて、俺は深い呼吸と共に、少しずつ穏やかに眠りに落ちていった。  ――あっつい……。    いや、暑いを通り越してもはや熱い、灼熱。  なにこれ、サウナ? 砂漠? 炎天下の車の中!?  汗で張り付いた前髪が鬱陶しい。  服もシーツも肌にべったり貼りついて、まるで蒸し器の中の点心状態。  「ぬわっっっちぃぃ……ッ!!」  あまりの蒸し暑さに、思わず毛布を蹴り飛ばし、反射的に上体を起こす。  ――そして。目に飛び込んできた光景に、俺は固まった。  ライトとリーヤとリィノが、火鉢の上で真っ赤に石を焼いている。  その焼けた石を、クーが水を張った鍋の中へ――ポチャン。  瞬間、モワッと立ちのぼる灼熱の蒸気。  あっという間に部屋がサウナと化した。  そしてその横では、チビたちがなぜか腕立て伏せ、ダンベル、スクワット。  筋肉が湯気に霞みながら、リズムよく動いている。  ……いや、待て。  なんで屋敷の寝室で“人体ボイラー式暖房システム”が稼働してるんだよ!?  「兄貴! この部屋暖炉がねぇもんで、あっしらであっためといておきやした!!」  「熱気循環完了ッス!!」  「おりゃああぁぁッ!」  体感温度、たぶん50度。ここ、寝室じゃなくて地獄の岩盤浴じゃねぇかッ!!  「ぬわああああッッ!! 暑いんだよおおおお!!!」  俺の絶叫が響く中――。  ベッドの上では、上半身裸のガウルとアヴィが、汗に濡れた肌をほのかに光らせながら、アンニュイに前髪をかき上げていた。  湯気のような熱気が立ちこめる部屋の中で、人気モデルのグラビア撮影みたいに見えるのが腹立つ。  「……元気そうだな」  「……ええ。やはり僕たちの献身という名の、愛の勝利ですね」  ちょ、待て待て!?  お前らヒーロー感出してるけど、俺、蒸し殺されかけてたんですけど!?!?  そしてその後、当然のように「みんな汗だくだし、風呂行くか!」という流れになり、  全員で風呂に突入――。  (いや、全員で!? 風呂に!? 入る必要ある!?!?)  完全に芋洗い状態。  湯船の中は、もはや筋肉と尻尾と獣耳(けもみみ)のカオスフェスティバル。  俺はその混沌の中心で、ただ茫然と、筋肉の荒波に揉まれるしかなかった。  結局、あの寒気の原因も分からぬままだったが――  ……けれど不思議なことに。  湯上がりの俺の身体は、妙に軽く、スッキリとしていて。  心も身体も、なぜか完全に“整った”のだった。  こうして――俺んち史上最大の“人力サウナ事件”は、  暑苦しさと蒸気と色気とカオスに塗れながら、華々しく幕を閉じたのだった。

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