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第49話 月夜にキミを想う ※R描写あり

(※背後注意、シリアスエロ、アヴィ視点。アヴィのひとり✕✕✕回。誰かの(へき)にぶっ刺さりますように……!) ***  夜半。しんと静まり返った二階の寝室。  いつもならすぐ隣から聞こえるはずの、あの人の寝息がない。  それだけで、クニクルス特有の敏い聴覚が、さらに研ぎ澄まされてしまう気がする。  眠れない。  ベッドからゆっくり身を起こし、胸の奥に残るざわつきを振り払うように、ひとつ深く息を吐いた。  ご主人様は今、ガウルさんと外泊している。  僕たちはときどき、こうして順番にご主人様を独占できる日を作っている。  それは、この奇妙な共同生活を続けるうえで、必要な取り決めだった。  ご主人様はひとりだけ。  誰より優しく、誰より触れられたくて、誰より愛しい人。  けれど、そんな人がたったひとりで――僕ら全員の劣情を抱えきれるはずもない。  満たされない渇きが、少しずつ降り積もり、理性という名の薄氷を静かに蝕んでしまう。  この愛の均衡(バランス)は重要だ。  そう理解している。  ……なのに。  ガウルさんが夜、あの人の腕の中で息を乱す姿を思うだけで、胃の奥が灼ける。  どうしようもない、嫉妬と焦燥。  自分で定めたルールに縛られながら、ひとり血を流す。その愚かな行為に、乾いた笑いが喉の奥でひっかかる。 ​ 愚かで浅はか、惨めな、飢えた獣。  この飢餓を、今夜、僕は一人で鎮めなければならなかった。  そっと息を潜め、ベッドを抜け出す。  床板の鳴りも避けながら階段を降り、一階――ご主人様の書斎の前で足を止めた。  静かに扉を押し開けると、書斎に満ちる木と紙の香りが迎えてくれる。  その奥に、ご主人様の体温の名残――うっすらと滲む汗の匂いが混じっていた。  その、微かに湿った気配が喉を焼く。  たったこれだけで、胸の奥が疼いてしまう自分が情けない。けれど、止められない。  鼻腔に満ちるその香りに、思わず唾を飲み込む。    僕は、机の脇に置かれた小さな簡易ベッドへ歩み寄った。  そこでしか眠れない夜が、ご主人様にはある。  学業に追われ、瞼を落とし、そのまま静かに息を立てていた姿を何度も見てきた。  枕に顔を埋める。  ――途端、胸の奥が甘く痺れた。  深く息を吸い込む。  柔らかな寝具の香りに、いつもより濃い“雄”の残り香が重なる。  それは確かに、愛しい伴侶のもの。  獣人にとって“番”の匂いは、血よりも深く、魂を縛る。  喉が勝手に鳴った。  息が漏れるように、唇が震えた。  「……ご主人様……」  名前を呼ぶたび、胸の内側にじわりと熱が広がる。  ほんの残り香だけで、身体の奥が疼くなんて。  どれだけ渇いているんだろう。どれだけ求めているんだろう。  会いたい。  触れたい。  奪いたい。  鼻先で繊維をかき分けながら何度も呼吸を繰り返す。脳髄が痺れるような感覚と共に下半身が熱くなる。  長い耳がピクリと震え、無意識に腰をシーツに擦りつけていた。  頭では分かっているのに手が止まらない。  薄布越しに指先を這わすと、既に硬くなり濡れそぼった先端が染みを作っていた。反り返った湾曲に沿って、するりと撫でると吐息が漏れ、唇が震えた。目を閉じれば昨日までの日々が蘇る。あの夜は確かに自分だけが求められていた。  指先が鈴口をなぞりながら、ゆっくりと沈んでいく。  そのまま裏筋へ、さらには柔らかな嚢へ――触れた場所すべてが火照りに呑まれていった。  「……ッ、は……」  息を押し殺す。  声なんて漏らしたら、惨めさが際立つだけだ。  だけど、堪えた息は喉の奥で震え、身体の奥を刺激する。  求めている。  あのたどたどしい掌を。  己の滾った欲を愛撫する、彼の舌と唇の感触。  戸惑いと苦悶に揺れる扇情的な瞳――  弱さと情欲を滲ませたその光が、たまらなく嗜虐心を掻き立てる。  手が勝手に動いてしまう。  ぬちぬちと粘り気のある水音だけが室内を満たす。  思い出すのはご主人様の息、囁き、喘ぎ声。  触れるたび、ゆっくりと崩れていった夜の断片。  脳裏で蘇る声が、耳を甘く掠める。  ――「……アヴィ、もっと……」  月明かりの中、白い首筋に浮かぶ汗粒。声を飲み込みながら、爪が皮膚に沈んでいく感触。  その記憶だけで、息が荒くなる。  喉の奥へ熱い息が詰まり、堪えきれずに漏れた声は、かすれた。  「……っ……ご主人、さま……」    ――今頃、ご主人様はガウルさんに犯されている。    嫉妬と興奮が混ざり合う。  濡れた陰茎を激しく前後に擦ると全身がびくびくと震えた。  ひとりで昂るほど、虚しさは鋭くなる。  けれど同時に、欲はさらに深く、濃く、確かに根を張る。  ご主人様なしじゃ、駄目な身体にされた。  そう、いつの間にか。  何もかも、あの人に刻まれてしまったのだ。  限界は、静かに、しかしどうしようもなく訪れた。  下肢が痙攣し、背筋が震え、声を噛み殺した喉がひくつく。  腹の奥から、熱がじわりと込み上げてきて――  「……っ、ぁ……ッ……」  こぼれそうになる声を、枕に噛みついて押し留める。  襞の中で何度も呼吸が乱れ、指先が掌を白くなるほど握り締めた。  求めるのは温もりなのに、触れているのは自分だけ。  その事実が、甘さと同じ分だけ胸をえぐる。  ――ひとりで昇って、ひとりで堕ちる。  腰が震え、息が途切れ、手の中へ吐精した瞬間、世界が白くなる。瞼の裏で、ご主人様の姿が滲む。    「……はぁ……っ……」  肩で荒く息を繰り返しながら、額を枕に押し当てる。  枕に顔を埋めたまま果てた余韻に沈み、しばらく身じろぎすら出来なかった。  指先に残る温い痕と、掌に吐き出した浅ましい欲望。  それらをただぼんやりと眺めることしかできない。  湿った熱気が肌に絡みつき、震える指はまだ止まらない。    ――早く。  帰ってきて。  こんな夜を、終わらせて。 

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