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第83話 仔竜の贈り物⑨ ※R描写あり

(※性的描写あり。苦手な方はご注意ください) ***  ガウルの部屋は、相変わらず飾り気がなかった。  ……いや、厳密にはガウルの部屋というより、もともと空き部屋だったのだけれど。  あるのは最低限の家具と、磨かれた装備品。  微かに漂う油と鉄の匂いが、彼の生活のすべてを物語っている。  その部屋の片隅――ベッド脇。  修復を終え、鞘に収まったミスリルのミディアムソードが立てかけられていた。  ガウルは俺を部屋へ入れると、受け取ったばかりの黒い剣(ルギド・ソード)を、慎重に机の上へ置く。  そして、ミスリルの愛剣を手に取り、俺の方へ振り返った。  「……手を出せ」  「え? あ、ああ……」  促されるまま両手を差し出すと――  ガウルはその剣を、長年命を預けてきた相棒を、そのまま俺の掌にコトリと乗せた。  ズシリ、と重みが腕にのしかかる。  だが、不思議と“重すぎない”。  研ぎ澄まされた重心が、まるで手に吸い付くように馴染んだ。  「……ガウル?」  意味がわからず見上げると、ガウルは満足げに目を細め、静かに告げた。  「――やる」  「……は?」  思考が、完全に停止した。  (いま、こいつ……なんて言った?)  「……護身用にでも、持っとけ」  「は……? はぁぁぁぁッ!? お、お前正気か!? これミスリルだぞ!? しかも、お前の愛剣だろ!? ずっと一緒に戦ってきた相棒じゃねぇか!」  慌てて押し返そうとしたが――  ガウルは俺の手を、剣ごと大きな両手で包みこんで止めた。  「……だからだ」  黄金の瞳が細められ、深いところから静かな熱が滲む。  「俺は、これから“あんたがくれた剣”を使う」  机の上のルギドソードへと、視線が向けられる。  「あんたが俺のために悩んで、用意してくれた剣だ。俺はこれで敵を斬り、道を拓く」  そしてまた、俺の掌のミスリルソードへと視線が戻る。  「だが……俺がいつだって、あんたの隣にいられるとは限らない。……今回みたいにな」  大きな指が、俺の手の甲をやさしく撫でる。  その、不器用で慎重な手つきに――後悔と願いが滲んでいた。  「こいつは、俺の癖も、戦い方も、全部知ってる。俺の血と汗を、一番吸ってきた剣だ」  一歩踏み込み、距離がゼロになる。  剣を挟んだまま、体温さえ感じられるほど近くで。  「……ま、御守りみたいなもんだ。俺がいなくても、アヴィかクーか……誰かしら、傍にいるだろ」  「ガウル……」  視界が滲みそうになるのを必死でこらえ、俺は抱えた剣を、両腕でぎゅっと引き寄せた。  冷たい金属から、確かに彼の熱を感じた。  ――これは、彼の半身だ。  狩人である彼の“命”そのものを、俺に預けると言っている。  「……大事にする。手入れとか……お前に教わりながら。  絶対、大事にするから」  震える声で言うと、ガウルはふっと力が抜けるように表情を緩めた。  それはこれまで見たことがないほど穏やかで、やさしい顔だった。  「ああ。……頼んだ」  そう囁くと、ガウルは俺の手を包んだまま――誓いの口づけにも似た仕草で、額を俺の額に深く押し当てた。  ゆっくりと擦り寄せるように額同士を寄せ、前髪がふわりと揺れる。  そして、するりとガウルの鼻先が俺の襟足へと滑り込み、熱を含んだ息が首筋を撫でた。  (うわ、くすぐってぇ……っ、てか、なんか……めちゃ匂い嗅いでない!?)  こっちの鼓動がバレそうで、俺は焦ってガウルの頬を軽く叩いた。  「わかった、わかったから。……もういい。これ以上、俺の顔赤くさせるなよ。ていうか、鼻息が熱い。マジで」  ようやく顔を離したガウルは、不満そうに眉をひそめる。  俺はミスリルソードを胸に抱きかかえたまま、逃げるように背を向けた。  このまま部屋から出ようと三歩――いや、二歩目に差しかかったところで。  ガシッ。  後ろから伸びた大きな手が俺の腰を捕らえ、動きを封じた。  「……待て。まだだ」  低い――喉の奥でかすれたような声。  有無を言わせる気ゼロ。完全に“狩り”の声色だ。  「なぁガウル。俺は明日、学校なんだよ。で、お前は長旅明け。……はい解散、寝ろ」  そう言うが早いか、腰に置かれた手の力がじわりと強くなる。  ――ダメだこれ。  背中にかかる熱だけで、もう理性の残量ゼロなのが分かる。  無言の圧力。  離すつもりはないという、鋼のような意志が腰の指先から伝わってくる。  俺は深く、重たい溜め息をついた。ここで意地を張っても、体力と時間を削られるだけだということは、この一年の付き合いで嫌というほど学習している。  俺はミスリルソードを抱く腕の力を、ふっと緩めた。  ……まあ、正直に言えば。  ガウルがいない間、無意識に横を見ては空虚さを感じていたのは、俺も同じだったから。  「……はぁ。分かったよ」  俺は観念して、背後の重みに体重を預けた。  「……その代わり、寝るだけだからな?」 ​ 念を押すように振り返ると、ガウルはまるで契約書に判を押すような真剣さで、即答した。  「ああ。寝るだけだ」  その表情が真面目すぎて、逆に不安になる。  ガウルは俺の手からミスリルソードを取り上げると、それを大事そうにベッド脇へ立てかけた。  そしてローブを脱いだ次の瞬間には、俺の身体はベッドへと沈められていた。  軋むスプリング。  背後から覆い被さる、圧倒的な質量と熱量。  俺はガウルの腕の中にすっぽりと収まり、背中から完全に抱きすくめられる形になった。  「……おい、ガウル? お前、息……めちゃくちゃ熱いんだけど」  「…………」  返事はない。  代わりに、俺の首筋に熱い塊が押し当てられた。ガウルの額だ。    (うわ……やば……)  ガウルの腕が、俺の腹の上でゆっくりと、しかし強固に締め上げられる。  逃げ場のない密着。  彼の大きな胸板に背中が押しつけられ、トクトクと力強く脈打つ鼓動が、俺の背骨に直接響いてくる。  「……あんたの匂い、久しぶりだ」  低い囁きが耳の裏を震わせる。  “寝るだけ”と言ったはずなのに、ガウルの呼吸がどんどん深く、荒く、そして粘着質になっていくのがわかる。  まるで、飢えた獣がようやく獲物を巣に持ち帰ったかのような、独占の吐息。  首筋に吸い付くような呼吸音に、俺の肌が粟立った。  (え、ちょ……お前……ほんとに『寝るだけ』だよな!?)  疑念を抱いた矢先だった。  ガウルの手が、もぞりと動いて――俺のシャツの裾へ、迷いなく入り込んできた。  「……っ!? おい!?」  「……肌に触れないとは、言ってない」  「……! それ、ずるいだろ……!?」  次の瞬間、背後から俺の尻に固いものが押し当てられた。   ――ゴリッ。  「……ッ!? おい! ガウル! 今、お前の……お前のガウルが! 俺に当たってんだけど!!」  一瞬、ガウルの腕がぴたりと止まる。  沈黙。  そして――低い声。  「……生理現象だ」  「クーと同じ事言うなよ! だいたい生理現象で済む硬度じゃねぇって! 凶器だろこれ!」  「……仕方ないだろ。三週間……いや、その前も含めたら、一ヶ月。あんたに触れてないんだからな。……あんたも、男なら分かるだろ?」  「そ、そりゃ分かるけど……適当にその……処理すればいいだろ?」  「……もうした。それでも、あんたに触れると――どうしようもなくなる」  その声は完全に、理性を手放した獣のそれだった。  ガウルの鼻先が俺の項をゆっくりなぞり、熱い吐息が肌を震わせる。  ガウルは俺の腰に回した腕にさらに力を込め、あろうことか、その凶悪な膨らみを、俺の尻に沿わせるようにグイッと押し当ててきた。  「ひぁっ……!?」  俺は抵抗することを諦め、ただ背中に押し付けられる体温と、シャツの中の指の動きに耐えるしかなかった。  「――ユーマ」  名前を呼ばれただけで、背筋が跳ねた。  甘く湿った声が、耳の奥まで落ちてくる。  そのまま、耳朶にそっと歯が触れ――  「……ッ!」  俺が息を呑む音で、ガウルの理性は完全に吹き飛んだ。布団の中、背後から押し寄せる熱が――さっきから、ずっと離れない。それどころか、背後から押し当てられるガウルのガウルが、ぐい、ぐいと俺の太腿をなぞる。  「……悪い、ユーマ。……やっぱり無理、だ」  低く濁った声が、俺の喉元に落ちた。  「……っ、ガウル……? ま、無理ってなんだよ……?」  問いかけた俺の左耳に、返ってきたのは言葉じゃなく、低く震える吐息が直接かかる音だった。  ガウルの呼吸が、耳の奥にまとわりついてくる。  押し殺しているはずなのに熱が滲んでいて、それだけで鼓膜の奥が震える。  その声に重なるように、腰のあたりへぐりっと押し寄せる硬いもの。  布越しでも分かる。  いや、布なんて無いのと同じぐらい、主張してきてる。  「ちょ、……なにしてるんだよ! いや、“ナニ”してるだろ! お前“寝るだけ”って約束しただろ……!?」  こっちまで体が熱くて仕方ない。  ガウルの胸が押し当てられ、息をするたび俺の背中が上下させられて。  耳元に「はぁ……っ、ぁ……」と、ガウルの悩ましい吐息が触れるたびに、体の奥まで震えが走る。  「……あんたは何もしなくていい。体だけ貸してくれ」  「……ガ、ガウルっ」  (ま、待て……体だけ貸せって、まさか……!?)  ガウルの熱塊が、布越しにゴリゴリと俺の尻の辺りに擦りつけられるたびに、声が喉の奥に引っかかる。  「……っ、や、ばい……って、これ……」  左耳を甘噛みされて、息が跳ねた。  「やめっ、ガウル……っ、耳は……!」  「……知ってる」  囁いたあと、耳の後ろにキスが落ちて、そのまま首筋まで舐め上げられた。  腰が勝手に逃げようとしたけれど、ガウルの腕が強く締め付けて――逃げられない。  「……ユーマ」  唇で首を吸われた瞬間、ガウルが俺の太腿に押しあてたまま、ゆっくりと押し上げてくる。  その動きがあまりにわざとらしくて、いやらしくて。  「ガウル……っ」  上擦った声が自分でも情けない。  耳朶にかかるガウルの息が、押し殺されているくせに甘くて熱くて……触れられてもないのに、脳を撫でられているみたいでおかしくなる。  「……少し、我慢してくれ」  低い声が湿った欲情を帯びている。その言葉と同時に——腰の動きが始まった。  最初は緩慢だった。ガウルの腰が持ち上がり、下腹部が俺の尻へと沈み込む。ズボン越しにも伝わる熱塊の硬さに、全身が強張った。  「んっ……!」  押し上げられるたび、擦れ方の角度が変わる。ズボン越しに布がきしむ乾いた音がして——その妙に規則的な動きが、嫌でも“何か”を思い出させた。  「お前……っ、これ……っ」  抗議の声は、振り返ろうとした瞬間に途切れた。  ガウルの腕が鎖骨のすぐ下を押さえつけ、動きを封じる。厚い胸板が背中に覆い被さり、逃げ道はどこにもない。  「ガ……っ、……!」  息が乱れる。  ぐっと背にのしかかる重さに、身体が沈み、ベッドの上で半ばうつ伏せに押し付けられた。  枕を握る指先がきしむほど力が入り、肩口に落ちるガウルの熱い呼吸が、肌を震わせる。  「悪い……止まらない」  その言葉と共に——ズボン越しの強い擦れが加速する。  押し潰すように腰が前後するたび、下半身がベッドに沈み込んだ。  規則的な動きのたびに、息が勝手に漏れてしまう。  「あ……っ!?」  硬い感触が尻の谷間を抉るように往復する。パンパンに張り詰めたガウルの欲望が布越しにぶつかり、背筋を駆け上がるような刺激が走った。  「バカっ……! 力入れすぎ……痛ぇって!」  悲鳴じみた抗議も届かない。ガウルの呼気は荒れ、熱い吐息が頸椎の窪みを焦がした。  「……ユーマ」  掠れ声が脅すように降る。刹那——グッと押し込んだガウルの腰が微細な震えを帯びた。内腿に密着していた質量が一瞬膨張し、  「ッ——」  短く詰めた息。それと同時に——どくん、と波打つ脈動が布越しにも伝わった。  射精の振動は鈍く、しかし確かに。二度、三度と断続的に続くその動きを俺の尻で直接受け止めてしまった。  「おま……っ、バカ……!」  震えを堪えながら声を荒げた瞬間——  「……悪い」  申し訳程度の謝罪とともに、ガウルがゆっくり身を引く。解放されたはずなのに、下半身がまだ痺れが抜けず動けなかった。  いや、動きたくなかった。  ガウルの熱が移ったかのように、ズボンの内側で愚息が窮屈に布地を押し上げていることに気付き、羞恥がこみ上げる。  「……っ!」  ガウルが、崩れた俺の体をそっと仰向けに戻す。  ついさっきまで背中に押し寄せていた体温の余韻が肌に残るのに、視界に映る彼の瞳だけは——燻る熱を抱えたまま、どこか冷えた光を放っていた。  「……次はあんたの番だ」  その宣告に、背筋が粟立った。  「……え? ……あっ!」  掠れた声が漏れた途端、影が覆いかぶさり、逃げ場を塞ぐようにガウルの腕が、俺の太腿を強引に割り広げた。  「なっ、なにすんだよ……!?」  「こんな状態で放っておくと思ってるのか?」  低く嘲る声が耳朶を這う。同時に——ガウルの膝が俺の股間にぐっと押し当てられた。  「うあッ……!?」  予期せぬ刺激に腰が跳ねた。布越しに感じる硬質な膝の感触が、膨らんだ肉茎を容赦なく圧迫する。  「……ちょ、ガウル! 痛いって!」  抵抗を口にするも、実際に脚を閉じることはできなかった。ガウルの体重が上から抑えつけ、まるで磔だ。  「痛いだけか……?」  喉奥で嗤うような音。次の瞬間、膝頭が円を描くように動いた。  「あっ……!?」  擦れる布地の摩擦が奇妙な快楽を呼び起こす。亀頭が膝頭に捏ねられ、陰嚢が揺らされるたび、腰から背筋へ痺れが走った。  「く……っ、ふ……ッ」  呼吸が乱れ、言葉は形を成さない。代わりに、抑えきれない荒い吐息が、裏切るように零れ落ちる。その反応を見透かしたように、ガウルの膝が速度を上げる。  「……無理に堪えるな。あんたがそうなるの、俺は嬉しい」  囁かれる言葉が麻薬のように意識を侵食する。いつしか膝だけでなく、ガウルの指が腿の内側を滑り始めた。  「あっ……そこ……ッ!」  敏感な部分を的確に突かれ、喉から引き攣った声が出る。ガウルの掌が鼠径部を覆い、熱い皮膚がズボン越しに蠢く。その直後——ガウルの膝が急に角度を変えた。陰嚢を下から押し上げるような突き上げに、視界が白く明滅する。  「や……っだ……っ! あ……ッ」  快楽と恐怖がない交ぜになり思考が麻痺する。ズボンの中で暴れ狂う劣情はもはや抑制不能で——  「出る……っ!」  叫んだ刹那、下腹部に強烈な緊張が走り——声もなく果てた。布地に熱い液体が染みていく感触。  ガウルの膝がゆっくり退かれても、脱力感と余韻に囚われたまま動けなかった。  「……っ、バカ野郎! 服汚れちまったじゃねぇか!」  辛うじて悪態をついてみせたところで、ガウルの巨躯に組み敷かれたままでは、抵抗にもならない。布地に広がる粘ついた感触に顔をしかめていると、間髪入れずガウルは動いた。  「じゃあ脱げばいいだろ」  ベッドに膝立ちになったままの巨体が、影のように距離を詰める。その動きは、いつもの重厚でどっしりとした印象からは想像もつかないほど鋭く、迷いがない。  まるで獲物を逃がさぬと決めた獣の――そんな気配だけが、空気を切って迫ってきた。  夜は、まだ長かった。

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