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第9話※

 リュートはラブに覆いかぶさったまま、闘っていた。この熱を早く解放したいという欲と、同意を得られるまで手を出してはいけないという理性が、内でせめぎあっている。ラブの肩に額を押し付け、熱を逃がすかのように荒い息を吐く。右手で自身に刺激を与え続け、左手は、組み敷いたラブの右手を逃げないようにしっかり握る。  ラブは今まで客から、言葉での称賛しか受けてこなかったが、それでも十分嬉しかった。自分自身を肯定されているような、そんな感覚が得られるからだ。しかし、今、目の前で繰り広げられている(正確に言えば自分の上でだが)この光景は、それを軽く上回る最高の賞賛だ。この薬には、意外に奥手で堅物と周囲から言われていたリュートをこんなにも乱れさせ、理性を吹き飛ばす事が出来る程の効果がある。浮かれずにはいられない。 「わかりました……これ、つけてください」  ラブはポケットからスキンを取り出し、リュートに見せる。 「なんだ、最初から抱かれる気だったの?やらしいな、ラブちゃんは」  余裕のないリュートが、余裕のあるように振る舞う。 「違います!僕が開発した、『ぬるぬるくん』です!」  勢いよく、スキンを鼻先にまで近づけられ、ピントが合わず一瞬怯む。リュートは、とりあ えずラブから少し離れ、解説を求める事にした。 「……えっと、何?」 「勃起したペニスに装着すると、熱反応で滝のように潤滑油が精製されます。同時に、痛みだ けに効く麻酔も染みだすので、受け入れる側が随分楽になります」  ラブが目をキラキラさせながら、饒舌に『ぬるぬるくん』の効果を説明する。「何より、かなりの時短になります」と、慎重に袋を破いて半透明のスキンを出し、慣れた手つきでリュートに装着する。  確かに、潤滑油が次々と溢れ、瞬く間にてらてらと光り出す。 「本当だ。すごいな」  リュートに褒められ「でしょう!」と鼻を高くするラブに、悲劇が訪れる。 「ちなみに、今俺がこんな状態になってるのって……」 「はい!『ガチガチくん3号』です!あっ!」 「ラブ~」  失言に気付くも、時すでに遅し。下着ごとズボンを下ろされ、軽々とうつ伏せにひっくり 返えされる。秘部には、リュートの屹立が宛がわれた。 「ワインに一服盛ったんだな?自業自得だ、覚悟しろ」 「こんなに効くとは思わなっ、あうっ!」  麻酔の効果で痛みはほぼ無いが、急にねじ込まれたあまりの質量に、息が詰まる。 「……っく!」  リュートの方は、きつい締め付けに顔を歪めた。盛られた薬の効果か、『ぬるぬるくん』の分泌物の所為なのか、ラブの中に自分が居る高揚からか、結合部が蕩けて混ざり合い、どちらの熱か区別が出来ない程の快楽が、すぐに押し寄せてくる。リュートがラブを盗み見ると、声が漏れないように口元を両手で押さえ、少し震えながら乱れる息を整えていた。  互いが落ち着くまで時間をとり、ラブが熱っぽい溜息を吐いたところで確認をする。 「気持ちいいって、わかるの?」 「は……い?ああ、分離ですか?わかりますよ、痛みだって。切り替えが速くできるってだけで」 「そっか……ごめんな。気持ちよく、なろう?」  リュートは限界まで自身を引き抜き、滑りが良いことを理由に、根元まで一気に挿入する。 「ひあっ!……うっ……こわい……」  リュートをいつも達観したように見ていたラブの瞳に、不安の色が混ざる。それは、リュートの加虐心を十分に煽ったが――  3往復でケリがついた。 *** 「……面目ない」   両手で顔を覆い、うなだれるリュートを尻目に、ラブの頭の中は、一刻も早くラボへ向かう事で一杯だった。 「いえ、いいんです。早く抜いてください」 「ご、ごめんなさい」  まくし立てるように言われ、リュートは慌ててラブの中から自身を引き抜いた。まだ硬度を保ったままのそれは、外気に触れると物欲しそうにぴくぴくと律動する。スキンの液溜めには大量の精液が収められており、リュートは再び顔を覆う。  ラブは、ずるりと異物が出ていく感覚を少し身を固くしてやり過ごし、急いでリュートのペニスに手を伸ばす。慎重にスキンを外し、たまったサンプルが零れないように口を縛ると、血管が浮き出て未だ臨戦態勢のそれが視界に入る。こんなもモノが、自分の中に突っ込まれていたのかと思うと少しゾッとしたが、関心はもはや、たっぷりと注がれた精液にしかない。 「次、ラブの番ね?」  リュートがラブの頭を撫で、下半身に手を伸ばした瞬間、ラブは跳ねるように立ち上がり、脱がされたズボンをひっつかんで出口へ向かう。 「いいえ、大丈夫です!それよりコレ、僕が処分しておくので、先輩は風呂に入って寝てください。 副作用で、どっと疲れが来ますから」 「あ……はい」  稲妻の速さで去って行ったラブに、リュートはただ、ベッドの上で全裸のまま、伸ばした手をひっこめるのも忘れて、呆然とする他なかった。 *** 「手に入れたよー!」 上機嫌でラボに入り、うとうと舟を漕いでいた猫に、先程入手した貴重なサンプル入りのスキンを見せつける。 「あー……おかえり。早かったね」 「そう、早かった!」  ラブは、精液を試験管に移し替え、分離機にかける。スイッチを押すと、バチバチと小さなプラズマを放ちながら、高速回転を始めた。5分もすれば、ラブのデータベースに新たな情報が加えられるだろう。  猫は、抱えていた一抹の不安が払拭され、愁眉を開いた。 「朝ごはん、確保だ。ニャー」 「わからないよ~?夜はまだまだこれからだっ!」  ラブと猫、それぞれの表情のコントラストが強くなった。

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