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第3話

「えっと...二ノ宮くん。」 「...はい」 「君、いくつ?」 『いくつ』だなんて小さな子どもじゃあるまいし。成人した男に使う言葉じゃないが。 それでもそう聞いてしまうほどに今の僕は動揺している。 開き直って叫んだは良いが、それなりに羞恥心も持ち合わせているのだろう。 二ノ宮くんは体を小さくしてしまった。 「...27」 27!? トゥエンティーセブン!? 嘘だろ。 その歳まで童貞だったってのか? てか、その拗ね方が27!? 目の前で体育座りで顔を隠す男をまじまじと見つめた。 「どうせ『その歳まで童貞』とか、バカにしてんだろ。坂木さんも」 「いや、その...まぁ驚いてはいるが。」 それよりも拗ね方がね、、、とは言えない。 「しょーがねーじゃん。勃たなかったんだから。」 「は?」 「もう、なんでも良いから答えろよ!俺が掘ったの?掘られたの?」 真っ赤になった顔を上げ、もう一度同じことを聞いてくる。 あ、ちょっと可愛い...と思ってしまったことは黙っておこう。 「僕も記憶が無いって言っただろ。」 「う"、」 苦笑混じりにそう告げれば、彼は言葉を飲んでしまった。 その様子が面白い。 「でもね、聞くけれど。二ノ宮くん、尻は痛い?」 男同士のセックスでそこを使うことは知識としては知っている。 つまり僕の尻が痛いってことは受けたのは自分なんだろう。 「...痛い」 「だろ?つまり...って、えぇえ!?」 予想外の返答に変な声が出てしまった。 泣きそうな顔して「いてぇよ、ケツ」と繰り返す彼に、今度は僕が言葉を飲んでしまった。 つまり君が掘ったんだよ、と言いかけた言葉の行き先を見失う。 「えっと、、痔、とか?」 「ねぇよ。なんだよ、俺のケツが痛いのが一体どうし、た...って、ああ...そうか」 語尾をだんだんと弱くし、二ノ宮くんは項垂れた。 明らかに誤解...いや、まるきり誤解じゃないが、、、している。 「なんだよ、『脱・童貞』どころか『脱・処女』かよ...こんなオッサンに」 「あ"ぁ?口の聞き方知らないガキが、だいたい僕はまだ47だ。」 本日2度目のオッサン呼ばわりに言い返せば、キッと睨まれた。 「ガキ扱いすんじゃねぇよ!20も上なら十分オッサンだろ!」 「っ、そうかもしれないけど!」 「かも、じゃねぇよ。そうなんだよ!」 ギャンギャンと噛み付いてくる二ノ宮くんに、だんだんイラッとくる。 だいたい二日酔いで頭は痛いし、 せっかくの休日の朝をこんなガキに喚かれるし、 尻にはいまだに違和感があるし、 あ、ほんとにムカついてきた。 「ほんっと最悪、俺帰っか...んん!」 そっぽを向きそう言う二ノ宮くんの胸ぐらを掴み引っぱると、自分の顔も寄せた。 そうして塞いだ唇は意外と柔らかくて、思ったよりも熱い。 「ふっ、ん...ンン...」 アーモンド型の目が驚きに大きく見開かれる。 クチュ...チュッ 薄く開かれた隙間から舌を差し込めば、逃げていくそれ。 逃げるとか生意気。 昨日はあんなに... ...あんなに? あんなに、なんだ? 「チュ...君、ムカつく」 「......っ、な、な...」 頭を過った考えを振り払い、音を響かせ唇を離す。 少し潤んだ瞳がどこか色っぽくも見えるが、如何せん生意気なガキだ。 わなわなと震える体をトンッと突き放し、玄関へと続く扉を指差した。 「帰るなら勝手に帰れ。玄関はあっち。」 「!?...言われなくても帰るよ!」 弾かれたように勢いよく立ち上がり鞄を掴むと、二ノ宮くんは「じゃあな!」と背中を向けた。 そうして扉を開けるその後ろ姿に「ああ、それと」と声を掛ける。 「尻が痛いのは君だけじゃないから。」 出ていこうとした体がピタッと止まる。 「え、」 ゆっくりと振り返った顔は困惑していて。 その表情が可笑しくてフッと笑いがこぼれた。 「...っ!!えっと、」 「だから、僕も痛いんだよ。尻が。」 「それって、、痔...?」 「..........」 ああ...誰かこのバカなクソガキをどうにかしてくれ。

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