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第4話

「よー、二ノ宮。週末あれから大丈夫だったか?」 「あれから?」 「接待で向こうの部長がかなり飲んだだろ。あの人飲むとたち悪いので有名だからな。お前めっちゃ絡まれてたじゃんか。」 「あ、あー。大丈夫、だったよ。」 喫煙所で一服していれば、隣に肩を並べた橋本に声をかけられた。 友人のそんな心配を曖昧に笑ってごまかす。 あの日、取引先の部長に飲まされて。 足やら肩やら、やけにベタベタと触れてくるのを我慢しながら酒に付き合った。 「...俺もその辺りまでは覚えてる」 「なに、記憶無いの?」 「うん、部長をタクシーに乗せて見送った後の記憶が」 そう。 その後の記憶が飛んでいる。 気付けば朝で。 目が覚めたときには、、、 「うがぁぁぁあ!」 「んな!何だよ急に!!」 頭を抱えてその場にしゃがんだ。 俺の奇行に驚いた橋本が大きな声を出す。 ダメだ、思い出すな! そう思うのにダメだと思えば思うほどに鮮明に記憶が蘇る。 柔らかい唇、滑った舌、重なった口から洩れる水音... 『君、ムカつく』 離れた唇から呟かれたセリフに傷つくよりも、眉を寄せながら見つめてきた瞳に心臓が大きな音をたてた。 なんだよ、オッサンのくせに...なんであんな色気あんだよ! 出ていこうとした時に見せた笑顔とか、なんかこう、ずりぃだろ!ずりぃんだよ!! 「う"ぅぅ...」 「ちょ、二ノ宮?お前大丈夫か?ほら、手貸してやるから立てよ。」 橋本の心配そうな声が上から降ってくる。 それに甘えて手を引っ張ってもらいながら立ち上がった。 出社して、午前の仕事を終わらせて、昼飯食って。 いつもと変わらない日常の中でふとした瞬間にあのオッサンのことを思い出し、その度に胸が(あと下半身が)ズキンと痛む。 なんだこれ。 変な病気か? なんで20も年上の男なんかに、身体が反応してんだ! 「なぁ...」 「んー?」 「思い出しただけで勃起しそうとか、ヤベーよな?」 「ブハッ!!...は、え?」 盛大に吹き出すと口元を拭いながら俺を見つめてきた。 その目が『何言ってんだ、コイツ』と語っている。 「...やっぱさ、分からないことはハッキリさせたいよな、うん。よし、そうだ。」 「お、おう。よく分からんが頑張れ。じゃ、またな。」 関わりたくないのか、おざなりな返事を残し橋本は先に喫煙所を出ていった。 それに手を上げて応えると、大きく息を吸い込み吐き出す。 好きとか嫌いとか、恋愛感情とは違う...と思う。 でもあのオッサンにはちゃんと勃つみたいだし。 「...っち、」 いつの間にか短くなったタバコを消した。 指を焦がすまで気づかなかったとか、しっかりしろよ俺。 あの日は負けて(?)慌てて逃げ帰ったけど。 今度はあんたが慌てる番だかんな、坂木さん。

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