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「大好きって……なんだよ、改まって。
ゴホンッ……あー、それにしても暑くないか?」
優成は照れ臭そうに頬をかきながら、エアコンのリモコンに手を伸ばした。
僅かに頬を赤くする優成を見て、俺はある確信を得た。
「優成って……俺から攻められるの弱いんだな」
「は?別に、そんなこと……ねーだろ……」
俺の言葉に、優成は慌てたようにリモコンをピピピと鳴らし温度を下げた。
──優成……かわいい
優成に対してこんな感情を持つようになるなんて、俺も相当好きになっちゃってる。
俺は緩む表情を引き締めるため、麦茶を一口飲んでからゆっくりと口を開いた。
「昨日レイチェルから聞いた話だけど……。
まず、呪いが解けてるかっていう確認の話からするね」
「うん、どうだった?」
優成の喉が小さく上下するのがわかった。
緊張が俺にまで伝わってきた。
「レイチェルは呪いは解けてるって言ってた」
優成はホッとした表情を見せた。
でも俺は優成が口を開く前に次の話を始めた。
「あと、呪いについてもっと詳しい話を聞いてきた」
「もっと……詳しい話?」
その質問に俺はゆっくりと頷いた。
「えっと、それは……」
話す内容は決まっているのに、うまく声が出てこなかった。
今から伝えることを優成がどう受け止めるのか……。
それを考えると緊張で喉が詰まった。
でも俺は──優成を安心させなきゃいけない
俺は三日前の決意を思い出し、優成に視線を向けた。
「これから話すこと、驚くだろうし理解が追いつかないかもしれないけど、聞いてほしい。
実は……呪いには“代償”があるらしいんだ」
「……だい、しょう?なんだそれ。
もしかして、命を取られる……とか?」
優成の表情が一瞬にして青くなった。
俺は慌てて首を横に振った。
「違う違う、命とかそういうのじゃない!」 少し声が大きくなってしまって、俺は一度息を整えた。
「……ごめん。ちゃんと説明する」
優成は俺の様子を見て小さく頷いた。
でも、その表情はまだ強張ったままだ。
俺は視線を落とし、指先をぎゅっと握った。
「呪いを発動させた側には、代償があるんだって」
俺は言葉を選びながらゆっくり続ける。
「一番大切にしてたものを、失うらしい」
その瞬間、優成の体が僅かに揺れたのがわかった。
俺はすぐに顔を上げる。
「でも、それはもう起きてることなんだ」
優成の目をまっすぐ見て、はっきりと言った。
「これから何かを失うとか、そういう話じゃない」
「……もう、起きてる?俺は何かを失っているってことか?」
優成の声が低くなる。
俺は頷いた。
「優成の場合は……」
喉が鳴った。
それでも、逃げずに続けた。
「“友情”だって言われた」
一瞬、部屋の空気が止まった。
優成は何も言わず、俺を見つめている。
怒っているわけでも、否定しているわけでもない。
ただ、理解しようとしている顔だった。
「……友情?俺と、世利の?」
俺は小さく頷いた。
「もし俺たちが別れたとしたら……」
「あ?別れる?」
「例えばだよ!」
怒りだしそうな優成に、慌てて言葉の訂正をした。
「例えば!もし!何かのせいで別れたとしたら!
そうしたら、もう二度と優成が大切にしていた友人関係には戻れない……らしい」
「それは…………え?……は?」
そう言うと、優成は手のひらを口元にあてて、しばらく何かを考えているようだった。
「俺と世利の友情が……失われてる?
元には……戻れない?
まぁ恋人になったんだから、そう言われたらそうなのかもしれない……けど……。
…………え?」
短い沈黙が部屋を覆った。
混乱している優成に、俺はできる限り優しく声をかけた。
「優成は……俺と出会ってから、どんな気持ちで隣にいてくれたの?」
「どんな気持ちって……、そりゃ好きだなって思ってた」
俺に目線を合わせて答える優成。
その表情は、少し戸惑っているように見えた。
「それだけ?」
俺の質問に優成は一瞬眉間にしわを寄せた。
「……それだけってなんだよ。もちろんエロいことも想像して……」
「そうじゃなくて!」
核心を避けようとする優成に、俺は身を乗り出して話を遮った。
「俺と一緒にいてずっと楽しかった?
優成は……不安を抱えてたんじゃない?」
「……?!」
その言葉に優成が目を見開いた。
一瞬、言葉を失ったように口を開けて、それからゆっくりと視線を逸らした。
ヒュッと、エアコンの風が二人の間をすり抜けた。
「……不安?」
低く、確認するような声だった。
「俺が?」
優成は小さく笑おうとしたけれど、その笑いは途中で止まった。
代わりに、喉がごくりと鳴る音がやけに大きく聞こえた。
「そんなこと……」
そう言いかけて、優成はまた言葉を飲み込む。
俺は急かさなかった。
ただ優成を見つめて待った。
しばらくして長いため息とともに、優成は手のひらで顔を覆った。
「あー……」
困ったような、情けないような声。
「お前……ズルい質問するなよ」
「ごめん」
俺は小さく謝った。
でも目は逸らさなかった。
「でもさ、優成がどう思ってたか、ちゃんと知りたいんだ」
沈黙が落ちる。
エアコンが忙しなく動く音だけが、やけにうるさく聞こえてきた。
優成は息を吐いてからぽつりと口を開いた。
「……楽しかったよ」
それは迷いのない声だった。
「世利と一緒にいるのは、ずっと楽しかった。
俺にとって一番大切な時間だった」
優成は俺から視線を逸らし下を向いた。
そして、大きく息を吸ってから口を開いた。
「だからこそ……」
声がほんの少しだけ低くなる。
「世利との関係を失うのが怖かった」
俺の胸が、強く締め付けられた。
「もし告白して世利が離れていったら、一緒に笑う時間も、くだらない話も、全部なくなる気がしてさ」
優成の視線は下を向いたまま、指先が膝の上で強く握られている。
「……ずっと、不安だった」
やっと、そう言った。
「好きだって気持ちより、嫌われたくないって気持ちのほうが……ずっと強い」
俺はゆっくりと息を吐いた。
優成の言葉は、今もそうなのだと言っているように聞こえた。
「……そっか」
俺はそれ以上すぐには言葉が出てこなかった。
「だから友達でいられるなら、それでいいって思ってた」
優成は顔を上げて苦笑いを浮かべる。
「世利の隣にいられるなら、恋人じゃなくてもいいって……本気で、そう……」
最後の方は声が掠れてよく聞こえなかった。
それでも優成の過去の想いが、俺の胸の奥を静かに押し潰していった。
俺はゆっくりと立ち上がる。
そして、優成の前に膝をついてしゃがみ込んだ。
「……優成」
名前を呼ぶ声が少し震えた。
「それ、すごく不安だったな」
優成が驚いたように俺を見る。
「10年分だもんな。
優成の一番大切なもの……なんだもんな」
小さく笑った俺に、優成は何も言わなかった。
俺たちはその場でしばらく見つめ合った。
伝えてくれた優成の気持ちを、俺は否定したくない。
でも、その不安な想いを未来に持っていくつもりはないんだ。
握った拳に力を入れ、俺は話を続けた。
「レイチェルの話だと、優成の抱いていた俺たちの友情は失ったけど……」
一つ、息を吐いた。
「俺の友情は消えてないらしい」
「ん?……どういう、ことだ?」
新たな情報に、優成はまた困惑した表情を見せた。
俺は、力の入った優成の左手に右手を重ねた。
「あっ!お前触っちゃ……」
「なぁ、優成」
慌てた様子の優成の言葉を遮り、俺はゆっくりと名前を口にした。
「……な、なんだよ」
握られている手を困ったように見つめながら、優成は返事をした。
触れちゃいけないというルールを、俺のために必死に守ってくれている優成。
そんな優成を愛おしく思う気持ちで胸がいっぱいになる。
愛情も友情も、過去も未来も全部ひっくるめて──俺が不安を消し去ってやるから。
「結婚しよ」
「……え?」
優成は俺の目を見て、
「……ん?」
眉間に深いしわを寄せ、
「はあ???」
真っ赤になって声を荒らげた。
俺はニカッと歯を見せて優成に笑いかけた。
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