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「はあ……???」 優成は完全にフリーズしたまま、俺の顔と、握られた自分の手を交互に見ていた。 ──いや、顔怖っ……。 考え事をしているだけなのに、知らない人が見たら本気でキレていると誤解されそうな迫力だ。 「結婚しようよ」 改めて口にした瞬間、優成の体がびくりと揺れた。 「ちょ、待て待て待て……」 ようやく声を絞り出したかと思うと、右手を振って俺を制止する。 「話が……急すぎるだろ……」 「そう?」 俺は首を傾げた。 「俺の中では、ちゃんと予定どおりなんだけどな」 「予定どおり……?俺は今、頭ん中パンクしそうなんだっての!」 裏返った声に、思わず苦笑しそうになる。 それでも俺は、握った手を離さなかった。 「結婚……嫌だった?」 「そういう訳じゃなくて……それ以前の問題だ」 優成は視線を逸らしたまま、言葉を続ける。 「俺はまだ、呪いの代償についてちゃんと理解できてない」 「……十年分の友情がなくなったって部分?」 「いや、それは……なんとなく、わかった」 思わず目を見開いた。 俺にはまるで実感できなかった感情を、優成はほんの少しの説明で理解してしまっている。 「実感、あるの?」 そう聞くと、優成は小さく頷いた。 「俺が抱えてた友情は恋人になった瞬間に消えた。 もう二度と元には戻らない……そういう感情だったのは、間違いない」 はっきり言い切る声とは裏腹に、その表情はどこか寂しそうだった。 「……そっか」 優成が積み重ねてきた十年は、俺には簡単に理解できるものじゃない。 そう、改めて思い知らされる。 でも──きっと、それでいいんだ 俺が違う感情を持っていることこそが、今は意味を持つ。 「逆に、なんでまだ友情が残ってるのかわからない。俺たち……恋人だよな?」 「……え?」 予想していなかった言葉に俺の声が上擦った。 「恋人になると……友情って、なくなるの?」 「違うのか?」 今度は優成が、戸惑った表情を浮かべる。 そのまま、時間が止まったみたいに沈黙が落ちた。 「……恋人って、友達みたいな感情じゃなくなるってこと?」 俺は喉から言葉を絞り出す。 「俺は、スパッと切り替わった気がしてる。 ……世利は、違うんだな」 「うん、俺は……」 指先が、少しだけ冷たかった。 それを誤魔化すように、重ねた右手に力を込める。 「俺は、ずっと気持ちが続いてる。 出会ったときから今までが、一本の線で繋がってるみたいに」 気づけば、必死だった。 「恋人になったからって、そこで途切れるわけじゃなくて。 むしろ“恋人”って関係が、その線を太くしていく感じで……!」 拙い言葉でも、優成は遮らず、静かに聞いてくれていた。 「関係は変わってもさ。これからもずっと、優成の一番近くで笑ってたいんだ」 俺は大きく息を吸い、少し間を置いて続けた。 「……優成にも安心して隣で笑っててほしい」 「嫌われたくないとか、失いたくないとか。 そんな不安、感じなくていいくらいの安心感をあげたい」 「それが……俺なりの、友情を失った優成への答えなんだ」 「世利……俺は──」 「それとだな!」 「……まだあんのかよ」 「優成さ、俺に嫌われたくないって言うけどさ……」 一気に息を吸って── 「俺だって同じだからな!! なんなら俺の方が、お前がいなくなったら生きていけないからな!!!」 「…………」 「…………」 「……ぶっ……ぶはっ!」 突然、優成が吹き出した。 「っな?!笑うなよ、俺本気だぞ!!」 「ハハ、ごめん。お前が必死に伝えてくれるのが嬉しくて……嬉しくて……っ……」 目に涙を溜めながら微笑む優成。 「優成……」 静かに肩を震わせる優成に、俺は戸惑ってしまった。 ──優成が泣くところ、初めて見た…… 俺は左手で、優成の頬に流れる一筋の涙を拭いた。 そして、目をまっすぐ見つめ、優しく語りかけた。 「なぁ、優成。俺と未来の約束をしよう」 「っ……約束?」 「うん、呪いの代償に打ち勝てるくらいの、強い約束を俺と結ぼう」 一瞬、音が消えたみたいに静かになった。 エアコンの風の音だけが、やけに遠くで鳴っている。 「……」 優成は何か言おうとして、口を開きかけて── でも、言葉が出てこないみたいだった。 自分の手の甲でまぶたを擦り、小さく息を吐いた。 「……馬鹿だな、お前」 そして、ゆっくりと顔を上げたときには、もういつもの優成に戻っていた。 俺を見下ろしながら、口角を僅かに上げた。 「俺が世利から離れるわけないだろ」 「結婚上等だ。逃げ場なんて、もういらねーよ」 優成の言葉を聞いた瞬間、俺の胸の奥がギュウッと締め付けられた。 気づいたら、目からボロボロと涙が溢れていた。 「うっ……うぅ……ゆうせぇ……。 おれ、おれぇ……しあわぜにするがらぁ……!」 「ぶっ……お前、泣きすぎだろ。鼻水まで出てるぞ」 優成はティッシュを一枚取って、俺の鼻水をふいてくれた。 いつの間にか繋がれていた手は離れていたけど、今はさっきよりも距離が近くなった気がする。 「世利、ありがとな。 俺の方こそ、お前を幸せにしたい」 「ゔんっ!」 「ぐふっ……締まらねぇな、お前の顔」 しばらく俺の顔を見て笑っていた優成は、少しだけ神妙な表情になり口を開いた。 「まぁ結婚って言っても、俺たちは同性だからパートナーってやつになるのか?」 突然の真面目な話に、俺も鼻水をチーンとかんでから答えた。 「そのことだけど、実は役所に行って話を聞いてきたんだ」 「え?世利、一人で?」 「まずは話だけ聞いておこうと思ってさ。詳しく書いてある書類貰ってきたから、優成も見てよ」 俺は立ち上がり、壁の隅に置いてある封筒を取ろうとした。 その時、手前にある紙袋を蹴ってしまい、中身がゴロゴロと飛び出した。 「あっ!」 俺が慌てて隠しても、時すでに遅かった。 「おまっ……それ……」 「あ、あはは……見ちゃった?」 「な、なんだその……大量のアダルトグッズは!?」 震える優成が指を差す。 俺の腕の中には、多種多様なお尻開発グッズが抱えられていた。

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