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第5話

大学生ってもっと輝いてると思ってた。夢のキャンパスライフ、サークル活動。たくさんの人と関わって、キラキラきゃぴきゃぴしたモンだと。 しかし現実は山のような課題に追われ、友人も中々できず、バイトを始めたら睡眠時間も確保できない。私生活は乱れる一方。 『こんなはずじゃなかったんだ!』 ドラマの再放送で俳優が叫んだ言葉に、迎は「わかる」と頷いた。 「こんなはずじゃなかったんだよ。入学した時はな。もっと青春できると思ってたし、下手したら起業できちゃうかな、とか考えてた。何にもアイディアないのに」 「しかも休み過ぎて、単位落としかねないんだろ? 奨学金借りてんだからちゃんと行けよ」 自宅の六畳の居間で、的確なツッコミを入れる存在。 そうだ、そういや最近変わったことがある。どん詰まりのような人生に現れた、お手本のような優等生。 帷幸耶。彼と過ごす時間が、今の唯一の癒しだ。初めて会った日から二週間。今日は四度目の来訪。 「就活しながら奨学金返すのは大変だぞ。課題、本当にやばかったら手伝うから」 「帷くん……ありがとう。大好き」 視界に入れてるだけで自分まで頭が良くなったように錯覚する、インテリ大学生の帷。 しかもイケメン。今観てるドラマの俳優もかなりの美形だが、リアルはまた特別だ。 帷は時計を見ると、教本を閉じた。教習所だと集中できないようで、俺の家でもいつも勉強している。 根が真面目なんだろう。彼ならあっという間に試験をパスして、すぐ卒業できちゃうだろうな、と思った。 「そろそろ時間だから行くわ」 「あぁ、頑張って!」 立ち上がった帷の後を追い、一緒に外へ出る。 「何かさ、こうやって家からいつも送り出してると同棲してるみたい。ハハハ」 「同棲ねえ……」 彼は首を傾げ、それから俺の額を指で押した。 「じゃ、教習終わったらまた戻ってきていい? 夜飯作るよ」 「はい。心よりお待ちしてます」 また帷の美味い手料理が食べられる。そう思ったら無心で頷いた。 帷は楽しそうに笑い、また後で、と言って目の前の教習所へ歩いて行った。 わあ。夜が……いや、あと二時間が待ち遠しい。 思わずスキップしそうなのを堪え、踵を返した。 「……」 二階の部屋へ戻ろうとしたが、ふと思い立ってアパートの裏側へ回った。裏は駐車場になっており、車を十台ほど停められるようになっている。 一番奥まで歩き、白いセダンの前で足を止めた。少しだけ屈んで、開いているサイドミラーをたたむ。 「……何とか生きてるよ」 どん底に落ちて、もう終わりだと思ったけど。存外しぶとく生きている。 ぽつりと零した誰も知らない独白は、外の熱に負けて蒸発した。

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