5 / 52
第5話
大学生ってもっと輝いてると思ってた。夢のキャンパスライフ、サークル活動。たくさんの人と関わって、キラキラきゃぴきゃぴしたモンだと。
しかし現実は山のような課題に追われ、友人も中々できず、バイトを始めたら睡眠時間も確保できない。私生活は乱れる一方。
『こんなはずじゃなかったんだ!』
ドラマの再放送で俳優が叫んだ言葉に、迎は「わかる」と頷いた。
「こんなはずじゃなかったんだよ。入学した時はな。もっと青春できると思ってたし、下手したら起業できちゃうかな、とか考えてた。何にもアイディアないのに」
「しかも休み過ぎて、単位落としかねないんだろ? 奨学金借りてんだからちゃんと行けよ」
自宅の六畳の居間で、的確なツッコミを入れる存在。
そうだ、そういや最近変わったことがある。どん詰まりのような人生に現れた、お手本のような優等生。
帷幸耶。彼と過ごす時間が、今の唯一の癒しだ。初めて会った日から二週間。今日は四度目の来訪。
「就活しながら奨学金返すのは大変だぞ。課題、本当にやばかったら手伝うから」
「帷くん……ありがとう。大好き」
視界に入れてるだけで自分まで頭が良くなったように錯覚する、インテリ大学生の帷。
しかもイケメン。今観てるドラマの俳優もかなりの美形だが、リアルはまた特別だ。
帷は時計を見ると、教本を閉じた。教習所だと集中できないようで、俺の家でもいつも勉強している。
根が真面目なんだろう。彼ならあっという間に試験をパスして、すぐ卒業できちゃうだろうな、と思った。
「そろそろ時間だから行くわ」
「あぁ、頑張って!」
立ち上がった帷の後を追い、一緒に外へ出る。
「何かさ、こうやって家からいつも送り出してると同棲してるみたい。ハハハ」
「同棲ねえ……」
彼は首を傾げ、それから俺の額を指で押した。
「じゃ、教習終わったらまた戻ってきていい? 夜飯作るよ」
「はい。心よりお待ちしてます」
また帷の美味い手料理が食べられる。そう思ったら無心で頷いた。
帷は楽しそうに笑い、また後で、と言って目の前の教習所へ歩いて行った。
わあ。夜が……いや、あと二時間が待ち遠しい。
思わずスキップしそうなのを堪え、踵を返した。
「……」
二階の部屋へ戻ろうとしたが、ふと思い立ってアパートの裏側へ回った。裏は駐車場になっており、車を十台ほど停められるようになっている。
一番奥まで歩き、白いセダンの前で足を止めた。少しだけ屈んで、開いているサイドミラーをたたむ。
「……何とか生きてるよ」
どん底に落ちて、もう終わりだと思ったけど。存外しぶとく生きている。
ぽつりと零した誰も知らない独白は、外の熱に負けて蒸発した。
ともだちにシェアしよう!

