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第12話

緊張する。 喉が焼けそうなほどの暑さにうだってるのに、鼓動はやたら速い。 迎は三ヶ月ぶりの教習所の前で、額ににじむ汗を拭った。 「三ヶ月サボってた俺を教習所が拒んでる……」 「はいはい。分かったから行くぞ」 相変わらず帷くんはクールである。 諦めて、颯爽と横を通り過ぎた彼の後に続いた。 土曜日ということもあって、受付のあるフロアは人が多く、活気があった。 「うは~、大学生ばっかで目が痛い」 「お前も大学生だろ」 「俺はあんなパリピじゃない。絶対輪に入れない」 帷の後ろに隠れ、賑やかな大学生グループを避けて空いてるベンチに向かった。 「お前も見た目は遊んでそうなのに、意外と引っ込み思案なんだな」 「進んで前に出たいとは思わないな。仲良い奴ひとりいたら充分だもん」 自販機でジュースを買い、ひとつを帷に渡した。 「だから、お前がいれば充分ってカンジ?」 「……そ」 帷はサンキュー、と言って時計を見た。 「俺は今から試験だけど、お前は自習室に行くんだよな?」 「あぁ。気まずいけど」 「何百って数の生徒がいんだから、しばらく休んでたって何も言われないよ。俺もそうだし」 「あれ、帷も不登校だったの?」 「言い方……まあな」 帷はやれやれといった様子で、ジュースを飲みきった。 やっぱりお母さんのことで色々大変で、行けない期間があったんだな。 密かに考えて、そりゃそうだと消化する。 ちょうど次の教習を知らせるアナウンスが流れた為、帷は鞄を持って立ち上がった。 「じゃ、行ってきます」 「行ってら。頑張れよ! マインドだから!」 「はいはい」 帷は可笑しそうに笑うと、すれ違いざまに俺の前髪を持ち上げた。 「終わったら迎えに行く」 「……おぉ」 その笑顔は、本当に甘くて、優しくて。 しばらくその場に立ち尽くしてしまうぐらい、見惚れてしまった。 不審に思われるから、俺も早く移動しないと。そう思うのに、やたらめったら足が重い。引き摺るように歩き出し、自習室へ向かった。 てか、帷は試験なんだから迎えに行くのは俺の方だよな。 冷静さを取り戻すも、尚さら羞恥心が込み上げてきた。 はぁ。部屋に着くまで誰とも会いませんように。 多分俺、今かなり真っ赤になってる。

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