12 / 52
第12話
緊張する。
喉が焼けそうなほどの暑さにうだってるのに、鼓動はやたら速い。
迎は三ヶ月ぶりの教習所の前で、額ににじむ汗を拭った。
「三ヶ月サボってた俺を教習所が拒んでる……」
「はいはい。分かったから行くぞ」
相変わらず帷くんはクールである。
諦めて、颯爽と横を通り過ぎた彼の後に続いた。
土曜日ということもあって、受付のあるフロアは人が多く、活気があった。
「うは~、大学生ばっかで目が痛い」
「お前も大学生だろ」
「俺はあんなパリピじゃない。絶対輪に入れない」
帷の後ろに隠れ、賑やかな大学生グループを避けて空いてるベンチに向かった。
「お前も見た目は遊んでそうなのに、意外と引っ込み思案なんだな」
「進んで前に出たいとは思わないな。仲良い奴ひとりいたら充分だもん」
自販機でジュースを買い、ひとつを帷に渡した。
「だから、お前がいれば充分ってカンジ?」
「……そ」
帷はサンキュー、と言って時計を見た。
「俺は今から試験だけど、お前は自習室に行くんだよな?」
「あぁ。気まずいけど」
「何百って数の生徒がいんだから、しばらく休んでたって何も言われないよ。俺もそうだし」
「あれ、帷も不登校だったの?」
「言い方……まあな」
帷はやれやれといった様子で、ジュースを飲みきった。
やっぱりお母さんのことで色々大変で、行けない期間があったんだな。
密かに考えて、そりゃそうだと消化する。
ちょうど次の教習を知らせるアナウンスが流れた為、帷は鞄を持って立ち上がった。
「じゃ、行ってきます」
「行ってら。頑張れよ! マインドだから!」
「はいはい」
帷は可笑しそうに笑うと、すれ違いざまに俺の前髪を持ち上げた。
「終わったら迎えに行く」
「……おぉ」
その笑顔は、本当に甘くて、優しくて。
しばらくその場に立ち尽くしてしまうぐらい、見惚れてしまった。
不審に思われるから、俺も早く移動しないと。そう思うのに、やたらめったら足が重い。引き摺るように歩き出し、自習室へ向かった。
てか、帷は試験なんだから迎えに行くのは俺の方だよな。
冷静さを取り戻すも、尚さら羞恥心が込み上げてきた。
はぁ。部屋に着くまで誰とも会いませんように。
多分俺、今かなり真っ赤になってる。
ともだちにシェアしよう!

