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第14話
「できた……」
インスタントに頼り続けていたというのに、テーブルには普通の家庭みたいな料理が並べられている。感動して、思わず写真を撮ってしまった。
「帷~! お待たせ!! 食おうぜ!」
「おぉ、いい匂い」
まだお茶を用意してなかったけど、堪えられずに呼んでしまった。帷が席についた時にお茶とお箸を渡し、実食を見守る。
「安心して。美味いかどうかは分からないけど、少なくとも不味くはないと思う」
「すごく絶妙だな。……いただきます」
帷は手を合わせ、早速しょうが焼きを一切れ頬張った。
無言で咀嚼する彼を、じっと見つめる。
今日は緊張する瞬間が何回もあるな……。
手に汗握りながら、帷の感想を待つ。一応味見もしたし、すごく不味いということはないはず……だけど。
俺が味音痴だったら話は変わってくる。元々、濃い味付けの方が好きな人間だ。薄味が好きな人からすれば美味しくないかも。
「帷……どう? 大丈夫?」
恐る恐る尋ねる。正直半泣きだったけど、彼は頷き、グッドサインを出した。
「美味い」
「ほんと? お世辞じゃない?」
「まさか。ほら、食ってみ」
帷はそう言うと、俺の箸でしょうが焼きを取った。
口元に差し出された以上、「あーん」から逃れることはできない。覚悟を決め、しょうが焼きを食べた。
「ん。……ん!!」
「美味いだろ」
「あぁ。美味い……」
簡単だったけど、自分が作ったとは思えない。びっくりしてしばらくフリーズしてしまった。
「帷、俺決めた。これから得意料理はしょうが焼きってことにする」
「良いじゃん。その調子で他にも色々……」
「いや、レパートリーは増やさなくていいや。基本帷が作ったもん食べたいし」
「こらこら」
白飯をかきこみ、すぐにおかわりする。帷も二杯目に突入した。怖いぐらいご飯が進むおかずだ。
お祝いと言うには地味だけど、帷は「最高だよ」と言ってくれた。
「お前の手料理が食べられるなんて。何か、人生悪いことばっかじゃないなって思った」
「まだ十代だろ。大袈裟だよ」
ツッコんだけど、内心俺も同じことを思っていた。
帷に会って、「生きてて良かった」と本気で思った。
彼がいなかったら、俺は何も楽しもうとせず、暗い方へ流れて行ったかもしれない。
「ほんとにありがとな、迎」
「……おぉ」
でも、帷の笑顔はどんな闇も照らす。
俺にとって太陽と一緒だ。初めて会った日の、肌が焼けそうな陽射し。それ以上に眩い存在。
視界が鮮やかで仕方ない。
長いことモノクロだった世界は、もう完全に色づいてしまっていた。
「でも、確かにちょっとは料理できないとだよな。……よし! 帷がまた試験に合格した時は、俺が炊事担当するよ」
「ほー、その案はいいな。宜しく頼む」
不思議な約束をして、笑い合う。デザートは帷のリクエスト通り、白玉あんみつを作った。白玉なんて出来合いのものしか知らないから、白玉粉を自分で捏ねて茹でる、というのは中々な衝撃だった。
しかもやってみると意外に面白い。これぞ案ずるより産むが易しだ。
「わぁ~……俺の白玉、ころころして艶々して可愛い」
沸騰したお湯から、白玉を少しずつ掬い出す。あまりの綺麗さにうっとりしてると、帷が複雑そうな顔で呟いた。
「お前、宝石も美味そうとか言って食いそうだな」
「食わないよ! これは柔らかそうだから」
冷やした粒あんの上に白玉を乗せて、仕上げにさくらんぼを添える。これもお店のクオリティに見えなくもない。
自分で作るのって、こんなに充実感があるんだなぁ。
誰かの為にやると思えば、尚さら。やり甲斐だけじゃなく、嬉しくなる。
「ほい! デザートのできあがり」
「お~。綺麗」
第二のミッションクリア。
ご飯を食べ終え、彩りの良い白玉あんみつを作った。
甘い上に冷たい。夏といったらアイスやかき氷が一番に思い浮かぶけど、白玉あんみつも中々オツだと思った。
逆にパンケーキとかじゃなくて良かった。火を使うスイーツだったら、盛大に失敗していたかもしれない。
「人生でろくに料理したことないのに、一日で三品も作るなんて……」
「三品? 二品じゃなくて?」
「三品! 味噌汁も作ったろ!」
しかも、キャベツともやしと人参を入れた具たくさん味噌汁だ。帷からしたら作れて当たり前なんだろうけど、そこは料理としてカウントしてほしい。
頬を膨らましていると、帷は目に涙を浮かべながら笑った。
「悪い悪い、そうだったな。あ、米も炊いたし四品にしとくか」
帷は気を気遣ってくれたが、そこは三品で良いと言っておいた。
……でもやっぱり、彼といると景色が鮮やかだ。全てが新鮮に見えるし、挑戦しようという気になる。
誰かの為に作るご飯も、気持ちを共有する時間も、全部かけがえのない宝物だ。
こんなにも楽しくて、気持ちが弾むなんて。
帷と会わせてくれた神様に、ありがとうを言いたい。
「美味い。いくらでも食えそう」
「ははっ、良かった。また作るよ!」
次は寒天や求肥を入れて、もっと豪華にする。
密かに計画して、彼と暑い時間を過ごした。
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