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第21話 時々雨

軽くハイタッチして、台所の明かりを消す。 帷を名前で呼ぶのが嬉しくて、意識しないとニヤニヤしてしまいそうだった。 変人と思われる前に直さないと。頬を両手で叩き、食後の飲み物の準備をした。 「幸耶。今日俺が買ってきた皿どうだった?」 「あぁ、大きくて使いやすかったよ。デザインも良いよな」 幸耶は椅子に座り、頬杖をつく。 「新しい食器があると、料理すんのもちょっとテンション上がる」 「ははっ。それなら良かった」 コーヒーをグラスに淹れて、氷を入れる。色が二層になるようゆっくり炭酸水を入れた。 「ほい、コーヒーソーダ」 「おぉ~、オシャレじゃん。お前も変わったなぁ」 レモンを添えれば、まるでカフェのドリンクのような出来栄えだ。 「いや、レシピってすごいよな。忠実に作ればそれっぽく見えるんだもん」 「はは、確かに。……お、美味い」 コーヒーは砂糖を入れて甘みをつけてるから、かなり飲みやすいと思う。幸耶はストローで軽くかき混ぜ、感動したように頷いた。 「まず、お前が自主的になにか作ろうとしてることが嬉しい」 「うんうん。もっと褒めてくれ」 幸耶と対面するように腰掛け、爽やかなソーダを吸い上げる。 この何でもないひと時が大好きだ。楽しくて、温かくて……ずっとずっと続いてほしい。 「今まで、全然なにかを作る気になれなかった。自分の為だけに作るのが億劫だったんだよな」 しかも、上手く作れる自信もない。それなら出来栄えのものを買った方が絶対良いと思っていた。 でも今は違う。「作らなきゃ」という使命感ではなく、「作りたい」と思えている。 「今は幸耶がいるから……お前の為に作りたいって思うんだ」 何にでも挑戦して、何でも共有したい。独りの時なら考えられなかったことだ。 「お前……それ無自覚で言ってるんだよな?」 「え? 何が?」 「いや……何でもない。大丈夫」 何が大丈夫なのかも分からないが、帷は口元を隠して俯いた。 やばい。変なこと言ったから、引かれたのかな。 何回もやらかしてるから耐性はできてきたけど、内心ではめちゃくちゃへこんだ。 けど、帷はグラスを持ち上げ、急に目を輝かせた。 「……なぁ。もしかしてこのグラスも今日買ったの?」 「え? あ、うん!」 すっかり忘れていたけど、幸耶は新しいグラスに気付いてくれた。 今日お店で一目惚れした、向日葵が装飾されたグラス。コーヒーのおかげで、明るい黄色がより映えている。 帷はグラスを傾け、まじまじと眺めた。 「良いな。夏っぽいし、明るい」 「気に入ってくれた?」 「もちろん」 やった! 帷とお茶する為に買ったから、そう言ってもらえてすごく嬉しかった。 「幸耶、俺さ……花で一番好きなの、向日葵なんだ」 「へぇ。でも何となく分かるかも。お前ってダイナミックなもん好きそうなイメージ」 「どういうことだよ……単に昔向日葵畑に行って、感動しただけだって」 頬を膨らまして言うと、帷は可笑しそうに肩を揺らした。 「そうか。……でも、良いじゃんか。俺は向日葵畑って行ったことないよ」 「ほんと? じゃあ機会あったら行ってみ。暑いけど、一面の向日葵に囲まれんのは中々良いよ」

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