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第43話

「そうか……」 俊美は少し驚いた顔をしていたが、すぐに幸耶の背中を叩いた。 「大変だったんだね。……風月の友達は俺の甥も同然だから、困ったことがあったら言いな。そうそう、車買うときは呼んでくれたら付き合うぞ」 「あはは。ありがとうございます」 大胆かつ優しい声掛けに、自然と心もほぐれていた。足元に咲く小さな花を見つめ、そっと触れる。 「あの……すみません、風月って向日葵が好きって聞いたんですけど。おすすめの向日葵畑ってありますか?」 「お? 何だ、一緒に行くのか? 青春だな~」 「う~ん……どうなんでしょ……」 正直、青春や友情とは少し違う気がする。 女子同士ならともかく、男同士で花を見に行くことはそうそうない。 下手すると怪しまれそうだと思ったが、意を決して質問した。 俊美は腕を組み、記憶を辿る。 「都内にも有名なところはあるけど。……確か昔、兄さんが風月を向日葵畑に連れて行ったことがある。写真が一枚残ってたから思い出した」 「ほんとですか!」 「あぁ。ちょっと待っててくれ。ええと、これだな」 翳されたスマホの画面には、幼い風月とその父親である青年が笑顔で映っていた。満開の向日葵に囲まれ、とても楽しそうだった。 「よく咲いてるよなぁ。……風月も、これを覚えてたのかもしれないな。向日葵が好きだなんて、俺も初めて知ったから」 ……。 嬉しそうに笑ってる。お父さんのことが本当に大好きだったのだと一目で分かった。 胸の中が熱くなる。この感情の正体は、まだ分からないけど。 「ありがとうございます。……ここ、どこか分かりますか?」 「あー、ここは確か……」 連絡先を交換し、互いにスマホを仕舞う。 俊美に御礼を言って頭を下げたとき、風月がうんざりした顔で帰ってきた。 「サンキューな、風月。売店混んでたか?」 「いやぁ、ひとは全然いなかったんだけど、レジのおばさんが他のおばさんと話し込んでてさ。……でも無事に買えたよ。早く線香あげよ!」 風月はまるで勝利のトロフィーを手に入れたかのように、お線香を掲げた。 「幸耶、来てくれてほんとにありがとな」 「……ううん。俺の方こそ」 お線香に火をつけ、手を合わせる。懐かしい香りと、時が止まったような静寂。 今ここにいられることに感謝して、幸耶は瞼を伏せた。 ( 幸耶のお父さん。……俺は…… ) きっと、またここに来ます。 心の中でそう呟き、青すぎる空を仰いだ。 隣で瞼を伏せる、大切な存在。彼が動き出すまで、こっそり見つめていた。 その後は軽くドライブをして、俊美イチオシのサービスエリアでグルメ巡りをした。 帰る頃には満腹で眠ってしまい、気付いたら風月のアパートの駐車場に着いていた。 「お疲れー。着いたぞ、若人達」 「あ! ね、寝てた……すみません、俊美さん……!」 「いーのいーの。たまには大人に甘えな」 エンジンを止め、三人で車を降りる。 「はー、腰痛いな」 後部座席で変な寝方をしてしまっていたのか、あちこち痛い。風月はぐっと背伸びし、俊美に振り返った。 「叔父さん、今日は色々ありがとうございました」 「おー。それじゃ、俺はそろそろ帰るけど……何かあったら連絡しろよ」 「はい」 頷くと、また頭を撫でられた。 叔父は結婚しているけど、子どもがいない。だからか、昔からとても世話を焼いてくれるひとだった。 父が亡くなったときは一番に迎えに来てくれた。……いつもはつい素っ気ない態度をとってしまうけど、本当に大切な存在だ。 「叔父さんも、俺にできることがあったら言ってくださいね。あ、あとおばさんにも宜しく」 「あぁ、言っとく。……今度は俺の家に来な。幸耶君も連れて」 それを聞いた幸耶の頬は少し赤らんでいた。 どうしたのか分からないけど、素直に礼を言い、愛車で帰る彼を見送った。

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