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第44話

「はぁ~、我が家に安着だな。幸耶もおつかれ!」 「あぁ。……お父さんに会わせてくれてありがと」 幸耶は足を止め、かすかに笑った。 それがまた嬉しくて、目頭が熱くなった。自分のことのように喜んでくれる存在が傍にいること。それは、奇跡に近いことかもしれない。 夜なのに、真昼のような温かさを感じている。 幸耶がいると顔が火照って、ずっと夏みたいだ。 何でもできるし、どこにでも行ける気がする。 「あ~……幸耶。……今日も泊まってく?」 「疲れてるだろ。今日は帰るよ」 「いやっ俺は全然疲れてないから大丈夫! お前が疲れてるんじゃないか、って思って」 ぶんぶんと手を振り、階段を指し示す。 「お……叔父さんから大量に貰った素麺消費しないといけないし」 引き止める言い訳には弱いと思ったけど、幸耶は吹き出し、横を通り過ぎた。 階段を一段上がり、振り向きざま俺に手を差し出す。 「ありがとっ。じゃ、一緒に頂くよ」 「……おう!」 その手を取り、二人で階段を上がる。 うだるような熱気が俺達を包んでいる。今思えば初めっから。 遠くに広がる淡い藍色は、目眩がしそうなほど綺麗で、それが幸耶の髪と重なっていた。

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