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第49話

緩やかに、だけど掴めない速さで日々が過ぎていく。 俺は翌月に入ってすぐに免許センターへ行き、試験に合格した。 数週間ほどしてから、幸耶から無事免許取得の連絡がきた。 電車に乗ってる最中だったけど、歓喜のあまり変な声が出て恥ずかしかった。 ( 良かった…… ) 財布の中に入ってる免許証を取り出し、目を眇める。 幸耶や俺にとってこれは、知識や技術の証明だけじゃない。 過去に負った傷を乗り越えた証だ。ひとりでは叶わなかったけど、手を引き合って手に入れた、絆の証でもある。 幸耶が家に来なくなっても、生活はやっぱり変わらなくて、いつもなにかに追われている。 だけど何とかなる気がしてるんだ。この強さは、彼から与えられたもの。 俺はこれからもずっと、彼のことを思い出して生きていく。 露往霜来。 またたく間に季節は流れ、一年の時が経った。 ◇ 「死ぬ……」 暑い。年々凄まじくなる酷暑に殺される。 電気代がかさむから我慢してきたけど、もう限界だ。リモコンの温度設定を下げるという、苦渋の決断をした。 引っ越しをしたから貯金がすっからかんで、現在バイト三昧の日々。風月は冷水のシャワーを浴び、向日葵のグラスに麦茶を入れた。 「平和だ……」 暑いけど、暑い意外に問題はない。それはとても贅沢で、恵まれたこと。 ホッと息をつける時間に感謝しつつ、窓に広がる深い青を見上げた。 今日は完全にフリーだから、何しよう。 とりあえず洗濯でもするかと思っていると、スマホの着信音が鳴った。 「ん?」 電話なんて珍しい。一体誰からだろう。 手にとって画面に表示された名前を見る。その瞬間、時が止まった。 「あ……」 最後に連絡してから何ヶ月ぶりだろう。 忙しいかもと遠慮して、中々こちらから連絡できなかった。 声を聞くのもやっとだけど、ずっと想い続けた大事な存在。 「もしもし。……幸耶?」 『もしもし。久しぶり、風月』 電話を掛けてきたのは幸耶だった。久しぶりに聞いた声は以前と同じく透き通って、優しく鼓膜を揺さぶった。 「めずらしー。どうしたの? 元気?」 『元気だよ。俺としてはお前の方が心配でさ。ほとんど生存確認みたいな』 「……大丈夫だよ」

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