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第5話

今でもよく覚えているのは、あの日のことだ。 中学生になったばかりの初夏のこと。 部活で疲れた身体は上質な睡眠を貪る。 朝までぐっすり、…のはずだったのに。 エアコンで冷えた部屋なのに、嫌な汗が背中を伝う。 さっきまで寝ていたはずのベッドは妙に居心地が悪い。 冷感パットの触り心地すら気に障る。 「……、はぁ……、は……っ、………」 夢の中で琥太郎といつものように過ごしていた。 いつものように喋りながら自宅に帰ってきて、部屋で駄弁って。 ゲームをしていたはずだ。 それで……、それなのに……、なんで。 下着の中に手を入れると、湿った感覚。 体温に馴染んでいるソレが“ナニ”かなんて、見なくても分かった。 漏らしたんじゃない。 友達ではじめての精通を迎えてしまった。 酷い罪悪感だ。 これは、琥太郎への裏切りだ。 「……はぁ……、ハァ……、ハァ………」 下着が冷たくなっていくのが不快だ。 濡れていて気持ち悪い。 だけど、動くことが出来なかった。 膝を抱え、何度も何度も「ごめん…」と心の中で謝り続けた。 楽しい日常の延長線だったからこそ許せない。 許せなかったんだ。 「…鷹矢、眠い?」 「え? あぁ、ごめん。 なんて?」 「腹減ったならどっかで食べて行く?って思ったけど、眠いなら部屋行こうか。 ベッド貸すから、少し寝なよ」 ベッドなんて借りたら、ますます変なことを考えてしまいそうだ。 ただでさえ、いまだ治まらないと言うのに。 修行僧にでもなれと言うのか。 生憎、俺はしがない営業だぞ。 それに、寝かせてもらうより先に、きちんと挨拶はしておきたかった。 その為の土産だって早起きして駅で選んだんだ。 「平気だよ」 「引き継ぎとか、引っ越し準備とか忙しかったんじゃないの? 移動だって疲れたろ。 別に鷹矢と俺の仲なんだし、遠慮はすんなよ」 「遠慮なんてしねぇよ。 先に土産持っていって荷物減らしたいのもあるし、サクッと済ませた方が後から楽だろ」 「まぁ…、そうだな。 鷹矢が言うなら俺ん家寄るか」 「おん。 頼むわ」 ウインカーを点滅させると、見慣れた道へとハンドルが切られた。

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