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第6話
「ただいま」
「お邪魔しまーす」
学生時代、何百、何千と通った琥太郎の実家の玄関。
それを潜ると、小さな靴が行儀良く並んでいた。
琥太郎の甥、絶対君主な瑠璃子さんの息子となればさぞ良い子……
「だれだっ!」
うわ…、瑠璃子さんの遺伝子だ…
長女の瑠璃子さんは、一言で言えば権力者だ。
二言なら、絶対君主のお姉さんだ。
強い。
けど、その強さはパワーじゃない。
圧倒的に姉力が強いんだ。
妹の瑠奈ちゃんもカラッとした性格で、丁度上2人の性格を混ぜたような子だ。
同じく県外に就職をし、一人暮らしということもあって時々会っては困っていることはないか、心配事はないか、と面倒を頼まれていた。
勿論、琥太郎と瑠璃子さんの2人に。
一人っ子の俺は姉弟のそういう感じに憧れていたので、そうして接することが出来て嬉しかった。
その瑠璃子さんを彷彿とさせる、幼児が廊下へと顔を出した。
「碧、お客さんだよ。
俺の友達。
ほら、挨拶どうするんだっけ?」
「こたろーのともだち?
くせ、あおいです。
よんさいです。
うさぎぐみですっ。
おじさんは?」
「え、琥太郎の友達?
やっだ、鷹矢くんだ!
やだやだ、大人になってる!」
甥っ子──あおいくんの声に、もう1つ廊下に頭が覗いた。
瑠璃子さんだ。
無邪気に笑う瑠璃子さんも、最後に会った時より大人になっていた。
“大人”というより、“母親”と言えばいいのだろうか。
僅かな変化のようで大きな変化。
だけど、久し振りに会うのに久し振りな気がしないのは、瑠奈ちゃんに会っていたからだろうか。
それとも、保育園からずっと親友の姉だからか。
どちらにしても、元気そうで良かった。
「瑠璃子さん、お久し振りです。
お代わりなく、今日も綺麗ですね」
「鷹矢くん、口上手くなってる!
営業してるんだっけ。
すごいね」
「おじさん、たかや?」
ボトムスを引っ張る碧と目が合うようにしゃがみ込む。
クリッとした目が可愛い子。
こういう挨拶は年齢関係なく大切なんだ。
「うん。
ご挨拶が遅れました。
琥太郎の友達の遠山鷹矢です。
30歳です。
よろし…うわっ」
「とーやまっ!
さくら!
ぬいで!」
「え…?」
キラッキラの目がすぐ近くまで寄せられる。
マジマジと見ると、眉毛のかたちが琥太郎によく似ている。
目元は瑠璃子さんで、なんとなく琥太郎の小さい頃に似ている。
ではなくて、助け船が欲しくて琥太郎を見上げると、はじまった…と言いたげな顔をしていた。
「きんさんの、まごでしょっ」
あぁ、なるほど
「碧…っ。
ご挨拶はちゃんと聞きなさいっ」
「だってぇ…」
そうだ。
小さい頃からの鉄板ネタだ。
遠山という苗字から、金さんを想像する人は少なくない。
ただ、鷹というイメージが強いせいかそんなことを聞かれるのも最初だけだ。
それを4歳児が真剣な顔で──それも幼馴染みに似た顔で聞いてくるんだ。
可愛いったりゃありしない。
「遠山の金さんの孫ではないけど、仲良くしてください。
これ、お土産です。
どうぞ」
「ありがとっ。
ママっ、もらった!」
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