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第11話

1番最初の挨拶先は農協──農業協同組合。 島を荒らすことはしないつもりだが、縄張りに入り込む以上、最低限の挨拶と礼儀は必要だ。 この為に、手土産をしこたま買い込んできた。 すべては相手を笑顔にする為に。 勝負は笑顔で。 相手からのナイフにも笑顔を返す。 それがモットーだ。 「失礼致します。 先ほどお電話致しました、東雲アグリテック株式会社の遠山と申します。 農営部の佐々木様はいらっしゃいますか」 「佐々木ですね、少々お待ちください。 …どうぞ、奥の応接室へご案内します」 「ありがとうございます」 フレッシュな笑顔で対応してくれた女性の後を続くと、奥の席で人影が動いた。 白髪まじりの髪に、作業着を羽織った年配の男性。 席順や立ち居振る舞いからして、あの人が担当者だろう。 横目に確認しつつ、応接室へと足を踏み入れる。 企業の応接室とは少し違い、どこか祖父母の家のような懐かしささえある室内。 壁の色やカーペットのセンス。 少し古くて、それが良い。 落ち着いたトーンの部屋の中には、表彰状や盾、農産物のポスターが貼られている。 特に目を引くのはポスターで、野菜の色、果物の色、黄金色は米だ。 この美味そうな恵みを作り出してくれる方々が少しでも楽になるように。 少しでも美味しい物を安定して作れるように。 そのお手伝いがしたいんだ。 スッと背筋を伸ばしたところで、先ほど横目に見た白髪交じりの頭の年配の男がやって来た。 「わざわざご足労いただいてすみません。 遠山さん、でしたね。 佐々木です」 「いえ、こちらこそ、お時間をつくっていただきありがとうございます。 東雲アグリテック株式会社の遠山です。 どうぞよろしくお願いいたします」 真新しい名刺と、手に馴染んだ名刺を交換する。 そして、それを机に置いて一呼吸。 新人の時に先輩から教わったことだ。 呼吸、つまりは“間”を大切にする。 これを間違えてしまえば、“間抜け”なんだと。 「こちら、よかったら皆様で召し上がってくだい。 あんバタの焼き菓子です」 「あんバターですか。 洋菓子なのに珍しいですね」 「えぇ。 和洋折衷、組み合わせは無限大です。 このあんバターとフィナンシェのように、農協様とは末長く付き合っていけたらと思います」 「ははっ、真面目ですね。 けど、こちらこそ色々と教えてください」 タヌキと思われても構わない。 最初は警戒されて当たり前。 だからこそ、わざと作り込まないんだ。 素顔を見せることで得られる安心感がある。 敵ではない。 協力しあう仲間をつくるんだ。 「ドローンのことで、特に若い農家さんから関心が上がってましてね。 たまにテレビで放送してるでしょう。 若い担い手が増えれば、もっと伝統的な野菜をこれからに残したり、未来の食生活を守れますからね。 食は命です。 農家さん含め、守らなければいけません」 「仰る通りです。 まさにその点を現場で支えていければと思っております。 農業だけでは生活が成り立たない。 だから兼業をしている。 そんな農家さんもいらっしゃいますよね。 100%を注ぎきれない。 そんな時に、ほんの少しのお手伝いが出来たらと思っております。 まずは無理のない導入からご提案できるよう、なにかとご相談させていただければ…」 美味い飯が食卓に並んでいるのは当たり前ではない。 気温障害や自然災害、近年急激に姿をかえて襲いかかってくる猛威に対して生身の人間は弱い。 自然には立ち向かうことすら出来ない。 けれど、機械がそこを切り抜けてくれるかもしれない。 生まれ育った土地の食文化が好きだ。 それを守る砦の1つになってくれるかもしれない。 それを提案するのが俺の仕事だ。 「頼りにしてますよ。 いやぁ、お若い方は頭がやわらかくて羨ましいですね」 「ありがとうございますっ」

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