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第13話
合鍵を挿し込みカチャッと解錠すると、玄関に部屋の灯りが僅かに漏れていてる。
それどころか、味噌汁のにおいがドアの隙間からこちらへと届き、拡がっていた。
胸がふわふわする。
まるで、土曜日に学校から帰ると、母が昼ご飯を用意して待っていてくれた時みたいな気持ちだ。
とても小さなこと。
小さなことだが、大きなことだ。
間借りさせてもらっている部屋なので靴を揃えて端に寄せ、緩んだ顔のまま部屋の扉を開ける。
「ただいまぁ」
「おかえり」
昔とかわらない琥太郎が笑顔で迎えてくれた。
たったそれだけのことにホッとする。
一人暮らしも慣れたと思っていたが、やっぱり迎えてくれる人がいるのは安堵する。
「なぁなぁ、フィナンシェ美味かった。
あんバターってのが良いな」
「美味かったろ。
あぁいうの選ぶの楽しいよな。
食った感想聞ける機会なんてそうそうねぇけど、美味かったって言ってもらえて選んだかいがあったよ」
「本社に行くことあったら、またあれ買ってきて。
今度は一緒に食おう」
「おん。
任せとけ」
鞄も担いだまま、まずはまっすぐ洗面所へ。
うがい、手洗いは必須。
沢山の人と会う業務をこなす上で、体調管理はとても大切なことだ。
取引先の誰かへ移さない為にも。
自分が移らない為にも。
健康第一、安全第二だ。
「惣菜だけど、飯食う?」
「食うっ食うっ。
つか、味噌汁作ってんだろ。
自炊じゃん」
「味噌汁くらいはな」
「惣菜を並べるのだって立派な自炊だし謙遜すんな。
そこに味噌汁あるんだから、もっと誇れよ」
東京での一人暮らしは酷い時でコンビニ飯、カップ麺のローテーションだった。
それでも、誰かが作ってくれた立派な食事。
それを食べると選択した時点で自炊なんだ。
勿論、自論だけど。
鍋の中を覗けば、豆腐とわかめとたけのこの味噌汁が美味そうな湯気をたてている。
これが自炊じゃないなんて、とんだ謙遜だ。
「はぁぁ……、さいっこうじゃん」
「リアル社畜だ…」
「褒めんなよ」
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