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第15話

「いただきますっ!」 まずはあたたかな味噌汁で腹をあたためる。 そんなことをしなくとも、食欲はバッチリだが癖だ。 冷めない内が美味いものをあったかい内に口にする。 一種の敬意だ。 「うっ、めぇ…」 「いつもなに食ってたの…」 「弁当か、コンビニ、すき家、松屋、たまにウーバー。 米くらいは時々炊いてたから、たまごとか納豆なけたご飯とかも食ってた」 「よく営業の体力もってたな…」 誰かに気兼ねすることのない自由な生活と、ストレス発散の為の場所は沢山あった。 田舎とは違い、楽しい場所もすぐ近くだった。 けれど、いつの間にかそういう遊びより寝たり仕事をしている時間の方が増えていき、最終的には仕事で評価を獲た。 そして、この異動での昇進。 一体、なにを犠牲にして“今”を獲たのだろうか。 逃げた先での暮らしは楽しかった。 楽しかったが、本当にその選択で良かったのか。 眠れない夜はそんなことが頭を過ることもあった。 寝れない夜っていうのは、碌なことを考えさせない。 そう理解しながらも早く朝がくるのを願っていた仕事に没頭してしまえば、時間も碌なことも忘れていられたから。 「まぁな。 昔から身体だけは丈夫だったし。 あっちで風邪で寝込んだのも1回だな」 「連絡くれなかった」 「心配かけたくねぇだろ。 なんだよ、来てくれたのか?」 「…土日なら」 「平気だって。 仕事先で風邪もらっただけだし」 そんな理性のヤバそうな時に来られたら、どうしていたか自分でも分からない。 それに、気軽に来れる距離でも時間でもなかった。 そんな距離で伝えてどうするんだ。 人肌恋しくなっても、それだけはしなかった。 「でも、瑠奈がインフルになった時は飲み物とか冷えピタとか届けてくれたろ。 すげぇ助かった。 本当にありがとう」 「ばっか。 俺にとっても瑠奈ちゃんは妹みたいな存在だろ。 するよ。 当たり前だろ」 30歳になるおっさんが、ウジウジしていて恥ずかしい。 それでも、壊したくない大切なものだったんだ。

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