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第16話
いよいよ入社式も終わり、希望に満ちた目がズラリと並んでいる。
陽キャではないのでこうした自己紹介は得意ではないが、今は少しだけ余裕を持つことが出来ている
ただそれだけだ。
だが、きっと仕事をする上でとても大切なものだ。
「改めまして。
はじめまして。
遠山鷹矢と申します。
主に営業回りや、皆さんの現場同行、サポートを担当します。
なにかあれば気軽に声をかけてください。
質問するかどうか迷ったら、迷わず聞いてください。
それに答えるのが僕の仕事です。
これから、どうぞよろしくお願いします」
初々しい顔は緊張で硬い。
8年前のことを思い出せば、自分だってそうだった。
8年経てば、こうもかわる。
それは入社当時は考える余裕もなかった事実だ。
だからこそ、サポートをする。
余裕がある人が傍にいることで、ほんの少し息をするタイミングを掴んでほしい。
人と話すことは時に難しいが、その分ちゃんとやりがいもあるから。
「じゃあ、このまま会議室借りてるのでここで説明します。
お手洗いとかは大丈夫ですか。
10分、時間をとります」
楽しかった間借り生活も4日で終わり、今は真っ暗な部屋に帰る日々だ。
時々一緒に晩飯を食べようと互いの部屋を行き来しているが、新入社員向けの資料の製作や仕事で帰宅時間が遅くなることもしばしば。
その資料を入ったファイルを紙袋から取り出していると、1人、また1人と会議室に帰ってきた。
まだまだ時間には余裕があるのに真面目なのも新入社員の“らしさ”だ。
「お手伝い出来ることがあれば、させてください」
「まだ休憩時間ありますよ?
良いんですか?」
「もうみんな戻ってきてますし…。
なぁ」
頷く頭に最近の子は勤勉だと知る。
上手く力を抜くことも大切だ。
だけど、入社してたった数時間。
力が入っていることすら、気が付けないのだろう。
すべて、思い当たることばかり。
「すみませんが、これを一部ずつとこっちを一枚ずつ配ってもらえますか。
じゃあ、はじめましょうか」
はじめこそ緊張するが、隣にいるのはこれから力強い同期となるメンバーだ。
少しずつ関係性を築いていったら良い。
無理に頑張ったってしんどくなるだけ。
それなら、ゆっくりで良いと思う。
人間誰しも、合う合わないがある。
合わない人と無理に仲良くする必要もなければ、仲が良いのに離れる必要もない。
……そういう距離感っていうのを俺は、見誤った。
見誤ったばかりか、その人から逃げた。
けれど、親友はいつでも「おかえり」と待っていてくれた。
それがどれほど心強いか。
それさえあれば、踏ん張れる。
俺が、それを知っているんだ。
本人には言わないけどな。
だから、家族、友人、恋人、誰だって良い。
見付けるのは難しいが、出会えればきっと大きな力になるはずだから。
負けんな。
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