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第19話

待ち合わせまであと少し。 急ぎの電話がきて対応をしていたらこんな時間だ。 時刻の話だけをすれば、歩いてもギリギリ間に合う。 だが、遅れそうで走っている。 これは職業病だ。 時間にはきっちり。 約束は必ず守る為に努力をする。 営業として最低限のマナーが、こんなところでも発揮されるとは。 青信号になった横断歩道に一歩踏み出した瞬間、自転車が歩行者に気付かずスレスレで目の前を通り過ぎた。 思わず1歩下がった。 田舎だから善人しかいないなんてのは幻想だ。 当たり前に、善人も、悪人も、マナーの悪い人間もいる。 そんなことを実感出来るのもまだ嬉しい最中だが、今のタイミングではない。 というか、交通ルールは守ってくれ。 今度こそ横断歩道を渡りきり、約束の場所へと急ぐ。 角を曲がれば、すぐに見慣れた頭が見えた。 そして、相手も自分に気が付く。 「お、来た」 「悪い…、遅れた…」 「まだ時間じゃないよ。 セーフ」 それは、非常にギリギリだが確かにセーフだ。 だが、待たせてしまったことにはかわりない。 深く頭を下げたまま膝に手をつき、荒い呼吸を整える。 「…つっかれた…」 「遅れるって連絡くれたんだから、走らなくても良かったのに」 「走るだろ。 いくら仕事だって、約束してのはコタが先なんだし」 「優先順位が先着順って…」 琥太郎はクスクスと笑うが、笑い事ではない。 約束は信頼だ。 仕事も、私生活も、それが大切なことにはかわりない。 「ふぅん。 じゃあ、今日は奢ってもらっちゃおうかなぁ」 「おんっ。 ビールと餃子も食おうなっ」 やった!と無邪気に喜ぶ琥太郎と久し振りの外食だ。 たったそれだけで仕事の疲れは忘れ去られていく。

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