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第26話

…っつっても、気になるもんは気になるよな… それに、あの目… 星空なんてものじゃなかった。 本当に月も星もないただの暗闇みたいな。 例えるなら…… 「先輩っ、遠山先輩…っ」 「え…? あ、ごめん。 ボーッとしてた…」 「いえ…。 体調とか大丈夫ですか? 声をかけても反応しないから、びっくりしました」 「ちょっと考え事してて…。 あ、部長にはボーッとしてたの秘密でお願いします…」 「勿論です!」 仕事中だというのに、これではいけない。 せめて勤務時間は勤務のことを考えていないと、なにか大きなミスをしてしまえば信用が失われることだってある。 失った信用は取り戻すのが大変だ。 それは、信用した、という気持ちを踏みにじることだから。 傷付けられた人間は臆病になる。 もう信じたくない、と。 「で、なにか用事でした?」 「はい。 そろそろ時間なので」 腕時計を見ると、確かに営業先へと出掛ける時間になろうとしていた。 教えたことをきちんと自身で実践してくれている新人に頼りがいを知る。 自分もしっかりしなければ。 少なくとも、勤務時間中は仕事のスイッチを入れておかないとミスをやらかしてしまう。 自分が困る凡ミスならまだしも、営業部や会社に迷惑のかかるミスはまずい。 立たせっぱなしの後輩には申し訳ないが、深く息を吸い込み、ゆっくりと息を吐き出した。 「あぁ。 もうそんな時間なんですね。 教えてくれて、ありがとうございます。 よし。 行きますか」 今日は新人──吉野くんと営業回りだ。 フレッシュさに、自分に気持ちまで引き締まる。 こういう緊張感はいつまでも大切にしたいと思いつつ、慣れてしまえば忘れてしまう。 喉元過ぎればなんとやらだ。 だからこそ吉野くんから学ぶことも沢山ある。 「営業回りに、いってきます」 「俺も、いってきます」 頼もしい背中を追いながらも、頭のどこかではあの夜の目の色がまだ消えなかった。 頭にこびりついて消えてくれない。 最低な気持ちはずっと俺を抱き締めている。

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