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第28話

「東雲アグリテック株式会社から参りました、遠山です。 本日はよろしくお願いいたします」 「吉野です。 よろしくお願いいたします」 「稲生です。 こちらこそ、ご足労頂きありがとうございます」 作業着姿の初老の男性─稲生さんは、にこやかに招き入れてくれた。 初老といっても、見た目としては自分と10歳ほどしかかわらない。 ついこの間20歳になり成人になったばかりな気がするのに、あと10年で初老なのかと思うとなんだか少し物悲しい。 あんなになんでも出来ると思っていたうら若き学生時代からどれだけの時間が経ったのか。 今や守りに入ることの方が多い気もする。 「農協からも話を聞きまして、そしたら、久世くんが遠山さんなら信頼出来ますよって勧めてくれて」 「久世が…」 吉野は、一瞬、誰だ?と不思議そうな顔をしたが、話を断ち切らないようにかすぐに営業用の顔をした。 「久世くんのお墨付きなら間違いはないですよ。 彼は真面目で、ばあちゃんの話も嫌がらずに聞いてくれる人でね。 年寄りの相手なんて、めんどくさいだろうにいつもニコニコしてて」 俺が琥太郎から逃げている間にも、琥太郎はこの地でコツコツと人や作物から逃げずに向き合ってきた。 その結果として、自分が信じてもらえた。 お零れだ。 だけど、大切な零れ種だ。 着実に発芽させ花を咲かせなければ、琥太郎にも失礼になる。 背筋を伸ばして、「ありがとうございます」と頭を下げた。 「新人さんも誠実そうだ。 東雲さんなら、うちの田んぼ任せられるよ。 よろしくね」

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