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第29話

庭先を借り、ドローンを実際に見てもらう。 やっぱり百聞は一見に如かず。 大きさや重さを、見てからの方が豊かに想像することが出来る。 特にドローンのように貸し出しでも高額になってしまうものは、何度も見て、聞いて、触れて、納得してからの方が良い。 「こちらが、最新型産業用のドローンです。 最大飛行時間は1時間ほどで、AI性能、六方を検知する測位などが搭載されています。 1ヘクタール辺り、15分から30分ほどで噴霧が終わります」 「15分から30分。 やっぱり手作業とは大分違いますね。 今は2時間くらいかかるかな。 とにかく、あっつくてね。 トイレに帰るのも億劫になるし、我慢すると女房に怒られるし」 「そうですね。 歩きながら噴霧だとどうしても時間がかかりますし、暑いですよね」 1ヘクタール、つまり10反を15~30分で撒き終わるのは、手作業の1/4~1/8の時間で済むということだ。 短時間で終わらせることが出来れば、他の作業に時間を裂ける。 それに、熱中症の危険が少しでも下がるならそれこそ家族の安心にも繋がる。 説明していると、興味深そうにドローンを覗き込んだ。 「触っても良いですか?」 「はい。 勿論です」 「こりゃ、薬剤散布機より軽そうだ。 トラックに乗せてしまえば、あとは操作で動かせば良いんですもんね。 それに、歩き回らなくて良いのは便利ですね。 今年は何月から暑くなるのか、今から心配で…」 「最近は6月も暑いですからね。 車内から操作…って訳にはいかないんですけど、それでも作業自体は少し楽になると思います。 本体の重量は、バッテリー込みで18キロほどです。 これより重い物もありますし、若干軽いものもあります。 うちで1番スタンダードなものが、このタイプです」 「歩かなくて良いだけで大分違いますよ」 噴霧するパワーの分だけ大きくなり、バッテリーも合わせると重量は増えてしまう。 それでも、“歩かなくて良いだけ”で良い理由がある。 日陰のない畔や田んぼの中を噴霧器を担いで歩くことが、どれだけ危険か。 そんなの考えなくても分かる。 真上からジリジリと照り付ける太陽光は容赦がない。 いくら稲穂が育ち、水があると言ってもだ。 コンクリートにはコンクリートの、自然には自然の脅威がある。 簡単に比べたらいけない。 どちらも、恐ろしいものだ。 それに、万が一にでも田んぼで倒れたら…。 スクスク育つ稲穂の影で…。 時間になっても帰宅せず、田んぼにトラックがあれば家族はそこを中心に探すだろう。 稲を掻き分け、そこに倒れていたら。 そんな心配は、きっと大袈裟ではない。 「操作自体は、こんな感じです。 スティックですので、わりと感覚的に使えます」 動かして見せると、今度は興味深そうに手元を覗かれた。 ドローン自体は見かけても、実際に手に取る人は少ない。 そんな物が、目の前にあれば興味は沸くだろう。 どんな風に動くのか、どんな音で空を飛ぶのか。 そのワクワクは子供の心のように無邪気で純粋なもの。 そんな目をしている。 「ラジコンみたいな感じですか?」 「そうですね。 イメージとしてはラジコンですね。 他のタイプですとカメラが搭載されていて、自動車のバックモニターのように手元で見ることの出来るものもあります。 吉野、そのタイプのコントローラある?」 「はい。 こちらです」 主に撮影用の物のコントローラーを見せると、本当だ、と隣から聞こえてきた。 この年代ならラジコン世代と言われれば頷ける。 なら、興味はあるだろう。 興味深そうに見てくる目は、どこか少年のようでもある。

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