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第35話

講習1日目。 田植えも畑への作付もある程度は終わり、手が空いたタイミングで座学と実技を一気に詰め込んだかたちで講習日を設けることにした。 予定は2日間。 1日目は、座学。 風や気象、農薬の扱い、ドローンの構造や保守管理について。 2日目は、実技。 広場での基本操縦と、簡単なルート飛行の確認。 受講の最後には、技能講習修了証が交付される。 実際に農薬を扱って散布を行うには、これが必要になる。 これで、漸く、下地が整えられる。 今していることは、畑で例えるなら肥料を混ぜ込むこと。 ふかふかの土をつくり、植え付ける種や苗を選んでもらう準備段階だ。 だけど、ここから手を貸すことで信頼関係が生まれる。 美味しいところだけかっさらうなんて、うちの会社の方針でもない。 この下地から顧客を大切にする社風が魅力的で就活したのだが、本当に素敵な会社に就職出来た。 「風速5m/s…時速換算で時速18kmを超えると、GPS付きの機体でも補正が間に合わず流されます。 時速18km、これは自転車で走るのと同じくらいの風の強さです。 ですが、特に田んぼは、周囲が開けているので風がダイレクトに入ります。 その風に煽られてしまうと、ドローンは流されてしまいます」 ホワイトボードに張り出され図解に、農家の方々は顔を上げる。 スクリーンを用意しようかと提案したのだが、図解を用意すると言われ甘えてしまった。 だが、とても分かりやすく図解されたもので特に年配の方には此方の方が理解しやすいかもしれない。 これに関しては、好みだろう。 絵を覚えるか、動画を覚えるか。 分かりやすさは理解する人によっても異なる。 この辺は、今後もう少し調節していく必要があるな 吉野も真剣に受講してるし、分かりにくいってことはなさそうだな 年代問わず分かりやすいのが1番だよな 他の方からも意見聞いてみよう メモ帳に、これからの改善点や質問点を書き込みながら1番後ろの席で講義を見守る。 またも佐々木さんは用事があるらしく、外出中だ。 作付に一段落ついたからこその用事だろう。 「またドローン自体が作り出す風も考慮が必要になります。 イメージしやすいのは、ヘリコプターですかね。 プロペラで風が強く動くので、機体の下の風が動きますね。 ダウンウォッシュと言いますが、ドローンもそれと同じです。 その風を読むのも大切なことの1つです」 こうして講義を聞いていると、自分の確認にもなる。 資格をとるだけではなく、たまに確認を入れるのも良いかもしれない。 それもメモをし、あとから本社の方へと報告だ。 「プロペラの風だけで、草や稲がなびくほどの“突風”になります。 下に向けた扇風機をイメージしていただければ、分かりやすいと思います。 自分が作った風で、薬剤が流れたり、作物にダメージを与えることもあるので注意が必要です。 ですので、天気アプリより、自分がいる場所の風を見てください。 草がどれくらい揺れているか、帽子が飛ばされそうか。 自分の体がどう感じているかが、一番の指標になります。 その感覚の方が正確です。 この地で長年農業をされている皆さんは、ここの風を読むのもお上手でしょう」 講師はにこりと笑う。 褒めるというより、当然のことだとでも言うように。 それを受けてか、何人かが小さく頷いた。 普段は農業大学で勤務されている講師の方は流石に教え方が上手い。 事前に挨拶に伺った時に、時々農業高校でも出張授業をすると言っていた。 色々な世代の方と関わる分、言葉の選び方が上手なのだろう。 高齢の方でも分かるように専門用語以外の言葉を選択しているのが分かる。 それに、やる気を出させるのが上手だ。 尊重し、褒めて伸ばすのは、どの年代でもやはり嬉しいこと。 それをサラリと話に混ぜる。 自分の仕事にも生かせそうだなと、メモをとった。

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