53 / 111
第47話
久し振りに熱が出た。
昨日、雨の中、農作業を手伝ったからだ。
おばあちゃん1人では出来ない…と困っていたからびしょ濡れになりながら作業をしたのだが、このザマだ。
おばあちゃんが風邪をひかなくて良かった。
こういう時の為の農協なんだから。
それに、体力的にも俺なら堪えきれる。
おばあちゃんが肺炎になったりせずにいてくれるなら、有給消化を消化するくらい安いものだ。
けど、具合が悪くなると人肌が恋しくなる。
移ったらいけないから会えないと分かっているのに、1人は心細い。
寝たり起きたり、ぼんやりとした意識の中で人の気配に気が付いた。
「なん、で…」
「んー、俺が会いたいから」
優しく微笑む龍雅さんに、弱った心は泣きそうだ。
冷たい手が目尻をなぞった。
もしかしたら、本当は泣いていたのかもしれない。
分かるのは、冷たい手の優しさだけ。
じんわりと伝わる優しさに心が包まれていく。
「具合が悪いと心まで弱っちゃうよね。
俺がいるから安心して」
「あ、りがとございます」
「うん。
どういたしまして」
重くなっていく目蓋を閉じても、頬を撫でていてくれる。
ゆっくりと、優しく、気持ちを伝えるように。
安心して眠れる。
ずっと触れていてくれた優しい手に、俺は自分の気持ちをはじめて自覚した。
ともだちにシェアしよう!

