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第47話

久し振りに熱が出た。 昨日、雨の中、農作業を手伝ったからだ。 おばあちゃん1人では出来ない…と困っていたからびしょ濡れになりながら作業をしたのだが、このザマだ。 おばあちゃんが風邪をひかなくて良かった。 こういう時の為の農協なんだから。 それに、体力的にも俺なら堪えきれる。 おばあちゃんが肺炎になったりせずにいてくれるなら、有給消化を消化するくらい安いものだ。 けど、具合が悪くなると人肌が恋しくなる。 移ったらいけないから会えないと分かっているのに、1人は心細い。 寝たり起きたり、ぼんやりとした意識の中で人の気配に気が付いた。 「なん、で…」 「んー、俺が会いたいから」 優しく微笑む龍雅さんに、弱った心は泣きそうだ。 冷たい手が目尻をなぞった。 もしかしたら、本当は泣いていたのかもしれない。 分かるのは、冷たい手の優しさだけ。 じんわりと伝わる優しさに心が包まれていく。 「具合が悪いと心まで弱っちゃうよね。 俺がいるから安心して」 「あ、りがとございます」 「うん。 どういたしまして」 重くなっていく目蓋を閉じても、頬を撫でていてくれる。 ゆっくりと、優しく、気持ちを伝えるように。 安心して眠れる。 ずっと触れていてくれた優しい手に、俺は自分の気持ちをはじめて自覚した。

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